弁護士のおいしいビジネス? 企業の「第三者委員会」は信用できるか  レオパレス21報告書は辛うじて合格

7月4日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

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不祥事が起きるたびに、企業が設置するのが一種のパターンになっている「第三者委員会」。最近では様々な事故や事件に対して、学校や行政機関が正しく対応したかなど、調査する際などにも設置される。

だが、その報告書をみていると、本当に「第三者」による中立公正な調査で、原因究明や再発防止策の提言が十分なのか、疑問を感じるものも少なくない。

突っ込みに欠けるレオパレス21報告書

そんな「第三者委員会報告書」のあり方に目を光らせ、評価をして「格付け」の形で公表しているグループがある。「第三者委員会報告書格付け委員会」。委員長は弁護士の久保利英明氏、副委員長は同じく弁護士の國廣正氏が務め、総勢9人。弁護士5人、学者2人、ジャーナリスト2人が無償奉仕で報告書を読み、格付けしている。

その格付け委員会が6月末、21回目になる格付け結果を公表した。対象にした報告書は、賃貸アパート大手「レオパレス21」が設置した「外部調査委員会」が2019年5月29日に公表した「成功不備問題に対する調査報告書」。同社が建設したアパート物件で施工不良が相次いで発覚、同社とアパートの賃貸借契約を結ぶオーナーによる集団訴訟に発展している。

施工不良の物件は5月になってもあらたに1138棟が確認され、5月末時点で1万6766棟にのぼると報じられている。問題が拡大する中で「外部」者が調査した報告書が公開されたわけだ。

格付けを行った格付け委員会の委員8人(利益相反から1人は参加せず)の結果は、AからDとFの5段階の評価で、2人がC、6人がDを付けた。Fはそもそも報告書の体をなしていない「不合格」という扱いなので、この報告書は「辛うじて合格」という評価に集中した。

評価基準は、日本弁護士連合会が2010年に公表した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」をベースにしており、委員構成の独立性や中立性、専門性から、調査スコープの的確さや十分さ、原因分析の深度、企業の社会的責任や役員の経営責任への適切な言及といった項目を考慮して評価している。

企業体質にまで踏み込んだか?

レオパレス21の外部調査委員会については、3人全員が元検察官で、会社との利害関係はない点に一定の評価はあったものの、建築関係の専門家が委員に加わっていない点について専門性に欠けるという指摘が多かった。

久保利氏は「専門性には大きな疑問符が付く。本件のような建築物に関する施工不良、建築基準法違反が問題とされる事案で、なぜ同一事務所の弁護士のみで委員会を構成するのか説得力はない」と手厳しい。

また原因について2006年に代表取締役社長を退任した深山祐助氏に責任があるという報告書の結論について、疑問視する声も多かった。

「2006 年以降の経営陣、とりわけ 2010 年から直近まで代表取締役社長を務めた深山英世氏を対象としてどのような調査を行い、どのような事実が認定され、どのような原因が究明されたのかは記載されておらず、2006 年以前と比較して踏み込み不足の感が否めない」(弁護士の竹内朗委員)という指摘が多くの委員から挙がった。

ジャーナリストの塚原政秀委員も、「2010年2月から社長を務めた深山英世氏(5月30日に引責辞任)ら役員のヒアリング内容は必ずしも、具体的に書かれておらず、その的確性や十分性に疑問符が付く。当然、英世社長らからもヒアリングしたと思われるが、調査時点での最高責任者の具体的記述が報告書にないのは、非常に残念である」と指摘した。

さらに、「調査の過程で、レオパレス 21 に資料提供を求めても存在していないとして入手できなかったとする重要資料がかなりあった。しかしながら本報告書ではこの問題に対しては、このような事実が存在したとあるだけで、それ以上に企業体質、企業風土の問題まで掘り下げられた検討はなされていない」(弁護士の齊藤誠委員)と企業風土についての言及もあった。

本当に第三者

もっとも、Dが大半を占めたレオパレス21の外部調査委員会報告書が取り立てて問題が大きかったというわけではない。

2014年の設立以来、これまで格付け委員会が格付けを行った21件では、厚生労働省の「毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会」の報告書や、東亜建設工業の「地盤改良工事の施工不良」問題に関する報告書には全委員一致で不合格のFが付いた。

また、DとFの評価に集中した報告書も過去に4回あった。

一方、雪印種苗種苗法違反問題の報告書では、「Aが1人、Bが8人」という高い評価を付けたほか、三菱自動車工業の燃費不正問題の報告書は「Bが5人、Cが1人」といった比較的高い評価もあった。

日弁連がガイドブックをまとめているにもかかわらず、それに準拠しない第三者委員会や報告書がまかり通るのは、第三者委員会を設置するのが問題を起こしている企業の取締役会や経営者であるケースがほとんどのため。委員には会社から多額の報酬が支払われている。

短期間にそこそこの人数の弁護士を動員できる大手中堅の弁護士事務所によって「第三者委員会ビジネスともいえる分野が出来上がっている」(久保利弁護士)面もあり、経営陣に厳しい報告書を出せないという事情があるとみられている。格付け委員会の格付けについては、業務妨害だと苦情を言う弁護士もいるという。

三者委員会というと、あたかも第三者が中立的な立場から問題点を指摘するものだと期待させられる。だが、それが本当に機能するためには、第三者委員会を引き受ける委員らの「覚悟」が必要であることは言うまでもない。

厳しい報告書は一見、企業にとって痛手に思えるかもしれないが、それによって再発防止が図られれば、企業の将来にとっては大きなプラスになる。