東芝の上場廃止問題が、まるで「ババ抜き状態」になってきた これは前代未聞の珍事だ

現代ビジネスに8月9日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52549

まるで監査法人に責任があるかのように

経営危機に直面している東芝の、2017年3月期決算の有価証券報告書の提出期限が8月10日に迫ってきた。

東京証券取引所上場廃止基準では、監査報告書の「法定提出期限の経過後1カ月以内に提出しない場合」、上場廃止になると定められているが、東芝金融庁の許可を得て期限を延長している。その期限がやってくるのだ。

東芝有価証券報告書を提出できずにいるのは、監査法人から決算書の内容が正しいことを証明する「監査意見」が得られないため。東芝側は「決算はできているのだが、担当のPwCあらた監査法人が、意見を出そうとしない」(社外取締役)と監査法人側に問題があると言わんばかりだ。

監査法人は昨年12月になって突如として表面化した米国の原子力子会社の巨額損失が、実際にはそれより前に計上されるべきだったのではないか、として過去の決算のやり直しを求めている模様だ。それを認めて、過去の決算を修正すれば、粉飾決算を自ら認める格好になるだけに、東芝としては受け入れられないわけだ。

PwCあらたには各方面から監査意見を出すよう圧力がかかっている。あらたとしては、決算が正しくないとする「不適正意見」を出すか、昨年の第4四半期に続いて「意見不表明」という結論を出す見通しである。

上場廃止条件は満たしているが

東証上場廃止基準には、監査報告書に「『不適正意見』又は『意見の表明をしない』旨等が記載された場合であって、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」は上場廃止になる、とある。

ルール通りに適用するとすれば、有価証券報告書を出せなければ即、上場廃止が決まる。だが、「不適正意見」が付いた有価証券報告書でも提出され、上場廃止はとりあえず免れる。「当取引所が認めるとき」という条件が付いており、「市場の秩序維持が困難かどうか」審査することになるからだ。

これまでも東芝は、上場廃止の基準に抵触している。まず最初が「有価証券報告書に虚偽記載を行った場合」。2015年に不正会計が発覚し、同年末には金融庁から「虚偽記載があった」と認定されて、課徴金をかけられた。

本来ならば、この一事をもって上場廃止になるはずだが、東証上場廃止規定の虚偽記載についても、不適正意見同様、「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」という一文が付いている。東証東芝を上場させ続けたので、「秩序維持が困難」だとは判断しなかった、ということになる。

ただし、粉飾決算を起こさないような社内体制が整っているかをチェックするため、「特設注意市場銘柄」に指定した。通常は1年たって会社が報告書を出すと解除されるが、東芝の場合、別の不祥事が発覚し、さらに半年延期された。その期限が今年3月14日で切れ、現在は、東芝が提出した報告書を、東証が審査している最中だ。内部体制が整っていないと判断されれば、上場廃止になる。

もうひとつ「抵触しそうな」項目がある。「債務超過の状態となった場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったとき(原則として連結貸借対照表による)」というものだ。ここには東証の判断は入らない。東芝は今年3月末に債務超過になっており、来年3月末までに債務超過を解消しなければ、上場廃止だ。

これを避けるために、経営陣は虎の子の半導体事業を売却し、数兆円の資金を獲得して債務超過を解消するとしている。

引鉄をひいたといわれるのはいやだ

上場廃止にするかどうかは、東証に設けられた自主規制機関の理事会が決めることになっている。理事長は金融庁長官のOBだ。どうも理事長が決断するのをためらっている、という。外部理事の弁護士や会計士は上場廃止やむなし、という意見に傾いているが、理事長が決断しないというのだ。

有価証券報告書が出せなかったり、債務超過が解消できないなど、外部要件でアウトにならない限り、東証の判断で上場廃止にするのは難しい」と理事のひとりはいう。

規定では「市場の秩序維持が困難なことが明らか」な場合、とかなり厳しい要件が付いており、株主などから訴えられる可能性を恐れているのかもしれない。東芝上場廃止しなくても市場の秩序は保たれているという反論を懸念しているのだろうか。

いずれにせよ、誰も、ババを引きたくない状態になっているのだ。昔ならば、不適正意見の付いた有価証券報告書など大蔵省(現金融庁)は受け取らなかっただろう。受け取りを拒絶して上場廃止になれば、金融庁がトリガーを引いたことになるから、不適正意見であろうが、意見差し控えであろうが、受け取るに違いない。

仮に、8月10日に「不適正意見」の付いた有価証券報告書東芝が出し、金融庁の財務局がそれを受け取った場合、東芝は、株主総会を開いて、その決算書を報告することになる。配当などの剰余金処分がなければ、決議事項にはならない。決算報告で株主から批判はされても、総会を終えれば、何事もなかったかのように上場企業として存続していくのだろうか。

いずれにせよ、前代未聞の珍事である。