東芝「経営陣続投」に、機関投資家が続々反対の舞台裏 臨時株主総会はどうなるの…?

現代ビジネスに9月20日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52933

続々開示、6月株主総会の中身

東芝の今年6月の株主総会で、綱川智社長ら現経営陣の再任に多くの機関投資家が「反対票」を投じていたことが明らかになってきた。生命保険会社や信託銀行、アセットマネジメント会社など機関投資家が、保有する株式の議決権行使の内容を個別開示する動きが広がっており、今年6月の株主総会での対応が明らかになった。

みずほ信託銀行は、綱川社長ほか東芝の取締役候補者全員の再任に反対したほか、三井住友アセットマネジメント日興アセットマネジメントが同様に取締役全員の再任に反対票を投じた。また、野村アセットマネジメントは綱川社長と代表執行役専務でCFO最高財務責任者)の平田政善氏に「バツ」を付けた。

大和証券投資信託委託は再任議案に賛成したものの、備考に「任期が、計算書類が提出される『臨時総会』までとなっているため賛成(『臨時総会』の日程は、7月31日から3カ月以内と発表されている)」と理由を記した。あくまで臨時総会までの「つなぎ」という前提で賛成したものだとしているわけだ。

機関投資家のあるべき姿を示す「スチュワードシップ・コード」によって、生命保険会社などは保険契約者の利益を第一に議決権行使を行うこととされた。保有株が取引先の企業だったり、長年の資本関係があった場合、従来は会社側提案に無条件に賛成するケースが多かったとされる。

ここ数年、議決権行使の基準などを公表する流れになっていたが、今年から個別議案ごとの賛否を開示する動きが広がっている。

9月中旬までに信託銀行4行(三井住友信託、三菱UFJ信託、みずほ信託と信託兼営のりそな銀行)、資産運用会社5社(野村アセットマネジメント〈AM〉、日興AM、三井住友AM、ニッセイAM、大和証券投資信託委託)が開示。

生命保険会社は住友生命保険が既に開示したほか、明治安田生命保険は特別勘定についてのみ開示。第一生命保険は9月中に開示するとしている。最大手の日本生命保険は当面、個別開示を行わない方針を示している。

銀行団の支持で6月を乗り切った東芝

個別開示内容を見ると、不祥事を起こした企業や業績が長期にわたって不振な企業の取締役選任に反対するケースが出ている。

その中でも今年6月総会の最大の焦点が東芝だった。監査法人との対立から定時株主総会に決算書を示すことができず、決算の承認を先送りして、役員の選任などを議案とする異例の総会になった。

上記の機関投資家は、その選任議案に反対したのである。綱川社長ら現経営陣(社外取締役を含む)は、不正会計問題の発覚で歴代社長らが辞任した2015年9月以降に選ばれた人たちだが、その後、順調だとしていた米原子力子会社で巨額の損失が発生することが発覚。決算ができない異常事態に追い込まれた。

監査を担当したPwCあらた監査法人と監査を巡って対立。決算書も提出できない状態が続いた。そうした経営陣に「経営者失格」の烙印を押したとも言えるだろう。

機関投資家の中でもニッセイAMや住友生命保険三菱UFJ信託銀行などは東芝の取締役選任議案に「賛成」していた。機関投資家の間で意見が割れた格好だが、今後、なぜ賛成なのか、反対なのかが問われることになる。

米国の議決権行使助言会社ISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)は選任議案すべてに反対するよう助言しており、賛成した場合には説明責任が生じる。

6月の東芝の総会では綱川社長の選任議案への賛成票は89.0%と9割を割り込んだ。また、平田専務への賛成票も89.06%だった。いずれも反対票が10%を上回った。それでも大半の株主から「支持」されたのは、大株主である銀行などが賛成に回ったためとみられる。

「賛成票」ばかりでいいのか

焦点は10月末にも実施される臨時株主総会での綱川社長らの選任議案にどれだけの機関投資家が反対票を投じるか。

6月には賛成していても、10月に唯々諾々と賛成票を投じるかどうかわからない。というのも、半導体子会社東芝メモリーの売却を巡って二転三転を繰り返しているからだ。

銀行団からは8月31日までが売却期限とされていながら決められなかった。

9月13日の取締役会直前には、米WD(ウエスタンデジタル)と米ファンドKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)に産業革新機構などが加わった日米連合に決まったとみられた。

だが、米ファンドのベインキャピタルに韓国のSKハイニクス、日本政策投資銀行などが加わった「日米韓連合」が新提案を行い、直前で話がひっくり返った。米アップルがベインキャピタル側に参入するというのが柱で、これに東芝の経営陣が飛びついたとされる。

KKRの関係者は、「経済産業省もOKを出して話が固まったところに対案が出てきた。東芝半導体の幹部はWDに買われることを嫌っており、それを綱川社長が押え切れなかった」と話す。

東芝社内で医療機器部門が長かった綱川氏が、半導体事業や原子力事業の幹部たちに何も言えない「統率力の欠如」が問題だとする声は根強い。要は、現経営陣は現場の各事業部を掌握しきれていないというのである。

社外取締役は大物ぞろいとはいえ、「(元会長の)西室泰三氏に一本釣りされた」とされる人物も少なくない。経営力が買われて社外取締役に就いたわけではない人たちに、機関投資家や金融機関が引き続き「賛成票」を投じ続けることが許されるのか。

10月下旬に臨時株主総会を開くとして、その内容に半導体の売却を含むとすれば、タイムリミットはもう目の前に迫っている。