6兆円近い売り越し…!海外投資家はもう日本株を見限ったのか 「日本の特殊性」への懸念?

現代ビジネスに1月17日にアップされた拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59422

やはり日本は変われない
2018年1年間に海外投資家が日本株を大量に売り越していたことが明らかになった。

1月9日に日本取引所グループが公表した投資部門別売買状況(2市場1・2部合計)によると、海外投資家の売り越し額は5兆7448億円。第2次安倍晋三内閣がアベノミクスを打ち出して以降、最大の売り越しとなった。

日本株アベノミクスに期待する海外勢に買い支えられてきた面が強いが、日本株から資金が逃げ始めたとすれば、今後の株価への影響は甚大だ。

海外投資家はアベノミクスが始まった2013年に15兆1196億円も買い越し、それが、日本株が本格反騰するきっかけになった。2014年も8526億円の買い越しだったが、2015年になって2509億円の売り越しと、売り買いトントンの状態になった。

アベノミクスの「3本の矢」として打ち出した政策の中で、海外投資家には3本目である「民間投資を喚起する成長戦略」が最も期待を集めたが、そこでなかなか成果が上がらないことに、海外投資家が不信感を抱き始めたのがひとつの理由だった。

「やはり日本は変われないのではないか」という見方が強まり、2016年には3兆6887億円の売り越しと、まとまった売りが出された。

2017年には3年ぶりに7532億円の買い越しとなっていたものの、前述の通り、2018年は6兆円近い売り越しだった。

2018年10月に日経平均株価は27年ぶりの高値を付け、市場では楽観ムードが広がっていた。そんな中で、海外投資家は日本株をせっせと売っていたわけだ。

経済の先行きは怪しいが
もちろん、米中貿易戦争などによって世界的に株式市場が動揺している中で、世界の投資家が株式離れを起こした面もある。為替が円高に振れたことで、日本株が売られるといういつものパターンと見る向きもある。

だが、ここまでまとまった売りには、海外投資家が日本株を見限る、日本独自の理由があったと見るべきだろう。

そのひとつは「ファンダメンタルズ(経済の基礎的要件)」の悪化、つまり日本経済の先行きが怪しくなってきたことがある。

日本経済は緩やかに回復しているというのが政府やエコノミストの見方だったが、予想以上に消費が弱い状態が続いている。今年10月に迫った消費増税の影響を克服するために政府は様々な経済対策を打ち出しているが、増税を機に消費が失速する可能性は捨てきれない。

アベノミクスによって日本経済が再び成長路線に乗るとする海外投資家たちの期待を裏切りそうな気配になってきたのだ。

2020年には東京オリンピックパラリンピックも控えていることから、そう簡単に日本経済が失速することはない、という見方もある。海外からの訪日客も2018年には3000万人を突破、2020年には4000万人を見込んでいる。そう先行きを読む投資家は、株価が大きく下がって割安感が出れば、再び日本株を買ってくる可能性はある。

ゴーン・ショック
だが、ここへきて、世界の投資家が眉をひそめる問題が立て続けに起きている。

ひとつはカルロス・ゴーン日産自動車会長(当時)の突然の逮捕劇。現役の経営者が寒い拘置所で身柄を拘束され、クリスマスも年末年始も勾留が続いていることに、世界の経営者や投資家は目を丸くしている。強欲なゴーン容疑者に同情するというよりも、日本の司法制度のあり方に、「日本は特殊だ」と感じているのだ。

かつて海外金融大手の日本法人が不正な金融商品を販売したとして事件になった際、外国人トップが逮捕され、身柄を拘束されたことがある。「当時も、日本法人のトップは引き受けるな、いきなり逮捕されるぞ、という声が外国人経営者の間に広がった」と外資系金融機関の幹部だった人物は振り返る。まさに、今、ゴーン容疑者逮捕で同じことが起きつつある、という。

日本は特殊だ、ということになれば、世界の常識では「リスク」が判断できない。何せ、いきなり現役のトップが会社からいなくなってしまうリスクを見せつけられたのだ。日本株への投資が慎重になるのは当然といえば、当然だろう。

時を同じくして起きた産業革新投資機構(JIC)の役員報酬を巡る騒動も、世界の常識では考えられない日本の「特殊性」を示す結果になった。政府系ファンドの経営者と報酬契約を結んだにもかかわらず、いきなり政府がダメ出しをして白紙撤回する。日本にはそうした「リスク」が潜在的にあるのだということを世界中の投資家が知ることとなった。

政府統計も信用できないとなると
年を明けてからも驚くような話が飛び出している。日本政府の基幹統計のひとつである「毎月勤労統計」の調査方法がいい加減で、しかも長年にわたって放置していたことが明らかになったのだ。この統計には、エコノミストも注目する「現金給与総額」などが含まれており、このタイミングでは、日本経済の現状を知る「注目点」だった。

というのも、安倍首相は繰り返し「経済好循環」を訴え、企業収益の好調が給与増などに結び付くことを政策の柱として訴えていた。そんな中で、給与が大きく増え始めたのではないかと見られる数字が、この統計に表れていたのだ。結局、その数字は統計手法の問題で、過度に大きく表れていたことが判明している。

海外の投資家からすれば、日本は統計数字も信用できない国なのか、ということになるわけだ。統計数字まで政治家や官僚が操作することができるとしたら、危なくて投資など出来るものではない。「調査方法のミス」「不適切な調査」で済む話ではないのだ。

他の経済指標の調査方法も精査するという話になっているが、投資家の信頼を回復できなければ、日本株への投資が大きく増えると期待するのは難しいだろう。

日本が「特殊な国」だというレッテルを世界の投資家から貼られないことを祈るばかりだ。