早くも「消費失速」が鮮明に、10月消費増税で「底が抜ける」⁉  これで外国人観光客がさらに減れば

現代ビジネスに8月22日にアップされた拙稿です。オリジナルページ→

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失速の内訳

増税を前に消費の「失速」が鮮明になった。8月21日に日本百貨店協会日本チェーンストア協会が発表した全国の百貨店、スーパーの7月の売上高は、いずれも前年同月比で大きく減少した。

全国百貨店売上高(店舗数調整後)は前年同月比2.9%の大幅減、全国スーパーの総販売高(店舗数調整後、既存店ベース)は7.1%減とこれも大きく落ち込んだ。スーパーの店舗数調整前の売り上げに至っては10.9%の減少だった。

今年の7月は例年に比べて気温が低かったこともあり、「夏物衣料」の販売不振が目立った。百貨店の衣料品は6.9%のマイナス、スーパーの既存店ベースは16.2%の減少だった。

天候不順が直撃した格好だが、比較対象になる昨年7月は集中豪雨などが直撃した時期。百貨店の場合、売上高が6.1%減と大きく落ち込んでおり、スタート台はむしろ低かったと言える。それだけに、天候要因だけでなく、全体の消費マインドが落ち込んでいることを伺わせる。

内閣府が7月31日に発表した7月の「消費動向調査」では、消費者心理を示す消費者態度指数(2人以上の世帯、季節調整済み)が、前月より0.9ポイント低下して37.8となり、10カ月連続で前月を下回った。2014年4月以来5年3カ月ぶりの低水準だった。

2014年4月というのは前回、消費増税が実施され、税率が5%から8%に引き上げられた月である。何と、再増税を直前に控えて、前回の増税後と同じくらい消費者心理が冷え込んでいるというわけだ。

しかも、消費動向調査での心理的な冷え込みが、実際の行動として、百貨店やスーパーの売り上げ激減に結びついたことが今回明らかになったわけだ。

駆け込み需要はどこに行った

本来ならば、消費増税を控えて、駆け込み需要が盛り上がっても良いはずだ。実際、前回の消費増税前の百貨店売り上げの推移をみると、2014年1月の2.9%増から、2月3.0%増、そして直前の3月は25.4%増と大きく増えていた。

中でも高級時計や宝飾品、美術品といった価格の高い商品は売れに売れ、百貨店の「美術・宝飾・貴金属」部門は、1月22.6%増→2月24.5%増、3月113.7%増と記録的な販売になった。高級時計などショーケースから物が無くなるほどの売れ行きだった。

足下の百貨店の売り上げの中では、「美術・宝飾・貴金属」は好調には違いないが、5年前とは明らかに様相が違う。7月の同部門の売上高は8.6%増に過ぎない。つまり、駆け込み需要が目立って盛り上がっていないのだ。

ちなみに、こうした高額商品はインバウンドの旅行者のお目当てでもある。2017年4月以降、百貨店の「美術・宝飾・貴金属」売り上げは、2カ月を除いて前年同月比プラスを続けている。

この主因はインバウンドの外国人観光客の購入だ。観光客の場合、免税手続きをして購入するため、消費増税は関係ない。つまり、現状の高額商品の順調な売り上げは、必ずしも消費増税前の駆け込みとは言い切れないわけだ。

なぜ、駆け込み需要が起きないのか。

6月頃まで、多くの国民の間では、安倍首相が消費増税をまたしても見送るために、解散総選挙に打って出るという見方が広がっていた。安倍首相に近い政治家から、増税先送りに国民の信を問うこともあり得るとする観測が流されていたこともある。

ところが7月の参議院議員選挙に向けて準備が始まり、時間的に同日選挙が無くなったころから、国民の間でようやく増税が現実味を帯びてきたのである。

政府からすれば、駆け込み需要のヤマがなくなれば、その反動減は小さくて済むという考えかもしれないが、国民は増税を前にして一気に財布のヒモを締めたということではないか。

それぐらい、実態景気の地合いが悪いということだろう。

外国人観光客減の恐怖

「経済好循環」を掲げていた安倍晋三首相からすれば、過去最高の高収益を上げた企業が賃上げを行い、家計の可処分所得を増やすことになれば、それが消費に向かい、低迷している消費が上向くはずだった。

首相自ら「3%の賃上げ」を経済界に求め、最低賃金も3%の引き上げを続けてきたが、現実には消費を担う若年層の可処分所得を大きく増やすには至っていない。

これまで消費を底支えしてきたインバウンド消費にも先行き不安が出始めている。

7月に百貨店で免税手続きをして購入された金額は281億3000万円と前年同月比3.3%増えた。かろうじて増加が続いているが、かつてのような2ケタ増は姿を消し、今年1月にはマイナスを記録した。6月も0.6%の増加にとどまった。

しかも、免税手続きをした件数は、2014年10月の免税範囲の拡大以降、増加を続けていたが、今年4月に初めて0.2%のマイナスとなり、6月は1.1%減、7月は3.5%減と2カ月連続で減少したのだ。

日本政府観光局(JNTO)が8月21日に発表した7月の訪日外客数は、299万1000人と前年同月比5.6%増加。単月として過去最高を記録した。中国からの訪日客が19.5%増えたほか、フィリピン、ベトナムといった国々からの訪日客が増えている。

一方で、戦後最悪とも言われる日韓関係を背景に、韓国からの7月の訪日客は7.6%も減少した。韓国で日本製品不買運動と合わせて、日本に行かない運動なども起きている影響が出始めているとみられる。訪日客の増加傾向に今後、変化が出て来る可能性はありそうだ。

仮にインバウンド消費が頭打ちになり、消費増税によってさらに国内消費が落ち込めば、日本経済は底割れする可能性も出て来る。さすがにこのタイミングになっては消費増税の先送りも難しい。

来年のオリンピックに向けて、国民の消費マインドが改善し、財布のひもが緩むことで、消費増税の影響が吸収されることを祈るばかりだ。