最も忙しい役所はどこか?霞が関の働き方をガラリと見直すある試み  自民党が初の調査と提言

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明治以来初めての調査

霞が関で最も忙しい役所はどこか。自民党行政改革推進本部(本部長・塩崎恭久衆院議員)が、政策立案に関わる部署の「業務量調査」を行ったところ、それぞれの項目で厚生労働省が軒並みトップになった。

「国会答弁回数」「所管委員会への出席時間」「質問主意書への答弁書数」「審議会開催回数」「訴訟での被告件数」を調べ、定員1000人あたりで集計した。いずれも、政策立案の過程で行われている国会対応の業務量だ。

例えば答弁回数では厚労省が2212件でこれに、文部科学省が1998件、財務省が1081件と続いた。また、所管の委員会への出席時間も厚労省が419時間と、財務省の333時間を大きく上回ってトップ、ほかの3項目でもすべてトップになった。

さらに、国会対応業務以外でも5項目で調査。官報に記載された「政令の総ページ数」「省令の総ページ数」「告示の総ページ数」のほか、「行政事業レビューの件数」「財務省主計局への訪問回数」などを調べた。

定員1000人当たりでは、政令財務省が多かったものの、省令と告示では厚労省が抜きん出てトップとなったほか、レビュー事業数もトップだった。主計局訪問回数はトップだった文部科学省の286回に次いで、201回で2位になった。

今回の調査では、各省庁の業務量について様々な項目を調べた。霞が関全体の業務量を根本から調べたのは戦後初めて。おそらく明治に官僚制がスタートして初めての事だろう。

見直しは外部民間人に

提言では「これまでの霞が関では、古くからの仕事を十分に整理・縮減することなく、これらが『根雪』のようにたまったまま、新たな社会ニーズにも対応を求められてきた」とし「これが無理と歪みを生じ、さまざまな分野での変革が遅れる大きな要因ともなっていた」と指摘した。

つまり、次々に増える仕事を整理しないで抱え込んできたことが、霞が関に「根雪」のように仕事が溜まりに溜まった要因だとしているのだ。

そのうえで、抜本的な対策を提案している。

まずは、内閣官房に「業務の抜本見直し推進チーム」を設置すべきだとしている。トップは外部の中立的専門民間人とし、「相当数」の外部民間人材や、各府省の改革人材を起用すべきだとしている。

そのうえで、業務の抜本的な見直しに関する「骨太の共通ルール」を約3カ月以内に定めて全面的な業務の見直しに着手、その後9カ月を「集中取り組み期間」として見直しを行うとしている。

2つ目は内閣人事局で新たな機構・定員管理体制を確立すること。定期的に機構や定員を見直す体制を敷くことを求めている。また、デジタル化等の推進目標の設定なども行うべきだとしている。

3つ目は業務見直しに関わる幹部の人事評価の見直し。既存業務の廃止・縮小やデジタル化等の業務方法の効率化が幹部職員の主要な職責であることを明確化したうえで、人事評価に反映させるべきだとしている。

業務の見直しに、「中立的な民間人」を起用したり、人事評価に反映させたりするのにはワケがある。霞が関には伝統的に「予算を取って来る課長が偉い」という風潮がある。予算を取れば当然、仕事は増える、そこで力のある幹部は定員を獲得する。つまり業務量を増やすことが評価されてきたのだ。

また、予算をどう使うかは役所の権限そのもの。官僚たちの権力の源泉とも言える。逆に業務を廃止・縮小させれば、予算が減らされ、定員を削られる。つまり権力を手放すことになりかねない。そんな事を率先してやる官僚などいるはずもなかったのだ。

業務の見直しは各省庁・各部局の権限に踏み込む作業だから、中立的な民間人でなければ難しい。改革派官僚も守ってやらないと、所属する官庁から仕打ちをされかねない。だからこそ、業務を減らすことを幹部の職責としたうえで、人事評価をする。つまり、仕事を減らしたことが評価される仕組みに変えなければいけない、というわけだ。

日本の国際競争力強化にもつながる

すでに「業務の抜本見直し推進チーム」については、政府も設置に向けて動き出しているという。「夏前には設置されると聞いており、そこから3カ月で骨太の共通ルールを策定することになる」と同本部の事務局長を務める小林史明衆議院議員はみる。霞が関の仕事の抜本的な見直しがまがりなりにも始まることになりそうだ。

さらに提言では、「最も忙しい」事が判明した厚生労働省の改革にも触れている。

厚労省については「暫定的に」定員を増やしたうえで、官民から有為な人材を求めるべきだとしている。

さらに、国会の厚生労働委員会を「厚生委員会」と「労働委員会」に分け、それぞれに担当副大臣を置いて対応することも提案した。副大臣では対応できない場合は、特命担当大臣厚生労働省に置き、大臣2人体制にすることも考えるべきだ、とした。

霞が関の深夜残業などの根源とされる国会対応業務については、早めの質問通告を促すために、「議員からの質問通告の確定した時間を公表」することなど、現状の業務状況の「見える化」を行うべきだとしている。

業務の大幅な見直しの中味や方法については今回の提言では触れられていないが、全面的な電子化や決裁方法の見直し、テレワークの促進などを想定している。

霞が関はまだまだ紙の文書を前提とする政策立案や決裁の仕組みが中心で、欧米政府のようなデジタル化にはほど遠い。一方で、こうした行政部門のガラパゴス化が日本全体の国際競争力を阻害していると声も根強い。そうした危機感が今回の提言に踏み切った議員の共通認識になっている。