国の借金「1100兆円超え」でも政府が歳出を減らさないワケ

現代ビジネスに2月21日にアップされた拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59971

 

過去最大の1100兆円

「国の借金」が1100兆円を超え、過去最大になった。財務省が2月8日に発表した「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」によると、2018年12月末時点で1100兆5266億円と1年前に比べて1.4%、147兆円余り増加した。

いわゆる「国の借金」の水準については、GDP国内総生産)の200%という先進国内で最悪の財政状態で、このままでは早晩、財政破綻を引き起こすという見方がある一方で、国が持つ資産を差し引いた「純債務」はそれほど大きくないので、大騒ぎするほどではない、という主張もあり意見が分かれる。

だが、国債などの残高が1年で140兆円以上も増えているという事実は否定することができない。100兆円と言えば国の1年間の一般会計歳出予算を上回る金額である。

税収は60兆円前後なので、これに比べれば2.5倍近い。家計に置き換えれば、年収600万円の家庭で毎年1000万円を使い、利払いも含めて借金が毎年1470万円も増えているという信じられない状態なのだ。

借金を減らすには、いくつか方法があるが、まず初めにやらなければならないのが支出を減らすこと。年収600万円ならば支出も600万円に近づけるというのは当たり前の事だ。国で言えば、プライマリーバランス基礎的財政収支の均衡である。

基礎的財政収支とは、借金による収入や、返済などを除外した、行政に毎年かかる金額の収支。今も毎年10兆円弱の赤字が続いている。

政府は当初、2020年度にこのプライマリーバランスを黒字化すると言っていたのだが、すでに5年の先送りが決まっている。赤字の垂れ流しが続くのだ。

収入が増えても借金は返さない

それでも安倍晋三内閣になってプライマリーバランスの赤字は減ってきた。

アベノミクスによる円高是正で、企業収益が大幅に改善、税収が増えたからだ。2018年度の税収は60兆円前後になる見通しだが、これはバブル期ピークの1990年度の60兆1000億円以来で、過去最高水準に迫っている。

だが一方で、支出の圧縮には本腰を入れていない。現在国会で審議されている2019年度の予算案は、一般会計の歳出が初めて100兆円の大台を突破する。いつものように社会保障費が膨らむから、と理由を並べているが、実際は大盤振る舞い予算である。

税収が増えたものを借金返済に回すのではなく、歳出増に振り向けている。前出の家計に例えれば、大借金を抱えているにもかかわらず、ちょっとボーナスが増えたからといって、さらに贅沢な生活を始めているようなものなのだ。

借金の増え方を見ても、安倍内閣の借金削減に対する姿勢が緩んでいることがわかる。四半期ごとの国の借金の対前年同期比増減率をグラフにしてみると一目瞭然だ。

2012年12月の第2次安倍内閣発足以降、借金の増加率は急速に低下した。2012年12月は1年前に比べて4%増えていたものが、2015年12月はゼロとなり、2016年3月と2016年6月はともにマイナス0.4%になった。

わずかながらも借金が減ったのである。当時は、2020年のプライマリーバランスの黒字化が実現できるという見方が広がっていた。

ところが2016年秋以降、安倍内閣は一気に手綱を緩めた。アベノミクスの成果に対する批判が相次いだことが背景にあるが、国土強靭化などに歳出を増やしたのである。2016年の夏は安倍内閣の支持率が大きく低下していたタイミングでもあった。

それ以降、伸び率は鈍化していったが、2018年9月と12月は再び借金の伸び率が上昇し始めている。ついに100兆円を超す予算まで組んだことで、2019年9月まではおそらく借金の伸び率は大きくなるだろう。

危険な手法

本来なら財政の肥大化に真っ先に抵抗するはずの財務省が静かだ。借金が増えて大変だ、と口では言うものの、歳出削減を強力に進めようとはしていない。

安倍首相官邸内閣官房では経済産業省出身者が力を持ち、財務官僚の発言力が落ちていることが主因だとする解説もしばしば聞かれるが、財務省自身に歳出を圧縮する気が薄いのも事実だ。

なぜか。今、借金が減り始めては困るというのが本音だからだ。税収が大幅に増えているので、本気になれば借金を減らすことは可能である。だが、借金が減ると財務省にとって不都合が生じるのだ。

2019年10月から消費税率が8%から10%に引き上げられる。増税財務省の長年の悲願だ。「最大のリスク」(財務省幹部)である、過去に延期を繰り返してきた安倍首相も、実施する方向で腹を固めたとされる。

ただし、リフレ派を中心に、消費増税が景気に深刻な影響を与えるとして、延期あるいは増税中止を求める人たちは、官邸周辺にもまだまだ存在する。

そんな中で借金が減ってしまえば、増税しなくても景気が良くなって税収が増えれば借金は減るではないか、という主張が一気に盛り返す可能性があるのだ。だからこそ、首相官邸の大盤振る舞いに目をつぶっているのである。

だが、これは危険な手法だろう。緩めた財政はなかなか引き締めるのが難しい。いったん予算が付くとそれを削るのは、政治家も官僚も強く反対するからだ。財政の肥大化には政治家も官僚も基本的に賛成なのだ。

なぜなら、予算規模が大きくなれば政治家は「利権」が大きくなり、官僚も「権限」が増える。つまり、誰も本気で歳出を圧縮しようと考えないわけだ。唯一、国家のことを第一に考える官僚の中の官僚と言われてきた財務官僚にその役割を期待するしかない。