規制改革派の元官僚「原英史」をバッシングする「黒幕」の正体 反改革派が着々と成果

現代ビジネスに11月1日に掲載された拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68152

不思議な追及キャンペーン

いま、元官僚の原英史・政策工房社長が一部メディアや野党から猛烈なバッシングを受けている。原氏は事実無根の人権侵害だとしてSNSを駆使した反論を展開しているので、関心を持って推移を見ている人も多いに違いない。

原氏は霞が関や永田町で「政策」を扱う人たちの間では「改革派」としてつとに有名だが、一般にはこれまでさほど知られた存在ではなかった。

それが突然、原氏追及キャンペーンが始まったのは2019年6月11日のこと。毎日新聞が1面トップで、「特区提案者から指導料 WG委員支援会社 200万円、会食も」の見出しと、原氏の顔写真が付いた図版を掲載。その後、6月15日まで5日間連続1面で報道した。あたかも天下の極悪人を追及するといった扱いである。

もっとも、毎日新聞以外は無視で、まったくと言ってよいほど報じていない不思議な“事件”である。

原氏は即日SNSで200万円をもらったり会食したりした事実はないと反論、毎日新聞に謝罪を求める内容証明などを送ったが、毎日新聞はその後も同様のニュースを発信し続けたため、6月26日付けで毎日新聞社を提訴、裁判になっている。

訴訟になると他のメディアは報道しにくいので、一時、両者の紛争は下火になるかにみえた。毎日新聞側が訴訟の場では「原氏が200万円を受け取ったとは書いていない」と主張を変え、どうみても毎日新聞の旗色が悪くなっていた。ところがそこに新たな「援軍」が現われる。

野党議員への反論は「内乱罪」か

国民民主党の一部など野党議員が原氏追及に乗り出したのだ。中でも森ゆうこ参議院議員は国会質問で、原氏が金銭を受け取ったということを前提に「公務員なら斡旋利得罪」だと激しく批判した。

原氏は、毎日新聞ですら事実上撤回している金銭受領をあたかも事実であると決めつけるのは明らかな人権侵害だと反論したが、国会議員は国会での発言について刑事訴追されない「免責特権」が憲法で定められている。名誉毀損などでは訴えられないのだ。そこで原氏は、参議院に森議員の懲戒を求める署名活動をネット上で展開。現段階でも6万人近い署名を集めている。

驚いたのは、森議員が次々と論点を変えていることだ。

議員は国会での質問内容を事前に通告することになっているが、その提出が遅れ、巨大台風が近づいている中、霞が関の官僚が足止めを食うことになったとネット上で批判されると、今度は、質問内容が原氏に漏れていたと言い出し内閣府を攻撃し始めた。その上で、原氏らの批判や署名集めを「質問権の侵害」だと言い出したのだ。原氏と「改革」の盟友である高橋洋一嘉悦大学教授がテレビ番組やツイッターで批判をすると、それも審議妨害だと言い始める。

参議院議員平野貞夫氏も参入。「高橋洋一氏らの森ゆうこ議員への審議権妨害は、立法府の基本秩序を破壊する内乱罪と同質だ。参院は高橋氏ら関係者を刑法234条(威力業務妨害罪)で検察に告発すべきだ」とツイッターで批判している。

原氏が200万円もらったという疑惑追及だったはずが、いつの間にか民主主義を脅かす「内乱罪」という話にまでエスカレートしている。

憲法51条が定める免責特権とは、国会議員が議院で行った演説・討論・表決について、院外で責任を問われないというものだ。これが憲法に盛り込まれたのは明らかに戦前への反省で、議会で政府批判を行った議員が逮捕されたり、言論封殺されないための防御策である。権力者から弱い立場の議員を守るのが立法の主旨で、民間人に対する人権侵害を守るためのものではないはずだ。

「護憲」を言っているはずの議員たちが、軽々に憲法の規定を都合よく使うことは、逆に憲法を危うくする。ましてや、内乱罪というのは最高刑が死刑だ。ネット上では平野氏に対して、「死刑相当だと恫喝しているに等しい」といった批判が噴出している。

森議員のツイッターには森氏を批判する声があふれているが、森議員自らこうツイッターで発信している。「私のツイッターには罵詈雑言がぶら下がった。私でなければ質問するのが怖くなり、質問を取りやめたかもしれない」。どうやらツイッター上の批判も「質問権の侵害」だと言いたいようだ。

もともとツイッターを使って頻繁に発信しているのは森議員である。批判をされると、その全員が安倍首相シンパのネット右翼に見えるのだろうか。

利権側からは煙たい原氏

まさに泥沼化の様相だが、そもそも原氏がこれだけバッシングされる理由は何なのか。毎日新聞や国民民主党議員らの裏で誰が原批判のための材料を提供しているのか。そもそも原氏は利権にまみれた悪徳な元官僚なのだろうか。

実は私は原氏を現役官僚時代から取材を通じて知っている。2007年、第1次安倍晋三内閣で渡辺喜美行政改革担当相の補佐官を務めるなど、改革派官僚として知られた存在になっていた。根っからの改革派、しかも公務員のあり方について改革の必要性を訴えていた。

根っからの官僚で、自らはブレーンに徹し、使える大臣や政治家、審議会の民間議員などを支える。自分が信じる改革の具体策をこうした人たちに提供して実現させるわけだ。政府の会議で改革案をぶち上げてきた竹中平蔵・元総務相の改革案の多くも原氏が策定した。この点、財務官僚だった高橋洋一氏も似たスタイルだ。

その後、私は原氏に誘われてジャーナリストの田原総一朗さんとともに万年野党というNPOに参画、国会での活動実績に応じて議員を三つ星評価するプロジェクトなどをご一緒している。万年野党は改革派の著名人がアドバイザーになっているが、資金は原氏や私の負担で赤字である。

横から見ていて分かるのだが、原氏はお金にはほとんど関心がない人物だ。資産家の家系だという人もいるが、夫人も現役官僚のはずで、生活費には困っていないのだろう。

原氏が退官後に作った政策工房という会社も、野党や与党議員の質問づくりや政策づくりを作るコンサルティングを主業務にしているが、会社を大きくして儲けようといった事業欲はまったく感じられない。

お金ではなく、自らの信念である構造改革、規制改革を実現することだけが生きがいのような稀有な人である。酒席も好まず、食事にもあまり関心を持たない。

200万円を受け取ったと印象付ける報道やそれを前提とした国会での批判は、長年取材してきた立場からすると、噴飯ものだ。原氏が座長代理を務めてきた特区ワーキンググループは、特区での規制改革をするかどうかを決める役割ではなく、規制に邪魔をされて身動きが取れない事業者や自治体の首長の要望を聞き、特区申請に道筋を付ける役割を担ってきた。

特区諮問会議(議長は安倍首相)の議員を務める八田達夫氏も繰り返し、ワーキンググループには規制改革を決める権限はなく、業者に対する利権などは存在しようがないと説明している。

特区で岩盤規制に穴を開けた場合、希望する他の特区が同様の規制緩和を実施できるのはもちろん、その後、全国で規制緩和される流れを基本としている。つまり、特区での規制緩和は、既得権を持つ業界や事業者の特権に穴を開け、多くの新規参入を生み出すことを目的にしており、「利権」にはならないのである。

黒幕は特区を潰したい勢力か…?

そんな利権を打ち破ろうとしている改革派人材を、あたかも利権のために行動しているような印象操作することは、明らかに狙いがあってのことだと思われる。

要は、国家戦略特区やそれを推進してきた原氏らを抹殺したい勢力がいるということだ。ここ数年、原氏は影のブレーン役に止まらず、特区ワーキンググループや、規制改革推進会議の議員など「表」に出はじめていたから、それを苦々しく思っていた人たちがいるということだ。

それが誰なのか、業界団体なのか、既得権を持った業者なのか、今のところ見えていない。だが、改革に抵抗する霞が関の官僚が原氏攻撃に水面下で関与していることは間違いないと思われる。毎日新聞や野党議員がそうした反改革勢力の情報操作に乗っているだけなのか、既得権層や反改革派と結びついた確信的な行動なのかも分からない。

規制改革推進会議の後継組織がようやくスタートしたがほとんどの議員が入れ替わり、改革を主導してきた人はほとんど姿を消した。原氏も議員だったが、もちろん名前はない。「改革潰し」を狙った原氏批判のキャンペーンは、内容が真実かどうかではなく、着々と成果を上げていると見るべきだろう。