産経新聞社が発行する日刊紙「フジサンケイビジネスアイ」のコラムに6月21日に掲載された原稿です。オリジナルページ→http://www.sankeibiz.jp/business/news/170621/bsg1706210500002-n1.htm
3月期決算企業の株主総会が本格的に始まる。東京証券取引所によると最も集中するのが来週29日で東証上場3月期決算企業の約30%、次いで28日の18%、今週23日の16%となっている。
そんな今年の株主総会での一つの焦点は「相談役・顧問」の扱いだ。政府が9日に閣議決定した成長戦略「未来投資戦略2017」に、退任した社長兼最高経営責任者(CEO)が就任する相談役や顧問について「氏名、役職・地位、業務内容などを開示する制度を株式会社東京証券取引所において本年夏頃を目途に創設し、来年初頭を目途に実施する」とされた。社長OBが居座って、現役社長や取締役よりも強い権力を握り続ける日本企業の「慣行」にメスを入れようというわけだ。
これを先取りする形で、顧問や相談役を廃止する企業も出始めた。また、機関投資家に議決権行使をアドバイスする米国の助言会社は、企業が新たに定款に顧問や相談役などを設置する議案を出した場合には、反対するよう推奨している。
本格化する株主総会でも個人投資家などから、顧問や相談役の有無などについて質問が出ることが予想される。28日に大阪で開く武田薬品工業の株主総会では、長谷川閑史会長が取締役を退任して相談役に就くことになっているが、株主から相談役などを置く場合には株主総会で議決するよう求める株主提案が出されている。
総会で選ばれる社外取締役の中には経営者OBも多く含まれるが、社長や会長などを務めた「古巣」の相談役や顧問といった肩書を持ち続けている人が少なくない。こうした人たちの選任への賛成票の割合も減る可能性がある。
ひと昔前と違って、社長や会長の報酬は大幅にアップした。欧米企業に比べればまだまだ低いが、それでも年間1億円以上を得るトップが大勢いる。東京商工リサーチの昨年の調査では211社で414人が1億円以上の報酬を得ていた。もはや、「社長は薄給なので、退職後も顧問などとして面倒を見続ける必要がある」といった理由付けはできなくなってきている。
社長OBの相談役らが、強権を振るうかどうかは別として、会社にしがみ付き続けるのは、自分のアイデンティティーがそこにあると思うからだろう。○×会社の社長をやった誰々、ということで財界活動や他社の社外取締役に呼ばれている。決して個人の能力ではないと感じているからに違いない。また、財界活動を行うにしても、秘書やスタッフ、車などが必要だという、実利的な必要性もあるだろう。
だが、社長OBらは世間相場からすれば十二分な報酬を得てきたのだから、退任後は自分で事務所を作りスタッフを雇うなど自立することが不可欠だろう。他社から「独立社外取締役」として迎えられるような人物こそ、まず、自らが古巣から「独立」することが不可欠だ。相談役などとして居座り続けるのは、プロ経営者として恥ずかしい。