使わないなら家計に回せ!企業「内部留保」が7年連続過去最大って…  アベノミクス機能不全の元凶

現代ビジネスに9月5日にアップされた拙稿です。オリジナルページ→

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増え続けているが「好循環」には遠い

企業が持つ「内部留保(利益剰余金)」が、またしても過去最大となった。

内部留保は、企業が上げた利益のうち、配当などに回されず、会社内に蓄えられたもの。2008年度以降毎年増え続け、7年連続で過去最大となった。

財務省が9月2日に発表した法人企業統計によると、2018年度の金融業・保険業を除く全産業の「利益剰余金」は463兆1308億円と、前の年度に比べて3.7%増えた。

全産業の経常利益が83兆9177億円と0.4%に留まるなど利益の伸びが大きく鈍化したこともあり、剰余金の伸び率は2017年度の9.9%増に比べて小さくなった。

安倍晋三内閣は「経済好循環」を掲げ、好調な企業収益を賃上げによって家計に回すことや、積極的な設備投資や配当の増額などを求めている。

同年度に企業が生み出した「付加価値額」は314兆4822億円。前の年度に比べて0.9%の増加に留まった。一方で、「人件費」の総額は1.0%増の208兆6088億円で、かろうじて付加価値の伸びを上回った。このため、付加価値に占める人件費の割合である「労働分配率」は2017年度の66.2%から2018年度は66.3%へとわずかながら上昇した。

もっとも、2017年度の人件費の伸び率は2016年度に比べて2.3%増えていたが、2018年度の人件費の増加率は1.0%に留まった。安倍首相は2018年の春闘に当たって「3%の賃上げ」を求めたが、結果を見る限り、程遠い実績となった。

また、企業が支払った「租税公課」は10兆8295億円と6.5%増えた。法人税率は下がっているものの、企業業績の好調を背景に、法人税収や消費税収が増えた。実際、国の集計でも、2018年度の税収は60兆3564億円となり、バブル期を上回って過去最大となった。

人件費の1.0%増という伸びは、租税公課の6.5%増、内部留保の3.7%増を大きく下回っており、「国」「企業」「家計」という3主体で見た場合、家計への分配が立ち遅れていることを示している。

設備投資、税収、配当に比べ人件費が

ではいったい、なぜ、企業の内部留保は増え続けるのだろうか。

しばしば言われるのが、企業にとって魅力的な投資先がないため、投資を手控えている、というもの。政府が企業の投資に税制上の優遇策など様々な恩典を与えている。2018年度はそうした効果が出はじめたのか、全産業で8.1%設備投資が増えている。

株主への還元も国際水準に比べて低いという指摘がされてきた。2018年度の配当金の総額は26兆2068億円。前の年度に比べて12.4%増えた。

ここ数年、日本企業のコーポレートガバナンス改革が進み、大株主である生命保険会社や年金基金などが「モノ言う株主」へと変わり始めている。

生保など機関投資家に対してはスチュワードシップ・コードによって保険契約者などの最終受益者の利益を最大化するよう行動することが求められており、配当の引き上げや自社株消却といった株主還元を企業に求める声が強まっている。こうした圧力に企業が押されている面もあり、配当が増加傾向にある。

やはり問題は人件費の伸びが小さいことだ。安倍首相はさんざん経済界に賃上げを求め、最低賃金の引き上げも続いているが、統計数字で見る限り、人件費の伸びは小さい。一方で、雇用者数は過去最多を更新し続けており、1人当たりの人件費はむしろ減少している可能性が高い。

10月から消費税率が引き上げられるなど、税負担が増えているほか、社会保険料負担も増しており、家計の可処分所得は減少傾向が続いている。消費が一向に盛り上がらないのは、家計が貧しくなっているからに他ならない。

働く側の主張が企業経営者に届かないという問題もある。

厚生労働省の「労働組合基礎調査」によると、2018年の労働組合の推定組織率は17.0%。組織率の低下が続いており、賃上げ要求など経営への「圧力」がますますかからない状態になっている。

組合がない企業や、組合があっても組合員にならない社員が増えている。これが、賃上げ要求などの力を弱めている面もある。

家計のみが犠牲に

増え続ける内部留保に批判の声は強い。

共産党だけでなく、立憲民主党や、参議院議員選挙で躍進したれいわ新選組など野党は、引き下げられてきた法人税率の引き上げを求めている。高所得者や資産家とともに、大企業からももっと税金を取るべきだ、というのだ。

第2次以降の安倍内閣は、法人税率を大幅に引き下げることで、日本企業の国際競争力を維持しようと試みてきた。アベノミクスの大胆な金融緩和もあって円高が修正されたこともあり、企業収益は過去最高に跳ね上がった。税率を引き下げても税収が過去最高になったわけだから、政策としては間違っていなかったと言うこともできる。

想定外だったのは、企業収益が思ったほど家計に分配されていないということだ。アベノミクスの恩恵を感じないという個人が多いのも、賃上げが進まず、可処分所得が増えていないことが大きい。れいわ新選組の主張に共鳴する有権者が多かったのも、こうした不満が国民の間に溜まっていることを示している。

政府自身も内部留保の増加には頭を痛めている。

日本が成長しないひとつの理由として、企業が儲けを溜め込んで再投資しない点を問題視している。

一部には内部留保に課税すべきだという意見もあったが、「2重課税になるという批判もあり、現実には難しい」(財務省幹部)という見方が一般的。

一時は外国ファンドなどが株主還元の増加を狙って、内部留保課税の導入を政府に働きかけていたが、今はその動きも消えている。

このままでは、再び企業収益の伸びが大きくなれば、その分だけ内部留保が増えることになりそう。果たして、この問題にどう安倍内閣は手を打っていくのか。

消費増税で家計への負担が高まる中で、企業ばかりが懐を膨らませているという批判は、有権者の怒りに火をつける可能性もある。