働き方改革で変わる会社との関係 求められる「労働組合」の機能変化

ビジネス情報誌「月刊エルネオス」2月号(2月1日発売)に掲載された原稿です。

働き方改革」の影響で、会社と働き手の関係にも大きな変化が起きようとしている。
 終身雇用・年功序列を前提とした伝統的な日本企業では、会社と働き手はある意味「一心同体」。一生懸命に働いていれば、いずれ会社が報いてくれるという前提で、一種の信頼関係が成り立っていた。同期入社ならばある一定レベルまでは格差をつけず、昇格昇進させ、給与もほぼ同じ、というのが日本の会社の良さでもあった。会社と働き手の関係は「画一的」だったともいえる。
 ところが「働き方改革」によって、その前提が大きく変わり始めている。多様な働き方を求める人が増え、同じ社員でも労働時間や待遇が大きく違う例が増えつつあるのだ。これまでは考えられなかった「副業」の拡大などに政府も旗を振る時代だ。
 働く時間などをフレキシブルにした裁量労働制も広がっている。さらには、時間によらない働き方を認める「高度プロフェッショナル(高プロ)制」も導入された。会社と働き手の関係は、人それぞれ、多様になってくるのは明らかだろう。
 そんな中で問題なのは、どうやって働き手の権利を守るか、である。これまでは、働き方が画一的だったことから、勤務時間の短縮やベースアップなど賃金の引き上げを働き手全体として経営陣に要求する手法が取られてきた。従業員が所属する労働組合と経営陣が交渉して待遇を決める「労使交渉」がそれを担ってきた。
 労働基準法は労働条件の最低基準を定めた法律だが、そこにもしばしば、労働者の過半数で組織する労働組合との協定を結ぶことを求めている。働き手の条件を改善していくためには使用者、つまり、経営陣に要求を認めさせるよう、「労働者が団結」することが重要だ、というのがこれまでの「労働運動」の基本であった。

非正規社員と正規社員の格差

 ところが、働き方が多様になると、なかなか労働者は団結することが難しくなる。会社に求めるものも多様になってくるからだ。伝統的な製造業では今も労働組合が存在するが、新しいIT(情報技術)企業などでは、労働組合がない場合が少なくない。
 厚生労働省が毎年十二月に発表している「労働組合基礎調査」によると、二〇一八年六月三十日現在で全国にある労働組合は二万四千三百二十八組合。前の年に比べて百三十七組合減った。減少は過去二十年以上にわたって続いている。組合員の数自体はここ四年間、微増が続いているものの、全体の雇用者数が増えているため、推定組織率は一七・〇%と八年連続で前年を下回り、過去最低となっている。
 つまり、労働者の権利を主張し、権利を守る母体だった労働組合の組織率は年々低下しているのだ。
 特定の労組に入っていることを雇用条件にする「クローズド・ショップ」と呼ばれる仕組みをとっている場合、社員になった段階で、労働組合への加入が義務付けられる。一方で、加入が社員の自由である組合も多い。そうした場合、会社に入っても労働組合には加入しない、というケースが出てくる。会社にもともと労働組合がないのではなく、あっても入らない人がいることが、組織率の低下に結びついている。
 ではなぜ、労働組合に入らないのか。
「組合が働き手の味方になってくれるとは思えない」という声もある。本当の意味で、働き手の利益を代表していない、というのだ。大会社でさまざまな職種がある場合など、そうした不満の声をよく聞く。また、前述の通り、働き方が多様化して、労働組合が働き手それぞれの要望を捉えきれていない、という例も少なくない。
 その典型がパートタイムなど非正規労働者と、正社員の格差だ。大企業などの労働組合では、正社員は組合員になれても、非正規社員は組合員になれないケースが多い。厚労省の調査によると、パート労働者で労働組合に加入している人は百二十九万六千人。この四年で三十三万人も増加した。パート労働者の組織率は年々上昇しているとはいえ、二〇一八年で八・一%にすぎない。
 連合など労働組合団体にとっては、組織率の低下は重大問題だ。労働者の代表という立場に疑問を呈する向きも出てくるからだ。実際、政府は「働き方改革」の原案を作る段階で、労働組合代表の数を減らした。それまで、労働政策については、公労使(公益・労働・使用者)の代表による「三者合意」がなければ改革できないという不文律があった。それを「無視」する理屈にも、労働組合が労働者を代表しているとはいえない、という論理があった。

企業別組合から職能別組合

 連合などは、傘下の組合に対して、非正規雇用の人たちを労働組合に受け入れるよう呼び掛けている。非正規雇用の割合が高くなる中で、非正規の人たちの声も吸い上げなければ労働組合運動とはいえない、という切実な思いがある。しかし、正社員と非正規社員では利害が相反する場合もあり、共に闘うという形にはなりにくいのが実情だ。
 もう一つ、日本の労働組合企業別組合が基本で成り立っているという特殊性にも問題がある。欧米では職能別の労働組合が多く、企業の枠を超えて、同じ職種の人たちが組合をつくっているため、企業を超えて、職種や働き方が似た人たちが「団結」することを可能にしている。
 では、働き方が一段と多様化する中で、今後、労働者の権利はどうやって守られていくべきなのだろうか。旧来型の労働組合のあり方とはまったく違った発想で、新しい組合をつくっていく必要があるのかもしれない。企業単位ではなく、欧米のように、同じ職種の人たちが、働き方や待遇の改善を求めることがより重要になるかもしれない。また、個々の働き手が企業と労働契約を結ぶ形になっていく中で、そうした契約内容の是非などをアドバイスする役割も労働組合が担うべきではないか。
 高プロ裁量労働など、ともすると仕事を与える会社側の立場が有利になり、ブラック企業が大手を振ってまかり通ることになりかねない。多様な働き手を守る仕組みを作るためにも、労働組合が変化する時に来ているのではないか。

 

 

エルネオス (ELNEOS) 2019年2月号 (2019-02-01) [雑誌]

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