安倍政権の「GPIF運用、10兆円黒字」で問われる野党の批判能力 結局、ピンボケだった…

現代ビジネスに7月18日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56597

株価好調で年金大もうけ
国民の年金資産を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2017年度に10兆円を超える運用益を稼ぎ出した。

7月6日にGPIFが発表した業務概況書によると、2017年度の運用収益は10兆810億円に達し、利回りは6.9%となった。この結果、期末の運用資産残高は156兆円3832億円になった。

2001年に市場運用を開始して以降の累計収益は63兆4413億円、率にして年率3.12%に達する。

2012年末に安倍晋三内閣が発足して以降の株高の効果が大きく、特に、GPIFがポートフォリオ(運用資産構成割合)を見直して、債権から株式に大きくシフトした効果が出ている、と言ってよい。

だが、安倍内閣主導によるGPIFの「株式シフト」には批判の声も強かった。

「年金運用『5兆円』損失追及チーム」。2016年の8月には当時の野党第一党である民進党がこんな名前のチームを立ち上げ、「株式シフト」に批判を浴びせた。つい2年前のことだ。

株価の下落によって2015年度の年間収益が5兆3098億円の赤字になったことや、2016年度第1四半期(4-6月)の収益が5兆2342億円の赤字になったことが追及チーム結成の理由だった。

「損失が出たこと自体よりも、ポートフォリオを見直して株式での運用比率を高めた結果、損失が出ていることが問題。判断を誤ったのではないか」

当時の追及チームのメンバーだった国会議員からは、こんな批判の声が挙がった。

GPIFは2014年10月31日に基本ポートフォリオを全面的に見直し、それまで12%だった「国内株式」の割合を25%にまで引き上げた。構成割合には上下乖離幅というのが認められており、この時点で、国内株を34%まで買うことができるようになった。

一方で、それまで60%だった「国内債券」での運用割合は35%(乖離幅上下10ポイント)にまで引き下げたのである。また、外国株式も12%から25%に引き上げた。

これによってGPIFは、国債中心の運用から株式に大きくシフトしたわけだ。この「株式シフト」が損失を発生させたと、2年間に野党は批判の声を上げた。2年前の野党議員は、国債中心の安全運用に徹していれば、こんな損失を被ることはなかった、と声を荒げたのである。

常識的な運用の結果
ところが、そんな株式運用批判はその後、急速に沈静化する。

というのも株価が大きく上昇に転じたからだ。米国でトランプ氏が大統領選で勝利すると、大方の予想を上回って日本の株価も大幅に上昇したのだ。

結局、2017年度のGPIFの決算は7兆9363億円の大幅黒字となったが、これと共に「株式シフト」批判は雲散霧消した。

2018年度も、それをさらに上回る10兆円超の収益を上げることができたのも「国内株式」へのシフトの効果が大きい。

3月末のGPIFのポートフォリオは「国内株式」25.14%、「外国株式」23.88%、「国内債券」27.50%、「外国債券」14.77%と、ほぼ基本ポートフォリオどおりになった。国内債券が基本割合を下回っているものの、乖離幅の範囲内である。

年間の収益率は前述の通り6.90%になったが、運用資産ごとに利回りは大きく違う。低金利が続く中で「国内債券」の利回りは0.80%、「外国債券」も3.71%に過ぎない。

これに対して、「国内株式」の利回りは15.66%、外国株式は10.15%と好成績を収めた。株式の利回りが高かったことが、全体の利回りを押し上げたのである。

これを見れば、0.80%の利回りしか上げられなかった「国内債券」中心での運用だった場合、こんな黒字を稼ぐことは不可能だった。何せ、前期に10兆810億円稼いだうちの5兆5076億円は国内株式、3兆5140億円は外国株式だった。

何と収益全体の9割は株式への運用で得たのである。国内株式は3622億円、全体のわずか4%に満たなかった。つまり、「株式シフト」なかりせば、前々年度や前年度の大幅黒字はあり得なかったのである。

野党の批判はピンボケ
結論は「株式シフト」 は成功だった、と言ってよいだろう。

もともと、アベノミクスで大胆な金融緩和に取り組み、低金利政策を実行に移しているのだから、国債の利回りが低下傾向になるのは当然である。

短期運用ならば価格が上がる債券のディーリングで利益を生むことも可能だが、基本的に長期運用で利回りを期待するGPIFの債券運用では、債券の運用収益は小さくなっていく。

金融緩和が続けば長期的には株価が上昇するわけで、GPIFの資産運用を債券中心から株式へとシフトさせたことは、アベノミクスの政策と「整合的」だったと言える。つまり、金融緩和を進める政府が年金運用を債券から株へと移したのは当然の方向性だったと言ってよい。

つまり、2年前の野党の批判はピンボケだったことになる。国民の大切な年金資産は安全性の高い国債で運用すべきだ、という当時の民進党の主張は、原理原則ではそうかもしれないものの、経済政策をまったく度外視した主張だったと言えるかもしれない。

森友学園問題を巡る財務省の公文書改ざん問題などもあり、安倍内閣は強い批判にさらされた。2月から3月にかけて内閣支持率も大きく低下、不支持が支持を上回る事態に直面した。

そんな安倍内閣が持ちこたえているのも、経済政策などで着実に成果を上げていることが一因とみられる。雇用情勢は改善を続け、未曽有の人手不足が続いている。株価も堅調さが続いている。

結局、安倍内閣の経済政策を批判するだけの「対案」が野党にないことが、結局、安倍内閣を存続させているようにみえる。GPIFのポートフォリオ見直し批判も結局は野党の空振りに終わり、安倍内閣を後押しする結果になった。