株主総会が大きく「変質」、主役はファンド 経営陣も無視できない「株主提案」増える

日経ビジネスオンラインに6月22日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/062100079/

株主総会のピークは6月28日
 株主総会が佳境だ。東証上場の3月期決算企業2340社余りのうち、15%に当たる359社の総会が6月22日に開かれ、総会シーズンが本格化する。最も多いのが6月28日の木曜日で、全体の31%に当たる725社が開催する予定だ。28日に次いで多いのが27日、そして26日。22日と合わせた4日間で全体の80%が総会を開く。

 今年の株主総会の注目点は、「株主提案」の行方だ。一定数の株式を持っている株主が総会に「議案」を提出するもので、基準日の6カ月以上前から議決権の100分の1または300個以上の議決権を有する株主が権利行使できる。8週間前までに会社に通告した場合、会社は総会の招集通知に株主提案として記載、議題にしなければならないのだ。

 株主提案は年々増えている。昨年2017年6月の総会では40社に合計212議案が出された。2016年は37社167件、2015年は29社161件だった。当初は、原発反対の株主が電力会社の株主になって原発廃止の議案を提出するといった使われ方がされていたが、ここへきて、株主の利益を左右するような提案が増えている。

 例えば、6月20日に都内で株主総会を開いた新生銀行の場合、米国のヘッジファンドであるダルトン・インベストメンツが新たな役員報酬制度の導入を求める議案を提出していた。同じ総会で新生銀行は会社提案として、取締役の年間報酬枠合計1億8000万円のうち、2000万円を上限に株式で支給する新たな役員報酬制度を提案していた。役員報酬の一部を、一定期間譲渡できない株式で支給することで、株価上昇を意識した経営を促す仕組みだ。

 これに対してダルトンが株式部分を2000万円では不十分だとして、上限を2億円とするよう求める「株主提案」を出していたのだ。

 これらの議案について、議決権行使助言会社である米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、株主提案に賛成するよう推奨していた。助言会社の推奨には海外の機関投資家が従う傾向が強いため、新生銀行総会での議案の行方が注目された。結局、総会では会社側提案が可決された。

取締役選任、配当積み増し、保有株の分配……
 株主提案は通らなかった格好だが、経営陣には大きな圧力になったのは間違いない。株価上昇に向けた役員のインセンティブ付与をどうするかなど、機関投資家にとっても大きなテーマで、こうした提案を無下に扱うことはできなくなっている。

 例えば、6月28日に開かれるフェイスの株主総会では、米国の投資ファンドであるRMBキャピタルが、RMBのパートナーである細水政和氏を社外取締役として選任するよう求める株主提案を行っている。RMBコーポレートガバナンスの強化など、経営改革を求める姿勢を強調しているが、これに対して、会社側も“対抗措置"を打ち出した。

 会社側が提案する取締役候補を、従来の社内取締役5人、社外取締役2人から、社内5人、社外3人とし、社外取締役の割合を3分の1以上に引き上げたのだ。経営陣もただ単に株主提案に反対するだけでは、その他の機関投資家など株主の支持を得られなくなっているわけだ。

 株主提案で、配当の積み増しなど、利益配分を求めるケースも増えている。6月21日に開かれたアルパイン株主総会では、香港の投資ファンド、オアシス・マネジメント・カンパニーが増配や社外取締役の選任を求める株主提案を提出した。オアシスは2018年3月期の期末配当を会社側提案の15円ではなく、325円にするよう求めた。

 親会社であるアルプス電気アルパインを完全子会社化する方針を掲げているが、これに1割弱のアルパイン株を保有するオアシスが反対。社外取締役を送り込むことや、増配を求めていた。 この提案にもISSは賛成推奨していたが、総会ではこの株主提案も否決された。

 やはり6月28日に開催されるTBSホールディングス(以下、TBS)の株主総会に出されている株主提案も注目される。英国のファンドであるアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)が、TBSの保有する東京エレクトロンの株式を、TBSの株主に分配せよ、と求めているのだ。AVIは今年3月末時点で2%弱のTBS株を保有しているとされる。

 TBSはいわゆる「政策投資」として東京エレクトロンの株式を770万株、発行済み株式の4.7%分を持っている。いわゆる持ち合い株だが、この770万株のうち4割に当たる306万4414株を株主に現物配当せよ、と要求しているのだ。

 TBSの大株主には三井物産三井住友銀行三井不動産など大企業が名を連ねており、2%しか株を持たない海外投資家の提案が通る可能性は低いが、注目される理由がある。

 東京証券取引所が6月1日から施行した、「改訂コーポレートガバナンス・コード」で持ち合いに関する「原則」が大幅に改定され、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき」とされたのだ。

 さらに「個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである」とされ、政策保有する合理的な理由を具体的に示すことが求められるようになった。

「反対」する場合、正当な理由が必要
 TBSは東京エレクトロン株の保有について「従来から、当該株式を企業価値向上のための各種投資の原資として有効に活用しており、今後も、最適なタイミングで随時活用する方針です」と株主総会招集通知に記載。株式の現物を配当すれば多額の税金が課せられることなども理由として、株主提案に反対する、としている。

  問題は、こうした説明に年金基金や生命保険会社などの機関投資家が納得するかどうか。前述のISSは株主提案に賛成するよう推奨している。改訂されたコーポレートガバナンス・コードで「縮小」が求められている政策投資を、容認するような議決をすることが許されるか、機関投資家側も大きく迷わざるを得ないのだ。

 というのも、安倍晋三内閣が主導して2014年に「スチュワードシップ・コード」という機関投資家の行動規範が導入されたからだ。生命保険会社や年金基金、信託銀行などの機関投資家は保険契約者や顧客などにとってどちらが利益をもたらすかを検討し、議決権を行使しなければならなくなったのである。

 つまり、英ファンドの提案どおり、東京エレクトロン株を配分してもらうのがよいか、TBSにこれまで通り東京エレクトロン株を保有させておいた方がよいか、最終受益者の立場に立って判断することを迫られるわけだ。

  しかも、機関投資家にとって厄介なのは、その議決権行使の内容について、昨年から個別に開示しなければならないことになったことだ。つまり、TBSの問題について、株主提案への賛否が表に出てしまうのだ。ISSが推奨する株主提案に反対票を投じるには、それなりの理由付けが必要になる。

 その議案が株主にとってプラスになるのか、ならないのか――。株主提案の内容がより株主の損得に直結する問題になってきたことで、経営者も緊張を迫られるようになってきた。もはやシャンシャン総会という言葉も死語になりつつある。

 スチュワードシップ・コードにせよ、コーポレートガバナンス・コードにせよ、アベノミクスの成長戦略の一環として導入されてきたものだ。狙いは日本の上場企業に「稼ぐ力」を取り戻させること。要は収益力を引き上げるために機関投資家など株主のプレッシャーを利用しようとしたのである。株主提案の増加や、株主総会での企業の対応を見ると、そうしたコーポレートガバナンス改革は、少しずつ前に進んでいるように見える。