関西電力の闇…会長が辞任しても社長が「調査後」まで居座る理由  そこまでして政治家ルートを隠すのか

現代ビジネスに10月10日にアップされた拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67702

責任をとったのは会長だけ

ようやくと言うべきだろう。関西電力八木誠会長が辞任すると主要メディアが報じた。高浜原発がある福井県高浜町森山栄治元助役(故人)から約3億2000万円の金品を関電幹部が受け取っていた問題では、八木会長や岩根茂樹社長も金品を受け取っていたことが明らかになり、批判が高まっていた。

9月2日の記者会見では会長社長とも続投する意向を示していたが、大株主である大阪市松井一郎市長や、監督官庁経済産業省菅原一秀大臣らから批判の声が上がっていた。

驚いたのは、八木会長が辞任することになった一方で、岩根社長は居座りを決めたこと。報道では「年末までに進退を判断する意向」「近く設ける第三者委員会の調査が終了するまでは職にとどまり、その後、辞任する方向」などと伝えられている。

9月2日の会見で岩根社長は「原因究明、再発防止を行い、少しでも会社の信頼を上げられるように、先頭に立って経営責任を果たしていきます」と述べていたが、まさに「原因究明」は自らが行うという姿勢を変えていないのだ。

あくまで会社側の第三者委員会

三者委員会というとあたかも会社から独立した組織のように思われがちだが、実際には、会社がメンバーを選び、会社が報酬を支払うので、実際には独立性を維持するのが難しい。会社で最も力を持つトップの意向が人選に働くのは当然である。

今回の関電のように金品を受領した当事者が社長として力を持っている中で、その社長に指名された「第三者委員会」がどこまで雇い主である社長の批判をできるのか。関電トップの口から何度も漏れている「不適切だが、違法ではない」という結論が初めから見えてきそうだ。

つまり、岩根社長が調査終了まで社長にとどまりたいのは、調査内容に影響力を与えたいからに他ならないだろう。

コーポレートガバナンスに詳しい久保利英明弁護士や國廣正弁護士らが自主的に行っている「第三者委員会報告書格付け委員会」(http://www.rating-tpcr.net/)が過去21回行った格付けでも、第三者委員会としての報告書として体をなしていないという判断を委員がした報告書は10に及んだ。多くが、第三者委員会としての会社からの「独立性」に問題があるという理由だった。人選した会社側、多くは社長らトップの意向を忖度した報告書が出来上がっているわけだ。

関電は10月9日に臨時取締役会を開いて、第三者委員会の設置を決めた。大物をずらっと揃え「完全に独立した社外委員」を選んだとしている。問題は社長として調査に関わり続ける岩根氏がどんな形で「協力」することになるのか。当然、社内の文書や記録を委員会に提出するかどうかは社長が判断することになるだろう。

「第三者委員会」と言っても警察ではないので、事務室に踏み込んで強制捜査ができるわけではない。会議室で会社側が用意した資料を検証し、幹部や社員にヒアリングすることになる。

関電関係者だけではないからこそ

しかし、岩根社長がそこまで居座って調査終了まで見届けなければならない理由というのは何なのだろうか。現状出ている金品の授受だけで終わらない何かがあると見るべきだろう。

メディアでは、稲田朋美・元防衛相(福井1区)や高木毅・元復興相(福井2区)の講演会が、森山元助役側から献金を受けていたと報じられている。また、森山氏が相談役を務めるなど関係のあった会社から、政治家への献金などもあきらかになっている。

今、大手メディアは各政治家の政治資金収支報告書を当たって、関西電力関係や、森山元助役の関係会社などからの政治献金を洗っている。こうした原発マネーの政治家への還流などは、関電は把握していた可能性があるが、岩根社長はそうした「余計な」情報が第三者委員会に流れないようにブロックする役割を担うのだろうか。

会見でも明らかになったように、関電側はいかに森山元助役が高圧的に金品の受領を迫ったかを繰り返し述べ、「預からざるを得なかった」という印象操作を行っている。だが、世の中一般の会社は、そうしたコワモテの相手との関係は、2000年前後の総会屋事件で各社とも清算を終えている。

関電が機能不全にしたモノとは

コーポレートガバナンスの強化は、社長の行動を縛る面ばかりに目が行きがちだが、実は社長をそうした不法行為や暴力的行為から守る仕組みでもある。

監査役社外取締役の厳しい目があるから、社長の一存でそうした行為に手を染められない。いくら脅されようとそれを受け入れたら自分はクビになるというプレッシャーがあると同時に、ガバナンス上、そうした金品を受け取れば監査役会などの知るところとなり、白日のもとに晒されてしまう。そうなれば金品を贈った側にも批判が及ぶ。

ところが、関電はそうしたコーポレートガバナンスの仕組みを、自ら機能不全にしていたことが明らかになった。監査役が幹部による金品の授受の実態を把握していながら、取締役会に報告していなかったというのである。

多額の金品を受け取っていた役員だけでなく、それを知りながら見逃していた常勤監査役や社外監査役も、この際、すべて辞任するべきだろう。関電の信頼回復の道のりは遠い。