訪日外国人2869万人で過去最多 消費4兆円が日本経済を下支え

月刊エルネオス2月号(2月1日発売)に掲載された原稿です。

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 二〇一七年一年間に日本にやって来た「訪日外国人」が二千八百六十九万人と過去最多を更新した。日本政府観光局(JNTO)の推計によると、一六年が二千四百三万人だったので、四百六十五万人、率にして一九%も増えた。尖閣諸島問題などで中国からの訪日客が減った一一年は六百二十一万人だったので、五年の間に二千二百万人以上増え、四倍になった計算だ。年間一千万人を目標にして、なかなかそれが達成できなかったのがウソのようだ。
 訪日外国人急増のきっかけはアベノミクスによる円高の是正だ。一ドル=八〇円以下から一気に一ドル=一一〇円台に円安となったことで、自国通貨がドルに連動している傾向が強いアジア諸国からみると、日本円に対して通貨高になった。つまり、日本旅行が一気に割安になったのだ。
 二〇一三年以降、中国人観光客が大挙して押し寄せ、高級ブランド品などを買い漁った「爆買い」現象が起きたのも、こうした為替の効果が大きかった。
 もちろん、他に政府が何もしなかったわけではない。日本に入国するビザの要件を大幅に緩和したほか、消費税が免税になる「免税品」の最低金額を引き下げるなど、促進策を打った。化粧品や食料品を免税対象に加えたことで、それまでの高級ブランド品や家電製品などから日本製の化粧品などへ「爆買い」対象が広がった。
 一七年の訪日客を国・地域別に見ると、最も多かったのは中国から。七百三十五万人が日本を訪れた。一一年の百四万人と比べると隔世の感がある。
 二位は韓国で七百十四万人。前年より二百万人も増えた。地理的に近いこともあって、九州地域への短期旅行者などが目立つ。韓国は一三年まではトップで、一四年には台湾に抜かれたほか、一五年以降は三年連続で中国に首位を譲った。

中国人は一人二十三万円消費

 日中関係、日韓関係ともに、政治的には冷え込んでいる。特に韓国との関係は竹島の領有権をめぐる問題に加え、「最終的不可逆的」に解決したはずの従軍慰安婦問題が再び蒸し返されるなど、「氷河期」とさえ言われる状況に直面している。
 ところが、韓国からの訪日客は昨年四〇%も増えており、韓国から日本に気軽に買い物に来るなど観光ブームに火が付いている。逆に日本の若者の間でも韓国での買い物などが人気で、人の往来は急速に増えている。韓国からの訪日客がこのペースで増えると、中国の伸び次第では再び韓国が首位に躍進することもありそうだ。
 こうした訪日外国人の増加は日本経済にとって大きなプラスになっている。観光庁が発表した一七年の訪日外国人消費動向調査によると、年間の訪日外国人旅行消費額は四兆四千百六十一億円と前の年に比べて一八%増え、過去最高を記録した。日本国内の消費がいまひとつ勢いがない中で、大きな下支え要因になっている。
 外国人旅行者一人当たりの消費額は十五万二千百十九円。三七%に当たる五万七千百五十四円が買い物代に使われたほか、宿泊代に四万三千三百九十七円(二八%)、飲食費に三万八百六十九円(二〇%)、交通費に一万六千九百七十四円(一一%)が充てられた。娯楽サービス費は五千十四円(三%)だった。
 最も一人当たりの旅行費用を使ったのが中国で、二十三万三百八十二円。そのうち買い物代が十一万九千三百十九円を占めた。二位はオーストラリアの二十二万五千八百六十六円だったが、買い物代は二割以下で、飲食費(五万七十円)や娯楽サービス費(一万四千九十四円)に多くを割いていた。北海道のスキーリゾートなどで比較的長期のバケーションを楽しんでいる様子が浮かび上がった。
 三番目に多かったのは英国の二十一万五千三百九十三円。宿泊に九万七千三百三円を使い、飲食費も五万千二百八十九円と、国・地域別で最も宿泊費・飲食費を使った。
 一人当たり総額で二十万円以上を使ったのは、中国、オーストラリア、英国のほか、スペインとフランスも二十万円を超えた。

娯楽サービス費の増加努力を

 買い物代に最も使ったのは前述の通り中国の十一万九千三百十九円だが、これにベトナム(七万二千三百三円)、ロシア(六万五百十三円)が続く。実は全体の平均(五万七千百五十四円)を超えたのはこの三カ国だけで、他の十七カ国は平均以下となった。いかに中国が平均を引き上げているかが分かる。
 ちなみに、四兆四千億円の消費額のうち八千七百七十七億円が中国観光客の買い物によって支えられている。これに台湾(二千百八十四億円)、韓国(一千三百九十四億円)、香港(一千二百二十八億円)を加えると、買い物総額一兆六千三百九十八億円の八二%を占める。アジアの買い物パワーが日本経済を支えていることを如実に示している。
 平均滞在日数を見ると、全体の平均は九・一日だが、欧米系は二週間前後が多い。ベトナムが三十五・二日で最長で、これにインドが二十三・一日で続くが、これは実際はビジネス目的で入国しているなど、純粋な観光とは言えない可能性が大きい。フランスの十五・七日、オーストラリアの十三・二日など長期滞在も目立つようになった。
 一方、最も短いのは韓国の四・三日で、地の利を生かした短期の買い物などが多いとみられる。
 日本政府は東京オリンピックパラリンピックが開かれる二〇二〇年には訪日外国人客を四千万人とし、外国人観光客消費を八兆円にする目標を掲げている。四千万人の目標達成は、だいぶ視野に入ってきたと見てよさそうだ。
 一方で、八兆円を実現するには、単純計算で一人当たり二十万円を使ってもらわなければならない。今よりも五万円く多く使ってもらう必要があるのだ。そのためにはアジアからの訪日客により長期の滞在をしてもらい、宿泊費や飲食費におカネを使ってもらうことが重要だ。さらにまだまだ少ない「娯楽・サービス費」を増やしていく努力が不可欠だ。体験型のイベントや観劇、スポーツなど、いわゆる「コト消費」をどれだけ増やせるかがカギを握ることになりそうだ。