スイスの時計輸出が「底入れ」

隔月刊の時計専門雑誌「クロノス日本版」に連載しているコラムです。時計の動向などから景気を読むユニークな記事です。3月号(2月上旬発売)に書いた原稿です。
高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]→https://www.webchronos.net/

クロノス日本版 2018年03月号【雑誌】

クロノス日本版 2018年03月号【雑誌】

 2017年のスイスの全世界向け時計輸出額が3年ぶりに増加した模様だ。スイス時計協会の統計では、2017年1月から11月までの累計輸出額は182億4740万スイスフラン(約2兆900億円)で、前年の同期間を2.8%上回っており、12月によほど大きく失速しない限り、年間ベースでも前の年を上回る見込みだ。本誌が読者のお手に届くころには同協会が昨年の統計結果を発表しているはずである。
 スイスの時計輸出は2014年の222億5770万スイスフラン(約2兆5660億円)がピークだった。2016年には194億510万スイスフラン(約2兆2370億円)にまで落ち込んでいた。ピークから13%減っていたことになる。それを底に2017年は上昇に転じたわけだ。
 底入れの理由は、スイス時計の世界3位の輸出先である「中国(本土)」向けが大きく回復していること。2017年は2016年に比べて2割前後伸びた模様だ。2015年に上海株が急落したことをきっかけに需要が落ち込んでいた。
 高級時計などラグジュアリー商品の需要減少の背景には、習近平体制による汚職追及があるという声も強かった。高級酒や高級時計、ブランド品などが謝礼や贈答品用に多用されていたのが、汚職追放の流れの中で一気に使われなくなった、というのである。小さくて高価な高級時計は贈答用に重宝されてきたといわれる。
 中国の景気に左右される香港での時計需要も回復傾向にある。香港はスイス時計の最大の輸出先で、2014年には41億2190万スイスフラン(約4750億円)に達していた。これが、2016年には23億8260万スイスフラン(2750億円)にまで激減していたが、2017年は持ち直した模様だ。
 2017年はスイス時計の主要輸出先30カ国・地域のうち20カ国近くが前年よりプラスになったようだ。2016年には前の年に比べてプラスだった国は7カ国にとどまっていただけに、世界的に景気回復の色彩が強まってきたことを示している。
 どうやら2018年も世界景気は引き続き明るさを維持しそうな気配で、高給時計市場にとっては期待できそうな年になりそうだ。スイス時計の輸出も2年連続でプラスになると期待される。
 そんな中で、最も注目される市場のひとつが日本になりそうだ。スイス時計の日本向け輸出は1月から11月までの累計では3.4%の減少となっていたが、11月単月だけをみると前年同月比22.5%増と劇的に増えていた。
 前回のこのコラム(「消費が盛り上がり始める3つの理由」)で指摘したように、長年低迷が続いていた日本の消費にようやく明るさが見え始めており、2018年は日本の時計販売が大きく改善する可能性が高まっている。
 昨年後半から株価の上昇が続いており、1月には日経平均株価が2万4000円台を回復した。26年2カ月ぶりという高値水準だ。明らかにムードは変わっている。株価の上昇によって財布の紐が緩む「資産効果」も出始めており、消費に力強さが見え始めている。
 引き続き日本を訪れる外国人観光客も増加しており、日本の消費を下支えしている。2017年は過去最多の2869万人の外国人旅行客が日本を訪れ、過去最大である4兆円のおカネを日本国内に落としたとみられている。
 政府は、東京オリンピックパラリンピックが行われる2020年には4000万人の訪日外国人受け入れを目標にしており、8兆円が使われると試算している。オリンピック・ムードの高まりによるスポーツ商品の販売増などを見込むが、時計市場にとっても訪日客の急増はプラスになるのは間違いない。
 日本で買い物をする外国人旅行者のうち最も金額を使っているのは中国からの旅行者。一時は景気減速でひとり当たりの消費額が低下していたが、ここへ来て再び増加傾向にある。スイス時計の日本向け輸出が増えている背景にも、日本にやってくる中国人観光客による購買などがかなり含まれているとみていいだろう。