完全失業者「8年9ヵ月ぶり増加」が伝える、日本経済の危うい状況

3月28日の現代ビジネス(講談社)にアップされた拙稿です。オリジナルページ→

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人手不足を女性求職増が上回る

仕事を探していても職が見つからない「完全失業者」数が、2019年1月の調査で166万人となり、1年前に比べて7万人増えたことが分かった。完全失業者数が増加したのは何と8年9カ月ぶりのことだ。

安倍晋三首相が雇用情勢は改善していると成果を強調している折だけに、この「異変」をどう見るかが、今後の日本経済を占う上で重要なカギを握りそうだ。

総務省統計局が発表した1月分の労働力調査によると、仕事に就いている「就業者」数は6628万人と前年同月比66万人増加。企業などに雇われている「雇用者」数も5953万人と73万人増えた。

いずれも73カ月連続の増加だ。2012年12月に第2次安倍内閣が発足した直後から増加が続いていることから、雇用が増えたことが安倍内閣の最大の功績とされている。

就業者、雇用者が大きく増えているにも関わらず、現場の人手不足はまったく改善していない。正規社員・職員は前年同月比27万人増の3474万人と50カ月連続で増加、非正規社員・職員もここ1年あまり再び増加しており、35万人増の2154万人と16カ月連続で増えた。完全失業率は2.5%と空前の低さを維持している。

そんな中で完全失業者数だけが8年9カ月ぶりに増加したのである。いったなぜ増えたのだろうか。

中味を見てみると、男性の完全失業者は1万人減少しているにもかかわらず、女性の失業者が7万人増えているのだ(四捨五入のため合計が合わない)。

もっとも、女性の就業者数(15歳〜64歳)は1年前に比べて33万人も増えているし、65歳以上の女性でも1年前より21万人多い344万人が働いている。働く人が増えているにもかかわらず、失業者も増えているのだ。

つまり、働きたいと考えて求職活動を行う女性が増えている結果、失業者が増えたとみられるわけだ。今や女性の就業率は7割に達し、女性も仕事を持って働くのが当たり前の社会に変わっている。社会で活躍する女性が増えるのは歓迎すべきことだろう。

景気回復感を打ち消す「可処分所得」減少

完全失業者166万人のうち、111万人が仕事を辞めたために求職している人たちで、1年前に比べて5万人増えた。

会社の都合で辞めたために求職している人は22万人で、前年同月比2万人減っている。一方で、自己都合で辞めた人が72万人と5万人増えた。

これを見ても、失業者が増えたのは、景気回復が足踏みした結果、会社が社員や非正規雇用の人たちを解雇したり、雇い止めしたりしているというよりも、よりよい職場を求めて転職活動をしているという傾向が強いのだろう。

だが、一方で、新たに仕事を探し始めた人も40万人と4万人増えている。そのうち20万人が「収入を得る必要が生じたから」と理由に分類されている。1年前に比べて3万人増だ。

この調査から見えてくるのは、収入を補うために働かざるを得なくなった主婦が増えているということではないのか。

なかなか給与が増えない中で、税金や社会保険料が増加して可処分所得が減少、そこに、ジワジワと上昇する物価が追い打ちをかけている。貧しくなってきているから働かざるを得ない、というのが実態なのではないか。

「毎月勤労統計」の不正統計による不備で、実際のところどれぐらい給料が上昇しているのか、正確なところがわからない。一部の大企業ではベースアップなどが続き、所得が増えているが、中小企業で働く人たちは賃金上昇の恩恵をほとんど受けていないのではないか。

各種アンケートで、景気回復の実感が乏しいという結果が出てくるのは、家計の可処分所得が一向に増えないことにあるとみられる。いよいよ生活を守るために働きに出て、少しでも賃金を得ようという人が増えているのだろう。

激減、オフィス事務職の求人

これだけ人手不足なのだから、失業者が増えても一時的な現象として終わるのではないか、という見方も成り立つ。企業の採用意欲は依然として強いから、多少求職者が増えても、早晩、吸収されていくというわけだ。

その際、最大のネックは、求人職種と求職職種のミスマッチだろう。新たに職を求める女性が働きたい、これならできる、と思う職種と、企業などが求めている職種に大きなズレがあるのだ。

厚生労働省が発表した2019年1月の有効求人倍率は1.63倍と歴史的な高水準が続いている。仕事をしたい人1人に対して1.63件の求人があるということを示している。

有効求人倍率を職業別に見ると、「建設躯体工事の職業」が10.58倍、「自動車運転の職業」が3.19倍、「介護サービスの職業」が4.31倍などとなっている一方で、「事務的職業」は0.54倍と1倍を割っている。いわゆるオフィスでの事務職というのが激減しているのだ。

長年、主婦だった人が職に就きたいと考える場合、オフィスでの事務職を求める傾向が強いが、実際には、介護や販売などの仕事にしか就けないというケースが多い。こうした職種は時間や体力的に厳しいものの、給与水準が低いという問題点もある。

中国経済の減速などで、日本企業の収益改善も足踏みが予想されている。景気回復への期待が強いものの、生活が豊かになる実感はまだまだ乏しい。

失業者数の増加が、働かざるを得ない人の増加という「貧しくなってきた日本」の象徴だとしたら、やり切れなさを感じるのは筆者だけでないだろう。