結局、希望の党の「経済スタンス」が見えないという大問題 「保守」なのか「革新」なのか

現代ビジネスに11月8日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53439

希望の党の方向性はこれから

希望の党の共同代表選びが始まった。所属国会議員による選挙で決めることになっており、11月8日に告示、10日に開票される。いずれも民進党出身者の大串博志氏、泉健太氏、玉木雄一郎氏が真っ先に立候補を表明。これに渡辺周氏なども加わり、混戦模様だ。

選挙の結果、誰がトップになるかによって、希望の党が向かう方向は大きく変わりそうだ。希望の党小池百合子東京都知事が代表を務めるが、選挙の敗北を受けて小池氏は都政に集中する方針を示している。このため、今回選ばれる共同代表が実質的に国政における希望の党の方向性を決めることになる。

そんな中で、希望の党所属の議員は大きく2つグループに分けられる。ひとつが、実質的に元の「民進党」に戻ろうという議員たちのグループ。今回の総選挙での希望の党の当選者50人のうち40人は民進党から合流した議員だということもあり、元の仲間である立憲民主党と協力関係を築いていくことを模索しようというグループだ。大串氏や渡辺氏はこうした方向に動くのではないか、とみられている。

もうひとつのグループは、もはや民進党では選挙は戦えないと割り切っている議員たち。玉木氏らは当選者の平均年齢が40歳台であることをアピール、「新しい党」であることを前面に打ち出すべきだとしている。左派色の強い立憲民主党とは一線を画し、小池氏が打ち出した「寛容な改革保守政党」という枠内で、中道勢力を結集する核を作るという戦略のようだ。こうした議員の多くが、仮に民進党として選挙を戦った場合でも、大敗北を喫したのは間違いないという見方を持つ。

経済政策の路線問題で軋轢

前者の姿勢を取る候補者が代表になった場合、小池氏の掲げた「保守」の色彩は薄れ、リベラル色が強まることになりそう。特に安全保障や憲法改正に対する姿勢は、希望の党が掲げたものとかい離し、元の「民進党」路線へと戻っていくだろう。

一方で、後者の方向を目指す候補者が代表になっても前途は多難だ。民進党に属してリベラル色の強い政策を表明してきた議員が、保守に「転向」するのは容易ではない。

とくに難しいのが経済政策だ。希望の党は選挙戦で、企業の内部留保に課税することや、国民に一定の所得を保証するベーシックインカムの導入などを掲げた。この2つの政策は極めてリベラル色の強いものだが、民進党議員の合流から投票日までほとんど時間がなかったこともあり、所属議員の間でほとんど議論されていない。

一方で、「保守」的な改革による成長重視の政策を標ぼうしていたはずの小池氏の姿勢とも相いれない。分配中心の経済政策を掲げて「保守」と言えるのかどうか。

さらに、民進党の支持母体だった連合との関係をどうするかがもうひとつの焦点になる。小池氏は選挙後、連合の神津里季生会長に会い、希望の党候補者への連合の支援に謝意を表した。だが、保守政党を標ぼうしながら、労働組合に支援を求め続けるということはあり得るのかどうか。大いなる矛盾を抱え込んだと言えるだろう。

選挙では希望に加わらず無所属で戦った民進党出身の議員が、今後、希望に加わってきた場合も問題が生じる。

すでに民進党の前代表だった前原誠司氏は希望に入党届を提出している。前原氏が仮にそれなりのポストに就いた場合、「希望は民進が看板をかけかえただけ」という印象がさらに強まる。

野田佳彦元総理や岡田克也元副総理など、民主党政権の看板だった議員が合流すれば、決定的だ。希望は「保守」なのか「革新」なのかまったく分からなくなる。

政治家の「主義主張」はどこに行った?

そんな希望の党が次の選挙を戦うことができるのか。衆議院解散総選挙は先としても、2019年には参議院議員選挙がある。参議院ではまだ民進党が存続しているのも、所属議員たちがどこの看板で選挙を戦えば有利かを見極められないからだろう。

左派色の強い議員は立憲民主党への合流を模索しているが、「立憲民主は今がピーク」(民進党参議院議員)という見方もある。

なぜ、これほどまでに政策と政党が「ねじれ」ることになったのか。最大の理由は「政策よりも当選」を重視する前職議員が多かったことだろう。小選挙区で当選した希望の党の議員の中には、支援者から無所属で立候補すべきだったと批判されているという議員もいるが、希望に合流した理由は「仲間をひとりでも多く比例で当選させるため」だったという。

現在の衆議院選挙制度では、小選挙区で落選しても比例区に重複立候補し、所属政党の比例票が多ければ復活当選することができる。初めから復活を頼みにしている候補者も少なくない。一方で、無所属で立候補すれば、比例区からは出られず、復活当選もなくなる。

つまり、どんなに党の政策と議員自身の主義主張が違っても、比例で票を集められる政党に所属しなければ当選はおぼつかないのだ。選挙前に離合集散して、「追い風」が吹いている政党にどう移るかが、議員の才覚として必要になっている、というわけだ。

政治家が主義主張を軽んじれば政治家とは言えないだろう。そんな心根を国民に見透かされたからこそ、民進党から希望の党に合流した議員たちには猛烈な逆風が吹いたに違いない。

それを教訓とするならば、主義主張を同じくする政治家が集まって政党を作ることがますます大事になるだろう。代表が誰になるかにかかわらず、希望の党の議員たちに求められるのは、そうした「腹のくくり方」だと思われる。