「なし崩し」で増え続ける外国人労働者 5年連続で過去最多を更新、128万人に

日経ビジネスオンラインに2月23日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/022200062/

高度成長期並みの人手不足が追い風
 安倍晋三首相は2月20日経済財政諮問会議で、外国人労働者の受け入れ拡大に向け検討を始めるよう関係閣僚に指示した。景気の底入れで圧倒的な人手不足に直面する中、外国人労働者に活路を見出そうという戦略だ。

 ただし、あくまで「専門的な技能を持つ人材」だけを受け入れるという「建前」を維持、これまで「単純労働」とみなされて外国人が排除されていた介護や農業の現場作業員などに「なし崩し」的に広げていくことになりそうだ。「いわゆる移民政策は取らない」という姿勢にこだわり、あくまで一時的な労働力として外国人を受け入れるため、日本に長期滞在するための日本語力や社会規範の習得といった「生活者」に不可欠の条件は後回しになる。

 菅義偉官房長官上川陽子法相を中心とする検討チームを作り、関係する省庁が加わって議論する。入国管理法が定める「専門的・技術的分野」の在留資格を拡大する方針をまとめ、6月ごろ閣議決定する経済財政運営の指針である「骨太方針」に盛り込む考えだ。

 もともと、「専門的・技術的分野」として就労が可能なのは、「教授」や「技能」など18業種。これに「農業」や「建設」など慢性的な人手不足に陥っている業種も加えることを検討する。

 報道によると、「国籍取得を前提とする『移民』につながらないよう、在留期間を制限し、家族の帯同も基本的に認めない」方針だといい、数年間の在留期間が終了した段階で帰国させる「出稼ぎ労働者」を想定している。

 背景には猛烈な人手不足がある。2017年12月の有効求人倍率は1.59倍と43年ぶりの高水準になった。すでにバブル期の有効求人倍率を上回り、高度経済成長期並みの人手不足になっている。この傾向は大都市圏にとどまらない。地域別の有効求人倍率は全都道府県で1倍を上回っている。

 こうした中、「現場」では外国人労働者が猛烈な勢いで増えている。厚生労働省が1月26日に発表した「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」によると、2017年10月末時点での外国人雇用数は127万8670人と前年比18%増加、5年連続で過去最多を更新した。また、届け出をした事業所は19万4595カ所と、1年前に比べて2万1797カ所も増え、これも過去最多を更新した。

ベトナム出身者が1年間で40%増
 働く際の「資格」として増加が目立つのが「資格外活動」に分類される外国人労働者だ。29万7012人と前の年から24%も増えた。大半は留学生で、大学だけでなく、専門学校や日本語学校に留学生資格でやってきて、働いているケースだ。本来は働く資格がないが、放課後のアルバイトなどとして特例的に働いていることから「資格外」とされている。

 米国では留学生が働くことを禁じられているが、日本に来た留学生には週に28時間までの労働が認められている。また、学校が長期休暇の間は1日8時間、週40時間まで働ける「例外」もある。

 実はこの「資格外」が増えているのは、日本で学びたい留学生が増えた結果ではない。「出稼ぎ」を目的に日本の学校に留学する「偽装留学」とも言える外国人が急増しているのだ。日本語学校に行くことが本当の目的ではなく、日本で働くために留学ビザを取得している。日本語学校の授業料を支払った証明書などがあれば留学ビザが取れるため、授業料を借金して先払いするケースも多いといわれる。

 外国人労働者を国籍別に見ると、最も人数が多いのは中国(香港を含む)の37万2263人で、全体の29%。これにベトナム(24万259人、全体の19%)、フィリピン(14万6798人、同11%)、ブラジル(11万7299人、同9%)が続く。

 このところ急増しているのはベトナム出身者で、1年前に比べて40%増えた。2012年に2万6828人だったのが2014年ごろから急増し始め、5年で9倍に膨らんだ。次いで昨年の増加率が高かったのがネパールで、1年前に比べて31%増え、6万9111人になった。

 両国からの外国人の就労が急増している背景には、日本語学校などを使った実質的な「出稼ぎ」が広がっていることがあるとされる。現地でも「働き手」を送り出す日本語学校などが急増している。

 労働者に占める「資格外」の割合は2012年ごろまでは16%前後だったが、2013年以降比率が上がり、2017年は全体の23.2%を占めるようになった。よく見かけるコンビニ店員のほとんどが、こうした留学生など「資格外活動」での労働者である。コンビニの店員は「単純労働」とみなされており、外国人労働者の本格的な受け入れはできないため、「留学生」に依存しているわけだ。

 日本政府は「単純労働」とされてきた小売りやサービスの現場の仕事から長年、外国人を締め出す政策を取り続けてきた。これまでの「専門的・技術的人材」の定義を広げることで、旧来の「単純労働」分野にも外国人を受け入れようとしているわけだ。人手不足の穴を埋めるために、なし崩しで対象を拡大しようとしているのである。

 これまでも農業などの分野では、「外国人技能実習制度」によって、外国人労働者を実質的に受け入れてきた。本来は国際協力の一環として日本の技術を海外に移転するための「実習制度」だが、現実には人手不足の現場を穴埋めする「便法」として使われてきた。

技能実習生が占める割合も20%超に
 この実習制度を拡大し、外国人受け入れを「なし崩し」的に増やそうとする動きもある。すでに建設・造船分野で実習年限を延長したほか、介護人材も技能実習の枠組みに加えた。コンビニ店員などでも技能実習枠の適用が検討されている。さらに、人手不足が深刻化している旅館やホテルなどの従業員にも技能実習の適用を要望する声が強まっている。

 2017年10月時点での技能実習制度に基づいた外国人労働者は25万7788人と1年前に比べて22%増加。外国人労働者全体に占める割合も20.2%と初めて20%を超えた。

 安倍首相は繰り返し「いわゆる移民政策は取らない」と述べている。増えている外国人は「出稼ぎ」なので、数年で帰国してしまい、日本に居つくわけではありません、ですから安心してください、と言いたいのだろう。

 だが、人口が今後本格的に減少する中で、帰国を前提とした外国人をなし崩し的に増やしていくのが良いことなのか。

 まず、日本の現場での人手不足はますます深刻化する。そうした中で、アルバイトやパートがやるような一時的な仕事だけでなく、本来なら正社員が担うような長期的にスキルを磨く必要がある仕事でも人材不足が顕著になっている。そうした長期の雇用を前提にした外国人の受け入れが必要になっているのだ。

 働く側の外国人にしても、数年しか働けないビザならば、その間にがむしゃらに稼いで自分の国に帰ろうとする。日本に定住して、日本社会の一員となろうとは始めから思わないわけだ。そうなれば、日本語も真剣に学ばないし、日本社会に溶け込もうという努力もしない。

 ドイツなど外国人労働力を受け入れてきた先進国では、「労働者」として受け入れた外国人がコミュニティーに溶け込まず、大きな社会問題を引き起こす事態に直面した。そうした反省から、ドイツでは2000年代以降、外国人移民を受け入れる際に、ドイツ語の習得やドイツ社会の基礎知識などの学習を義務付けている。

 「移民」と言うと、大量に不法にやってくる難民などの姿を思い描く人も多いが、実際には、きちんとルールを作って外国人を受け入れていくのが「移民政策」である。まともな移民政策なしに外国人を無秩序に受け入れていけば、ドイツなどがかつて失敗したような社会不安を呼び込むことになる。

 安倍内閣は、「専門的・技術的人材」の枠を広げることで、実質的に優秀な外国人だけを対象に実質的な「移民政策」を取ろうとしているのかもしれない。だが、人手が足らない分野をなし崩し的に「専門的・技術的」とみなし、受け入れのハードルを下げてしまえば、「選別」は有名無実になる。

 短期の出稼ぎを狙ってやってくる外国人と、日本社会に溶け込んで日本に定住しようという外国人のどちらに問題を引き起こすような人物が多いかは簡単に想像できる。今こそ日本は、明確な「移民政策」を示して、本当に優良な外国人を将来の日本を担う人材として受け入れる仕組みを早急に構築すべきだろう。