欧州「マイナス金利」効果がジワリ。宝飾品株が上昇

隔月刊の時計専門雑誌「クロノス日本版」に連載しているコラムです。時計の動向などから景気を読むユニークな記事です。7月号(6月上旬発売)に書いた原稿です。

高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]→http://www.webchronos.net/

クロノス日本版 2017年07月号 【雑誌】

クロノス日本版 2017年07月号 【雑誌】

 欧州景気が急速に回復している。欧州中央銀行(ECB)が導入している「マイナス金利」の効果が出ている結果だ。株価や不動産など「実物資産」の価格が上昇を続けている。高級時計・宝飾品などの先行きの好調を見込んでか、リシュモンやLVMH、スウオッチ グループの株が昨年秋から買われ、戻り高値を付けている。
 欧州中央銀行は4月27日に開いた理事会で、金融緩和姿勢を維持する方針を決めた。政策金利を引き続きゼロ%に据え置いたほか、欧州域内の金融機関がECBに余剰資金を預け入れる際の金利(中銀預金金利)もマイナス0.4%に据え置いた。いわゆる「マイナス金利」を継続する方針を示したわけだ。
 ECBによる金融緩和の継続は、ようやく明るさがみえてきた欧州景気の下支えと、物価がデフレに陥ることを防ぐため。金融機関から資金が市中に流れることで、企業の設備投資や個人の消費を喚起するのが狙いだ。
 マイナス金利によって、市中銀行は資金をECBに預金しておくと手数料が取られることから、低金利で市中に貸し出しするようになる。企業の設備投資にはなかなか火が付かないこともあり、不動産投資や株式投資へと資金が回る結果となっている。フランクフルトなど欧州主要都市の不動産価格は上昇が続いており、株価も反転してきた。
 ドイツ株価指数DAX)は昨年夏には1万ポイントを下回っていたが、秋口から上昇を続け1万2700ポイントを超え、2015年4月の高値を抜いた。世界的な景気回復の流れも株価の上昇を後押ししているが、マイナス金利の効果が大きいのは明らかだ。
 そんな株式市場で上昇が目立つのが高級ブランド企業の株価。スイスに本社を置く高級時計宝飾グループであるリシュモンの株価は、昨年9月の56スイスフランから急上昇、5月には85スイスフランを付けた。2014年に付けた94スイスフランの高値更新も視野に入ってきた。
 同じスイスに本拠を置くスウオッチ グループの株価も昨年9月の250スイスフラン台から5月には400スイスフラン台を突破した。600スイスフランに迫った2013年末にはまだ及ばないが、まさにV字回復である。
 フランスに本拠を置くLVMHモエ・ヘネシールイ・ヴィトンは大幅に高値を更新している。昨秋の130ユーロ台から一気に上昇、5月には230ユーロ台に乗せた。
 高級宝飾品の売り上げ自体はまだまだ厳しさが残っており、各社の利益が大幅に増えているわけではない。それでも株価が大幅に上昇しているのは、資産価格の上昇で期待値が上がっているからに他ならない。
 高級時計や宝飾品の需要は、不動産価格や全体の株価の上昇に大きく左右される。いわゆる「資産効果」と呼ばれるもので、富裕層が持つ株価や不動産の価値が上昇することによって、財布のひもが緩むという現象だ。日本でもアベノミクスの開始で株価が大幅に上昇した2013年には宝飾品販売が大きく伸びた。
 マイナス金利の継続によって不動産価格などが上昇、「資産効果」がやってくると見ているわけだろう。ちなみに、個別の株価はおおむね半年後を映す鏡だとされるので、今年の年末は欧州での宝飾品販売は絶好調、ということになるのかもしれない。
 では、日本はどうか。日本銀行も「マイナス金利」を導入したものの、適用しているのは当座預金のごく一部で、その効果は十分とは言えない。それでも不動産融資の増加などで都心部の不動産売買は目に見えて活発化している。日本銀行周辺のエコノミストは「バブルだ」としてマイナス金利政策の撤回を主張しているが、安倍内閣が行った日本銀行政策委員会審議委員の入れ替えの顔ぶれをみると、金融緩和派が依然力を持ちそうだ。
 欧州同様、マイナス金利が続くということになれば、日本でも「資産効果」によって高級時計・宝飾品の販売が大きく上向くタイミングがやってくるかもしれない。