ふるさと納税「返礼品上限見直し」よりも、いま本当にやるべきこと むしろ撤廃して「経済対策」に使え

現代ビジネスに9月27日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57683

いまさら見直せと言うけれど
野田聖子総務相が9月11日の記者会見で打ち出した「ふるさと納税」制度の見直しが大きな波紋を呼んでいる。

制度を使って寄付した人に自治体が贈る「返礼品」が年々豪華になっていることに対して、総務省は繰り返し大臣名の通達を出して「自粛」を求めてきたが、従わない自治体については制度の対象から外すことを検討するとしたのである。

総務省は返礼品2017年4月と2018年4月の2度にわたって返礼品の調達金額の割合を「3割以下」に抑えるように指導。2016年度まで全体の64.7%に当たる1156団体が3割超だったものが大きく減少したものの、今年9月1日現在でもまだ246団体が3割を超過している、という調査結果を公表。その自治体名を公表した。

また、総務省は返礼品を「地場産品」に限るよう指導し、235団体に対して地場産品以外の送付を止めるよう求めていたが、同じ9月1日時点で190団体が見直していないとした。

さらに、今年4月に名前を公表した12団体については、その後の見直し状況を示したが、見直したのは2団体だけ、見直しの意向を示したのは2団体で、7団体は「未定」とした。昨年135億円の寄付金を集めてトップになった大阪府泉佐野市は「未回答」だったという。

あちこちから反発
自治体が見直す意向を示さないことに、総務省は苛立ちを強めているのだが、今回の総務相の見直し方針には、多くの自治体からは反発の声が上がっている。

自治体が創意工夫して寄付集めに奔走しているのを、総務省が一律で「返礼品3割以下」「地場産品のみ」とすることに、地方自治を踏みにじる行為だというのだ。また、一律に「3割以下」とすることや、「地場産品」の基準をどう計るのかといった点にも不満がくすぶっている。

これまで、高率の返礼品については大手新聞を中心に批判的な記事が繰り返し掲載されてきた。ところが、今回はテレビの情報番組などを中心に、総務省に批判的な声が多い。大臣が会見で突然、対象からの除外をほのめかす高圧的な手法に反発している識者が多い。

昨年645億円が「流出」した東京都の小池百合子知事は、本来、見直しに賛成する立場だが、野田総務相が会見で突然打ち出したことに疑問を呈していた。

庶民感覚からすれば、少しでも魅力的な返礼品が欲しいところ。それを総務省の上意下達で「言う事をきけ」というやり方に反発する向きが多いようだ。

地方向け経済対策と考えれば
もちろん、総務省が言う、「本来の趣旨とは違う」という点も理解できる。

都会に出て働くようになった納税者が、育ったふるさとにもその税の一部を支払えるようにしよう、というのが、制度が生まれたきっかけで、「税」が都市から地方へ「移転」されることを期待していた。

それが、「返礼品」目的で制度を使う人が急増したというのは総務省からすれば「想定外」だったのだろう。

また、国民の間にも、金持ちばかりが返礼品をもらえるのは不公平だとか、寄付なのに見返りを求めるのはおかしい、といった声もある。確かに、「税金の移転」と考えると、「本来の趣旨とズレている」と言いたい気持ちは分かる。

いっそのこと、ふるさと納税を「地方の消費拡大のための経済対策」と位置付けてはどうか。人口が減少している地方は、消費が頭打ちで、それが地域の経済基盤を揺るがしている。ふるさと納税を使って地方自治体が返礼品を地元から買い上げれば、間違いなく消費にプラスになる。

そう考えれば、返礼品の調達割合は3割である必要はない。むしろ3割という上限を撤廃してできるだけ地域からモノを買う。その経済対策の財源が「ふるさと納税」だと考えればよい。

昨年のふるさと納税(寄付)受け入れ額は3500億円だから、平均の返礼品調達が3割として1000億円強の消費を地方で生んだことになる。これを返礼品調達を9割まで認めれば、単純に地域での消費は3000億円になる。

寄付すれば、断然お得な返礼品が来るとなれば、受け入れ額は一気に1兆円に達するかもしれない。そうなれば1兆円近い経済対策を打つことになる。

消費刺激のための経済対策と言うと所得税減税が一般的だ。だが、所得税を減税しても、それがすべて消費に回る保証はない。貯蓄に回ってしまえば、消費には結びつかない。

ふるさと納税を住民税の2割を納税者に返す減税だと考えれば、返礼品が9割でも文句は出ないはずだ。

しかも、現金で返すのではなく、自治体が買い上げたモノで返すので、間違いなく消費を喚起する。初めから返礼品に上限を設けなければ、返礼品競争でふるさと納税を集めている自治体はそろって10割に近づけるだろうから、ルールを逸脱した「過度な競争」は起きなくなる。

政治決断で何とかなる
相次いだ天災もあり、消費が一段と落ち込む懸念が強まっている。来年2019年10月の消費税増税を乗り越えるためにも、それまでに消費を盛り上げておくことが重要だ。逆に消費が底割れすれば、消費増税に暗雲が漂う。

経済対策として行うので、ふるさと納税の返礼品の上限撤廃は2019年限りの特例とすればよい。幸い地方税の税収も増えており、ふるさと納税受け入れ分を「減税」と見立てても、税収不足で財政が立ち行かなくなることはない。まして地域の消費が盛り上がれば、地方財政にプラスに働く可能性もある。

問題は総務省には「景気対策」という発想がないことだ。「3割以下」「地場産品」という通達に従わない自治体を調べ上げることには熱心だが、多額のふるさと納税を集めた自治体にどんな経済効果があったかを分析する姿勢はみられない。

地方の消費を盛り上げる景気対策としてふるさと納税の仕組みを使う決断ができるのは、ふるさと納税の生みの親とされる菅義偉官房長官の「政治決断」ぐらいだろう。