リニア問題で分かった「ゼネコン談合」をなくすには結局これしかない 誰が本気になるべきか、が大切だ

現代ビジネスに12月20日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53893

相変わらずの談合
企業による「不正」に明け暮れた今年を締めくくるかのように、リニア中央新幹線の工事を巡る大手ゼネコンの入札談合事件が発覚した。

新聞各紙の報道によると、12月19日時点で、大林組がスーパー・ゼネコン4社による受注調整をしていた事実を自ら認めたことが明らかになった。

談合など独占禁止法に違反したことを、公正取引委員会に早期に自主申告すると、企業に課される課徴金が減免される「リーニエンシー」と呼ばれる制度がある。大林組はこれに基づいて、委員会に申告していたことが判明したという。

これによって、大林組のほか、鹿島建設清水建設大成建設スーパーゼネコン4社が、リニア新幹線の工事15件で受注調整を行っていたことが、ほぼ確実になった。東京地検特捜部と公正取引委員会は4社の本社などを家宅捜索しており、容疑が固まり次第、立件される見通しだ。

リニア中央新幹線は東京―大阪間の438キロメートルを67分で結ぶ、総工費9兆円の巨大プロジェクト。JR東海などは2015年8月以降、ゼネコン各社が組成した共同企業体(JV)などと計22件の工事契約を締結したが、4社のJVはこのうち約7割にあたる計15件を受注。各社3、4件ずつほぼ均等に受注していた。

大手建設会社による談合は、これまでも繰り返し表面化し大きな社会問題になった。

1993年に発覚したゼネコン汚職事件は、政界を巻き込む大スキャンダルに発展。それ以降は公共事業を巡る汚職や談合事件はやや下火になったとみられてきた。大手企業の間でコンプライアンス法令遵守)が重視されるようになったことも大きい。

今回のリニア中央新幹線の工事は、通常の公共事業と異なり、民間企業であるJR東海が発注している。このため、特捜部は偽計業務妨害などを突破口に事件に着手、公取委は不当な取引制限を禁じた独占禁止法違反を罪状としている。

いずれにしても、談合をすることで価格を調整した結果、入札による本来の競争が起きず、不当に高い価格となったという容疑だ。

開き直りの論理
しかし、大手ゼネコンは懲りずに談合を繰り返すのだろうか。発注する側も受注するゼネコン側にも「談合は必ずしも悪いことではない」という潜在意識が今でも残っている。価格で競争をして叩き合えば、工事の品質にかかわるから、むしろ受注調整して、それぞれが得意な工事を高い価格で受注する方がいい、というのである。

直接、談合の場に出席する社員にも罪悪感は薄い。受注調整することで、すべての会社が儲けられるわけで、会社のためになるからやっている事だ、と思っている。会社の経営トップは、公式には談合はダメだと言いながら、利益を確保するためには仕方ない「必要悪」だと思っている。

公取委がうるさいから」というだけで、自分たちのやっている事が、不正だとは感じず、ましてや犯罪ではないと思っているのだ。何せ、談合で私腹を肥やしている社員はいない。

そこには、談合によって競争がなくなり工事価格が上昇すれば、そのツケは新幹線を利用する乗客に回る、という発想が抜け落ちている。JR東海も事実上、独占状態を許されて利益をあげているという現実を直視しないわけだ。

要はトップの本気度ひとつ
東芝粉飾決算や、神戸製鋼の品質データ偽装といった、今年大きな問題になった「不正」は、経営者や社員の罪悪感が薄い、という共通点がある。まさに談合と同じ感覚なのだ。自分の私利私欲をむさぼったわけではなく、会社の利益のためにやったまで、お客さんには迷惑はかけていない、というものだ。そんな長年の社風が染みついているわけだ。

こうした「不正」をなくすのは難しいことではない。まずは社長が「絶対に談合はするな」と厳命すること、そして、「談合をやった社員は絶対に許さず、とことん刑事責任を追及する」と公言することだ。

社長が本気で談合をさせないと決めれば、社長の命令に背いてまで談合に加担する社員はいない。ましてや、犯罪者になってまで会社の利益を守ろうなどという社員がいるはずもない。

今、問題になっているゼネコンの社外取締役を務める財界首脳のひとりは、「とことん膿を出すようトップに求める」という。業界の慣行やムードだからと緩い姿勢で臨むことは許さないというのだ。

ここ数年、社外取締役の導入が広がり、取締役会に業界の外の常識をもった経営者が入るようになった。果たして彼らが、長年続く、その業界ならではの「不正」にどう立ち向かっていくのか。

東芝でも不正事件のあと、社外取締役を中心とする経営執行体制になったが、その後も続々と問題が噴出した。ゼネコンの社外取締役もうかうかしていると、まだまだ問題が飛び出してくることになりかねない。

日本企業は、不正を防ぐための「経営力」が問われているとみていいだろう。