日本経済史におけるバブルの意味

日経ビジネス2017.05.2 No.1892『「バブル」を知る3冊』に掲載された書評です。

 最近、バブルを懸念する声をしばしば聞く。確かに地価は上昇に転じ、不動産担保融資などバブル期を彷彿とさせる金融商品が盛り上がり見せている。
 だが、企業も個人もバブルに踊り、誰もがバブルに翻弄された1980年代後半の空気とは、明らかに違う。実際のバブルを知るのに好適な3冊を紹介したい。
 相場英雄の小説『不発弾』は、バブル当時の証券市場の空気を見事に描き出している。仕組み債、特定金銭信託、損失補填、飛ばし……。当時を象徴するキーワードを知り、それがどう使われていたかを振り返るには小説という形は最適だ。だが、本の終盤を除き、作中で起きる事件の大半は実際に起きた経済事件にモチーフを得ている。
 そんな事が実際にあったのだろうか、と疑問に思ったら、次に読むべき本は、『野村證券第2事業法人部』だ。こちらは、あたかも小説のような話の連続だが、フィクションではない。
 入社して配属された支店での武勇伝は、当時の証券会社のモーレツぶりを示している。同期が次々と辞めていく中で、生き残った筆者が栄転するのを損をさせた旅館の当主が見送る。「俺の数億、無駄にするな。立派になれよ」。そんな言葉に涙したと筆者は書く。
 筆者が転勤した先が企業の資金調達や資金運用を担当する「第2事業法人部」だ。バブルにまみれた企業の裏方はきれい事では済まされない。「財テク」と呼ばれた株式投資で巨額の損失を被った企業に、まるでばくちのような金融商品を売り込んで損を取り戻させる。
 バブル当時の企業や経営者の行動が、実名で赤裸々に語られ、問題のオリンパスとの出会いも実名で明かされる。
 筆者は2011年に発覚したオリンパスの巨額損失隠し事件で、「指南役」として逮捕されるが、今も無実を主張して今も法廷で争う。後半はいかに自分が無実であったかを訴える話が中心だ。

バブルの歴史的な意味とは
 果たしてバブルとはいったい何だったのか。バブルを俯瞰するのに最適なのが『バブル:日本迷走の原点』。筆者の永野健二氏は日経新聞の名物記者で、『日経ビジネス』の編集長も務めた。証券界の大立者だった「大タブチ」こと、野村証券会長の田淵節也氏の懐に飛び込み、数々のスクープをものにした。
 そんな永野氏が本書でこだわっているのがバブルの歴史的な意味づけだ。政・財・官が一体となった「日本システム」が、このバブル期を境に崩壊していったと永野氏は言う。幻に終わったミネベア蛇の目ミシンへのTOB(株式公開買い付け)や、やはり実現しなかった野村モルガン信託などの陰には、大物政治家や大蔵省、経済人が暗躍していた。そんな「日本システム」の暴走が、イトマン事件などバブルを象徴する巨大経済事件に結びついていく。
 日経記者の中でも、バブルの空気を知り尽くした人物である永野氏が語る「総括」には一読の価値がある。

不発弾

不発弾

野村證券第2事業法人部

野村證券第2事業法人部

バブル:日本迷走の原点

バブル:日本迷走の原点