ガチンコ勝負になってきた「株主総会」

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 3月期決算企業の株主総会が終わった。例年以上に「本気度」の高い株主提案が出されたのが最大の注目点だった。

 ここ数年、株主提案は増え続けてきた。昨年2017年6月の総会では40社に合計212件もの議案が出された。2016年は37社167件、2015年は29社161件だったので、件数の増加が目立っていた。原発反対の株主が電力会社の株主になって原発廃止のための定款変更に向けた提案をするといった使われ方がされ、1人の株主が同じ会社にいくつもの提案が出すケースも目立った。

 これに対して、今年2月の法制審議会(法相の諮問機関)会社法部会では、総会で株主が提案する議案数を制限できる規定を盛り込んだ会社法の改正試案がまとめられた。1人の株主がいくつもの議案を出すのは権利の乱用に当たる、という経済界の主張を受けたものだったが、件数を絞ることに反対する意見もあり、法改正には至っていない。

 ただ、そうした議論が行われたことが、株主の行動にも影響したようにみえる。みずほフィナンシャルグループに毎年、株主提案を出していた個人株主が、今年は提案を見送ったことなどが報道された。

 そんな中で、「本気度」の高い株主提案が出され、注目を浴びた。米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)などの議決権行使助言会社が賛成推奨するような議案が注目されたのである。

 例えば、6月20日に都内で株主総会を開いた新生銀行の場合、米国のヘッジファンドであるダルトン・インベストメンツが新たな役員報酬制度の導入を求める議案を提出した。同じ総会で新生銀行は会社提案として、取締役の年間報酬枠合計1億8,000万円のうち、2,000万円を上限に株式で支給する新たな役員報酬制度を提案したが、これに対してダルトンが株式部分を2,000万円では不十分だとして、上限を2億円とするよう求める「株主提案」を出したのだ。この株主提案にはISSが賛成票を投じるように推奨していた。

 助言会社の推奨には海外の機関投資家が従うケースが多いばかりでなく、日本の機関投資家の行動にも強い影響を与える。日本の生命保険会社や信託銀行なども、ISSの推奨をなかなか無視できないからだ。結局、新生銀行の総会では会社側提案が可決され、株主提案は否決されたが、賛成票が25.0%も集まった。

 6月21日に総会を開いたアルパインにも株主提案が海外の大株主から出された。香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントが大幅な増配や会社側の提案とは異なる社外取締役の選任を求めた。

 結局、株主提案は通らなかったものの、増配の株主提案には28.57%が賛成票を投じた。また、オアシスが提案した2人の社外取締役の選任提案にはそれぞれ、29.66%と25.44%が賛成した。

 アルパインは来年1月に親会社のアルプス電気との経営統合を予定している。オアシスはアルパイン株1株に対してアルプス株0.68株を割り当てる交換比率が低いと主張、反対姿勢を示している。経営統合を決める12月中旬の臨時株主総会では特別決議が必要で、会社側は議決権の3分の2以上の賛成票を得る必要がある。今回の総会で株主提案に3割近い賛成票を集めたことで、今後、株主の主張に一定の理解を示さざるを得なくなる可能性も出てきそうだ。

 今年6月に施行された「改定コーポレートガバナンス・コード」では、「株主との対話」に重点が置かれている。スチュワードシップ・コードを受け入れる機関投資家が増えたことで、会社側提案が無条件で可決されるという時代は終わった。株主、とくに海外の機関投資家との「対話」をこれまで以上に重視し、会社側提案議題の適否などについて大株主と意思疎通を強めることが重要になっている。

 TBSホールディングス(以下、TBS)の株主総会では、英国のファンドであるアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)が、TBSが保有する東京エレクトロンの株式を、TBSの株主に分配せよ、と求めた。

 TBSは戦略的な投資の原資として適切に使っていると反論したが、ガバナンス・コードが「政策投資」の縮小を求めている中で、今後もその政策保有が合理的なのかを説明していく責任を負ったことになる。今後の経営陣にとって、経営戦略や保有資産の活用法などを丁寧に説明することが不可欠になっていく。