「麻生大臣辞任」なら、アベノミクスと日本の株価はどうなるか もしも個人投資家が見放したなら…

現代ビジネスに3月14日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54850

このままでは終わらない
森友学園への国有地売却を巡る公文書記録の改竄問題が、安倍晋三内閣を根底から揺さぶっている。

財務省は3月12日に14の決裁文書の書き換えを認める調査結果を国会に報告。これを受けて記者会見した麻生太郎副総理兼財務相は、「行政文書について書き換えを行うのは極めて由々しきことで誠に遺憾。深くおわび申し上げる」と陳謝したものの、自身の進退について「考えていない」と述べ辞任を否定した。安倍首相も続投させる方針を示した。

もっとも、これは時間稼ぎに過ぎないのは誰の目にも明らかだ。野党側が激しく批判して財務相辞任を求めているのは当然として、自民党幹部や閣僚の間からも、真相の究明が終わった段階で麻生氏の辞任は不可避だとの声が上がっている。

12日の為替市場では麻生氏が辞任するのではないかとの見方から一時円高が進んだが、辞任否定で円安に戻す場面もあった。

いずれにせよ公文書である決裁文書の書き換えは国政の根本を揺さぶる大問題である。

別の官庁でトップを務めた官僚OBは「局長など幹部が指示して文書を書き換えるなどという事は信じがたい」と憤慨する。現役の経済官僚も「まさか、あそこまでやるとは、僕らの常識では考えられない」と肩を落とす。

しかも、国会論議で焦点になっていた“証拠”の文書を書き換えたとあっては、国会審議の根本を大きく揺るがす。「民主主義を危うくする」という批判の声が上がるのも当然である。

「改竄」が誰の指示によって行われたのか。政治家がどう関与したのか。あるいは官邸の官僚たちが「忖度」したのか。まだ明らかになっていない。

実際に文書を作成した近畿財務局の職員が自殺した事が明らかになっているが、その遺書には書き換えを命じられたという文言があるという報道もなされている。そうなると、到底個人の“犯罪”というわけにはいかず、財務省という組織ぐるみで「改ざん」が行われていたことになる。

公表された「改ざん」前の文書には、安倍昭恵夫人の名前が記されていたが、それが「書き換え」によって削除されていることも明らかになった。

野党は改ざん公表を前に国税庁長官を辞任した佐川宣寿・元理財局長や、安倍昭恵氏の国会での証人喚問を要求しており、安倍首相にも追及の手が伸びるのは必至だ。

個人投資家が安倍相場を見限るか
そうした事態に敏感に反応するとみられるのが株式市場だ。そうでなくても北朝鮮情勢やトランプ大統領の輸入関税導入など、世界的に株価を変動させる要因に満ちており、実際、株価は神経質な動きが続いている。

1月に2万4000円台に乗せた日経平均株価は3月13日現在で2万2000円を下回ったままだ。

市場はまだ、安倍内閣の崩壊リスクを織り込んでいない。だが、麻生財務相が辞任すれば、その先、安倍首相にも辞任を求める声が強まるのは必至だ。

日本経済の回復は、まがりなりにも安倍首相が先導したアベノミクスの効果だと世界的にみられている。安倍首相の辞任に至らなくても、森友スキャンダルによって働き方改革関連法案などの成立が先送りになれば、アベノミクスの先行きにも暗雲が漂うことになる。

株式市場で懸念されるのは、このところ買い姿勢を強めていた「個人」が、安倍内閣の動揺をきっかけに、再び売り越しに転じることだ。

日本取引所グループがまとめている月間の投資部門別売買状況によると、今年1月に10カ月ぶりに買い越した個人投資家は、2月には1兆2482億円の買い越しを記録した。

この間外国人は大きく売り越している。つまり2万4000円台に株価が駆け上がった原動力は、いつものように海外投資家ではなく、個人投資家だったのである。

雇用情勢が改善していることを背景に、今年の春闘では5年連続でベースアップが実現することが確実になっており、いよいよ「経済の好循環」が実現しつつある。

今回の公文書改竄は、こうした経済の好調ムードを一掃してしまうだけの破壊力を持っているだけに、個人投資家が「安倍相場」を見限る事になる可能性も十分にある。

アベノミクスは立ち消えか
ポスト安倍が見えないことも、安倍内閣崩壊のリスクを読みにくくしている。

アベノミクスを引き継ぐ政治家が自民党内にも見当たらないうえ、野党は反アベノミクスでほぼ固まっている。

万が一、安倍首相が政権を放り出した場合、これまでの金融緩和路線や改革路線がどうなるのか、まったく読めない。

かといって、「経済最優先」を掲げれば支持率が再び戻った過去と、今回のスキャンダルは大きく違う。

特定秘密保護法や安全保障関連法案は、政治スタンスの違いからの反対だったため、支持に回る人もいた。

だが、今回の改ざんスキャンダルは、結局は安倍首相や夫人の個人の「保身」のためだったのだろう、という政治家個人の資質の問題で、だれもこのスキャンダルを支持する人はいないだろう。

株式市場はまだ本格的な動揺をみせていないが、麻生財務相が辞任に追い込まれれば、大きく乱高下する場面もありそうだ。