郵政3社「時価総額」半減で、政府保有株「売却延期」が急浮上のワケ 郵政民営化はどこへ行った

現代ビジネスに8月30日にアップされた拙稿です。オリジナルページ→

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時価総額が「半減」…!

かんぽ生命保険の不正販売問題で、郵政3社の株価が大きく下落している。かんぽ生命株は1455円、ゆうちょ銀行株は947円、親会社の日本郵政は938円と、いずれも8月26日に上場来安値を付けた。

3社とも2015年11月に東京証券取引所に上場、上場直後には軒並み高値を付けた。上場高値は、かんぽ生命が4120円、ゆうちょ銀行が1823円、日本郵政は1999円なので、上場来高値から上場来安値までの下落率はそれぞれ65%、48%、53%ということになる。まさに暴落と言っても過言ではない。

株価に発行済株式数をかけた「時価総額」の3社合計は、ピークだった2015年12月には19兆円を超えていた。8月の安値では9兆5000億円を下回っており、ピークの半分以下になった。日本郵政グループの企業価値が半減したわけだ。

かんぽ生命の不正販売を巡る問題は今年6月に発覚。

保険契約者に契約の更改を勧めるに当たって、単純に切り替えるのではなく、新旧の保険料を二重に徴収する期間を設けたり、無保険期間を生じさせたりするなど顧客に不利益となる契約更改を行っていたというもの。

いずれも契約成績を水増ししたり、それに伴う奨励金を得るのが目的で、現場の営業職員の間で広く行われていたとされる。

不正の「真の背景」

7月31日の会見で明らかになった不正販売の規模は驚くべきものだった。2014年度から18年までの5年間だけで、顧客の不利益につながった恐れがある契約が約13万7000件に上ることを明かしたのだ。

もっとも、全容は分からないため、9月中に3000万件の契約者全員に更新の経緯などを確認するとしている。

現状で、半年以上にわたって顧客に保険料を二重払いさせていた疑いのあるケースが約7万件、特約などの切り替えで済むのに保険全体を乗り換えさせたケースが約2万5000件、新契約への乗り換えを拒んだケースが約1万9000件、予定利率の低い同じ種類の契約に切り替えさせた件数が約2万件、一時的に無保険状態になった契約が約4万6000件にのぼることなどが明らかになっている。

いったい、なぜ、こんな不正販売が全国の郵便局で当たり前のように行われていたのか。

メディアには次々に現場の「過酷なノルマ」の話が溢れた。経営者が設定したノルマを達成するために、不正に走ったという話になっているのだ。

かんぽ生命が設定・販売する保険は、日本郵便が経営する全国の郵便局でも販売されている。日本郵便は2019年度の営業目標として450億円の販売を設定、それが郵便局ごとに割り当てられていたという。

民間企業ならば営業目標の設定は当たり前のことだろう。だからと言って、民間企業で不正販売が横行しているわけではない。

にもかかわらず、日本郵便の経営陣は労働組合から批判を浴びると、すぐさま今年度の営業目標を廃止、かんぽ生命の保険商品の販売を自粛することを決めた。一連の不正販売がノルマを課した経営者の責任であることを事実上、認めたのである。

しかし、経営陣が本当に責任を取るのかといえば、どうも怪しい。日本郵政長門正貢社長も、かんぽ生命の植平光彦社長も、日本郵便の横山邦男社長も「それぞれの会社で陣頭指揮をとり邁進するのが職責だ」として、辞任を否定しているのだ。

とくに日本郵政長門社長は自分自身に責任があるとは思っていないフシがある。というのも、かんぽ生命の植平社長と日本郵便の横山社長は7月10日に謝罪会見を開いたが、その席に長門氏の姿はなく、厳しい批判を浴びた。7月31日にはようやく3人揃っての会見となったが、前述のように辞任は否定している。

「岩田発言、清田発言は非常に重いので、この場をお借りして、冗談ではないということを申し上げておきたい」

長門社長は記者からの質問にこう反発してみせた。岩田発言とは、政府の郵政民営化委員会の岩田一正委員長が記者会見で、「不祥事案は速やかに公表すべきだった。透明性が極めて重要だった」と指摘したこと。

日本郵政は4月23日に、かんぽ生命の株式を大量に売却、日本郵政保有株比率を89.00%から64.48%に引き下げていた。長門社長は、かんぽ生命の取締役も兼ねており、かんぽ生命株を売却する時点で今回の不祥事を知っていたのではないか、という嫌疑を岩田氏が指摘したのだ。

清田発言とは、日本郵政とかんぽ生命が上場する東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)の清田瞭・最高経営責任者(CEO)が、同様に「適切な情報開示がなかった」と批判したことを指している。

これらの指摘に対して長門氏が「冗談ではない」と開き直ったのだ。

実は、かんぽ生命は3月末までに金融庁に対して保険業法に違反した事例22件を報告していた。その中にも今回のような不正販売が含まれていたという。つまり、長門氏は不正販売が行われていたことを知る立場にあったということなのだ。

こうした疑惑に長門氏は「知らなかった」と繰り返している。現場から情報が上がっていなかったというのだ。

「郵政グループの経営陣は現場をまったく知りませんから」と、同業の民間企業のトップは語る。郵政民営化で経営トップは外部からの人材を据えたが、現場と経営陣の間には大きな溝があるというのである。

だからと言って、郵政の信頼を大きく揺るがす大問題に発展した問題に頰かむりを決め込むことは難しいだろう。全容が解明された段階で、トップの辞任は避けられない。

はっきり言って民営化失敗

問題は、民営化の象徴だった外部からの民間人経営者登用が頓挫することで、郵政民営化が再び遅れていくことだ。

当初、郵政民営化は2017年9月末までに政府の保有株がすべて売却され、かんぽ生命も、ゆうちょ銀行も完全な民間企業になる予定だった。ところが民主党政権時代の郵政改革の見直しで、保有株は「できるだけ早期に」売却するという文言に改められた。その結果、政府保有株の売却は遅々として進んでいない。

また、冒頭で見たように郵政3社の株価は大きく下落しており、そうした中で今年秋にも予定されている日本郵政株の売却がさらに延期されていく可能性が出てきかねないことだ。

今でも日本郵政の株式は国(名義は財務大臣)が63.29%を持ち、その日本郵政がかんぽ生命株の64.48%、ゆうちょ銀行株の88.99%を保有する。日本郵便日本郵政の100%子会社だ。

民営化と言いながら、まだ日本郵政は国の「子会社」、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、日本郵便は国の「孫会社」なのである。

かんぽ生命の不正販売問題が、郵政民営化をさらに遅らせることになるとすれば、まさしく改革に逆行することになりかねない。