「ふるさと納税」過去最高でも程遠い自治体の「自立」 まだ、ほとんどが交付金頼みの実態

現代ビジネスに8月2日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56802

泉佐野市の独走
ふるさと納税」の額がまたしても過去最高を更新した。2017年度の全国自治体の受け入れ総額は3653億円と前年度の2844億円に比べて28%増えた。2014年度は388億円だったので、3年で10倍近くになったわけだ。受入総件数は1730万件だった。

個人住民税の総額は2017年度で12兆8000億円。仮にその2割を「ふるさと納税」の上限とすると2兆5600億円になる。前年度実績の3653億円はその14%にまで達したことになる。

まだまだ「余地」があるとみるか、そろそろ頭打ちになってくるかは見方の分かれるところだ。

そんな中で話題になったのが大阪府泉佐野市。ふるさと納税額が135億3300万円とダントツで1位になったからだ。2位の宮崎県都農町の79億1500万円を大きく引き離した。

沖合に浮かぶ関西国際空港の人工島の対岸に位置し、泉南市田尻町と共に関空の一部を市域とする。関空に近いことを武器に「りんくうタウン」の開発を試みたが、バブル崩壊後の景気悪化も重なり、市の財政が悪化、一度は財政非常事態宣言を出すにまで陥った市だ。

財政健全化のために、遊休資産の売却や人件費の圧縮など財政健全化を進めてきたが、2012年には「市の命名権」の売却まで打ち出し全国に話題を提供した。そんな泉佐野市が目を付けたのが「ふるさと納税」だった。

市が開いているウェブサイト「ふるさと納税総本家 泉佐野チョイス」はあたかも通販サイトだ。納税(寄付)のお礼として送られる「返礼品」のリストである。

もちろん、地元産の野菜や肉、タオルなどもあるが、ラインナップはそれに留まらない。新潟県コシヒカリ種子島産安納いも、甲州ワイン、弘前純米酒、財布、ベルト、毛布、ありとあらゆる商品が並ぶ。必ずしも泉佐野の地場商品にはこだわっていない。

そんな返礼品の「品揃え」が人気を呼び、まさかの100億円超えを達成したのである。

返礼品は何のため
ふるさと納税には「返礼品目当てはケシカラン」という批判がつきまとっている。自治体も納税を集めるために、魅力的な返礼品を取り揃え、ふるさと納税集めに必死になっているところも少なからずある。

総務省は寄付額に対する返礼品の額に3割という上限を設けたり、換金性の高い返礼品を禁じたりと相次いで規制をかけている。もちろん、自治体に対して強制力はないため、口先介入の「大臣通知」にとどまっている。

総務省は今回、「返礼割合3割超の返礼品および地場産品以外の返礼品をいずれも送付している市町村で、見直す意向がなく、受入額が10億円以上の市町村」12カ所の名前を公表した。その中には泉佐野市も含まれている。

もちろん、泉佐野市にも言い分はある。地元以外の商品だとしても、地元業者が扱っているのだから、地元に利益は落ちる、というわけだ。確かに、地元に目立った特産品がない市町村や、商業が中心の地域では、他地域の物産を返礼品にする以外に道はないのも事実だ。

だが、ふるさと納税の本来の目的は何だったのだろうか。各自治体が創意工夫をして納税者にアピールするムードが出来上がったのは「ふるさと納税制度」の大きな成果だ。

努力している自治体は税収が増え、努力の足りないところは税金が逃げていく。納税者に決定権を与えたのは、日本の地方自治や納税の仕組みにとって大きな画期だったと言える。

最終的には、自治体が財政的に自立していくことが狙いだろう。そのために全国の人たちに「応援」を求める「ふるさと納税」の仕組みは面白い。

だが、集めたふるさと納税が本当にその地域のためになっているのかどうか、きちんと検証して報告する義務も自治体にはあるだろう。

他の地域の商品を返礼品にした場合、地場商品に比べて地域への経済効果は小さくなる。とりあえず、多額のふるさと納税を集めてしまえば「勝ち」と言えるのかどうか。

初めは返礼品目当てでふるさと納税を始めた人たちも、自治体との接点が生まれたことで、「応援団」へと変わっていく人たちが少なくないことが徐々に明らかになっている。モノ目当てからその地域への「共感」や「ふるさと意識」が高まって、長期にわたってふるさと納税を継続していくケースが増えているのだ。

ただ「お得感」を前面に出したふるさと納税集めで、本当にその地域を「応援しよう」という人たちは増えるのか。その地域の物産と触れて、ファンが増えていくのではないか。お得な返礼品目当ての人たちは、さらにお得な返礼品を掲げた自治体が出てきたら、そこへこぞって移っていくのではないか。

自立はまだまだ遠い
ふるさと納税に対する批判の中には、本来納めるべき自治体の税収が減少してしまうのが問題だ、という声もある。1都3県から「流出」した分は1166億円にのぼった、という報道もある。

実際は国から地方交付税交付金をもらっている自治体の場合、ふるさと納税によって「流出」した分の75%は地方交付税で穴埋めされる。

東京都などは財政黒字で地方交付税をもらっていない「不交付団体」のため、この穴埋めはないが、黒字の団体から赤字の団体へ税収をシフトさせようという地方交付税の考え方からすれば致し方ないことだろう。

さらに、総務省が計算式に基づいて決める地方交付税で調整するよりも、その一部とはいえ、ふるさと納税が税金をシフトさせる役割を担う方が健全ではないか。

ただし、残念ながら、ふるさと納税は盛り上がっているものの、自治体の自立は一向に進んでいない。このほど総務省が公表した2018年度の交付税交付金の不交付団体は78。全国1765自治体のわずか4.4%だ。

ほとんどの自治体が、国から交付金が降って来るのを口を開けて待っている状態なのだ。その総額15兆480億円。それに比べればふるさと納税の3653億円は微々たるものだ。

国の補助金を廃止し、税財源を地方に移譲、地方交付税交付金を減らしていくという「三位一体の改革」という言葉を聞くことはほとんどなくなった。

人口減少が進んでいく中で、地方をどう自立させていくのか。デフレからの脱却で地方税収が増えている今のうちに手を打っておくべきだろう。