日本の百貨店復調の理由は「爆買い」か「日本人の消費回復」か 本格的な上向きの可能性も

現代ビジネスに7月26日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52406

東京は11カ月ぶり、京都は15カ月ぶり

減少が続いていた百貨店売り上げに「復調の兆し」が出てきた。日本百貨店協会が発表した6月の百貨店売上高は店舗調整後の対前年同月比較で、1.4%増となった。10都市合計の売上高は4カ月連続のプラスになった。

中でも最大の商圏である東京が11カ月ぶりにプラスになったことや、京都が15カ月ぶりにプラスになるなど、久しぶりに水面上に顔を出した地域が目立った。

けん引役は訪日外国人による「インバウンド消費」の持ち直し。同じ百貨店協会がまとめた「免税総売上高」は184億8000万円と前年同月比で41%増えた。

昨年は中国人観光客による「爆買い」が一服していたが、今年1月あたりから持ち直している。1月の免税総売上高は217億円と、それまでのピークだった2015年4月の197億5000万円を上回り、過去最高を更新。その後、4月には221億6000万円と更に記録を塗り替えた。

焦点は7月の免税総売上高がどこまで伸びるか。7月は例年、月別にみて最も外国人旅行者数が日本を訪れる月。当然、百貨店での免税売り上げにも期待がかかる。2年前の185億2000万円を上回ることができるかどうか。さらに4月の221億6000万円の月間最高額を更新できるかどうかが注目される。

もっとも、ひと頃とは「爆買い」の様相も変わって来た。185億円余を記録した2年前の7月は、免税客の平均単価が7万5800円だったが、昨年7月は5万2000円にまで低下。

今年に入って急速に戻したとはいえ、6月は6万3000円だった。「爆買い」が話題になった当時とは単価が1万円以上下がっているのである。ハイエンドのブランド消費を手あたり次第に買うような旧来型の「爆買い」は一段落し、化粧品や身の回り品、食料品などを買っていくケースが増えた。

中国人に代わり東南アジア観光客が牽引

それでも旅行者の増加は大きな支援材料だ。日本政府観光局(JNTO)の推計による訪日外客数は6月も234万7000人と、6月としての過去最高を更新した。

7月の訪日外客数の過去最高は昨年7月の229万5668人。これを更新するのはほぼ確実だが、月間最多だった今年4月の257万8970人を上回って新記録を作れるかどうかがカギになる。

もっとも、訪日外客数も、国別にみると様相が変わりつつある。中国からの訪日客数の伸び率を、対前年同月比でみると、プラスに転じた2013年9月以降、今年1月までの41か月中、2ケタ以上の伸びが40カ月で、1ケタの伸び率だったのは2016年9月の6.3%増だけだった。

ところが、今年2月以降、2.0%増→3月2.2%増→4月2.7%増→5月2.0%増と1ケタの伸びが続き、6月は遂に0.8%増にとどまったのである。中国からの日本への旅行者数急増というここ数年の傾向に大きな変化が起きているわけだ。

香港やシンガポール、台湾といった地域からの旅行者は順調に増えているほか、インドネシア、マレーシア、ベトナムなどからの旅行者が急増しており、全体としては増えているのだが、中国人の伸び率鈍化が鮮明になってきた。

中国からの訪日客が頭打ちになることで、インバウンド消費に大きな変化が出て来る可能性もある。特にハイエンドのブランド商品などをターゲットにしたかつての「爆買い」が再び盛り上がることはないかもしれない。

明るさが見えてきた百貨店の売上高だが、インバウンド消費への依存度が大きいと、中国人旅行者の頭打ちと共に、一気に消費が失速してします可能性もある。

まだ国内消費は底入れ手前

月別の百貨店売上高から免税売り上げを引いて、「実質国内売り上げ」を計算してみた。対象店舗数も違ううえ、免税手続きした売り上げ以外にも「インバウンド消費」は含まれるため、必ずしも差額がすべて日本人による国内消費とは言い切れないが、ひとつの見方にはなる。

すると、全体では売上高の増減がプラスに転じた6月でも、実質国内売り上げはマイナスが続いていることが分かる。店舗数を無視して比較すると、マイナス0.7%である。昨年夏ごろにはマイナス5%前後がつづいてきたので、実質的な国内売り上げも回復途上にあると見ることもできる。

6月の商品別売り上げをみると、「身の回り品」が店舗数調整後で2.8%増、「美術・宝飾・貴金属」が4.6%増、「子供服・用品」が4.6%増となっている。また、訪日外国人に人気の「化粧品」は16.7%増と2ケタの伸びが続く。

身の回り品や宝飾品、化粧品は外国人旅行者が購入する人気商品でもあるが、消費が底を打って回復を始める際に、まず動き出す商品とみることもできる。現状ではインバウンド頼みから脱しているとは言い難いが、それでも国内消費に明るさがないわけではない。

特に10都市をみると、「子供服・用品」だけでなく、「婦人服・用品」や「紳士服・用品」もプラスになっており、衣料品全体でも0.8%の振り上げ増になった。子供服から婦人服へ、そして紳士服へという売り上げ増のサイクルは、消費回復期のパターンである。

大都市部では、「食堂・喫茶」もプラスになり、食料品の中でも「菓子」や「総菜」などが伸び始めている。

現在の日本経済で最大の問題が「国内消費」だ。政府は経済界にボーナスや給与の積み増しを働きかけている。給与などの増加によって可処分所得が増えてくれば、本格的に国内の消費が上向いて来る可能性はある。ここで消費が底を打つのかどうかに注目したい。