2020年、「不況下の人手不足」ショック到来…日本企業の行方は 「中東動乱」が企業を苦しめる

現代ビジネスに連載されている『経済ニュースの裏側』1月9日に掲載された拙稿です。是非ご覧ください。オリジナルページ→

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報復合戦のとばっちり

2020年は、新年早々の米軍によるイラン・ソレイマニ司令官の殺害で始まり、中東情勢が一気に緊迫の度合いを増している。

イラン軍は、米軍が駐留するイラク国内の基地を弾道ミサイルで攻撃、報復に打って出た。これに米国がさらなる報復攻撃を加えるのは時間の問題だろう。

中東での軍事衝突が本格化し、長期にわたって続くことになった場合、世界経済に深刻な打撃を与えることになる。

IMF国際通貨基金)は世界経済の成長予測について、2019年は3.0%とリーマンショック後の2009年以降で最も低くなるとしたが、2020年はこれを底に持ち直すとしてきた。中東情勢の緊迫化で年明けから原油価格が大幅に上昇、世界の株価も大きく下落しており、経済の先行きに暗雲が垂れ込めている。

そんな中で深刻な影響を受けそうなのが日本経済だ。もともと消費が力強さに欠けていたところに2019年10月からの消費増税が加わり、一気に消費が悪化している。

日本自動車販売協会連合会がまとめた新車販売の統計によると、10月は前年同月比24.9%減と大幅に落ち込んだ後、11月は12.7%減、12月は11.0%減と2桁のマイナスが続いた。

台風の被害が相次いだことなどを理由とする向きもあるが、12月になっても回復していないところを見ると、消費増税の影響が予想以上に大きかったことを示している。

期待の柱は輸出だが、米中貿易戦争の余波で、日中間や日韓間の貿易量が激減しており、輸出産業を中心に業績にジワジワと影響が出始めている。これまで好調だった企業業績に陰りが出れば、もうひとつ期待されていた設備投資も頭打ちになりかねない。

そこに今回の中東での軍事衝突である。

原油価格が上昇すれば、2011年の東京電力福島第1原子力発電所事故以降、原油LNG液化天然ガス)など輸入エネルギーに頼っている日本にとって大打撃になる。

原油価格の上昇はガソリンや軽油の価格を押し上げ、トラック輸送など物流コストの大幅な増加に結びつく。また、石油製品など原料価格の上昇が製造業の業績を悪化させかねない。

円高の恐怖、目の前に

さらに国際紛争によって「安全資産」とされる日本円が買われれば、円高が進み、輸出産業に打撃を与えることになる。

イランが報復攻撃に出たことが伝わった1月8日の東京外国為替市場では、1ドル=107円台にまでドル安円高が進んだ。

円高を嫌気した東京株式市場では、同日に日経平均株価が一時600円以上下げ、2万3000円を割り込んだ。株安によってさらに消費マインドが悪化する可能性もある。

2020年は日本経済にとって華やかな年になるはずだった。東京オリンピックパラリンピックを控えて、関連施設の建設や、道路工事などの公共事業がピークを迎え、企業収益が盛り上がると予想されていた。

オリンピックに絡む仕事や観光で、日本にやってくるインバウンド客も大幅に増加。2020年に訪日客4000万人とした政府の目標は難なくクリアできるとみられていた。

インバウンド客が落とすおカネでホテルや外食、小売店といったサービス産業も潤い、そこで働く人たちの給与も大きく増えると予想されていた。

安倍晋三首相が言い続けてきた「経済の好循環」が実現するのがまさに2020年になるはずだったのだ。だからこそ、消費増税の延期を繰り返し、景気が盛り上がっているとみられた2019年10月に増税時期を定めたのである。

ところが、当ては完全に外れる結果となった。首相自ら経済界に賃上げを働きかけた結果、大企業を中心にベースアップは実現してきたが、中小企業にまではなかなか賃上げの波は広がっていない。一方で、年金や健康保険の保険料負担や消費税、所得税の引き上げなどによって若年層の可処分所得は増えず、その結果、消費は一向に盛り上がっていない。

それでも現状は、オリンピック関連の政府支出によって景気が底上げされているはずだ。関連支出は当初の予想を大きく上回る総額3兆円に達しているとされる。

オリンピックが終われば、その分がマイナスになるわけだから、景気は減速するのは必至だ。だからこそ政府は総額26兆円(うち財政措置は13兆円)にものぼる経済対策を決定したのだろう。

しかし、公共事業など政府支出で救われる企業は一部に過ぎない。世界経済の悪化による貿易総量の縮小や、円高による輸出採算の悪化、オリンピック後のインバウンド消費の減少が、企業の収益の足を引っ張ることになるだろう。企業にとっては厳しい時代がやってくると覚悟する必要がある。

2020年、就業者数がピークアウトに

景気が悪化すれば人手不足が解消し、人件費コストも下がる、と考える経営者もいるに違いない。だが、残念ながら、売り上げの減少を人件費コストの圧縮で乗り切ろうというのは無理な話になるだろう。

2019年末に総務省が発表した2019年11月の労働力調査によると、働いている人の総数である「就業者数」は6762万人、そのうち企業に雇われている人の数である「雇用者数」は6046万人と、いずれも83カ月連続で増加した。

83ヵ月というのは第2次安倍内閣が発足した翌月の2013年1月以来、増加が続いているということだ。こうして雇用を生んだことを安倍首相はアベノミクスの成果として強調している。

確かに、日本の人口は2008年をピークに減少を続けているにもかかわらず、就業者数、雇用者数ともに高度経済成長期やバブル期を超えて、過去最多を更新している。「人手不足は少子化のせいだ」と思いがちだが、実際は働く人の数は過去最多なのである。

問題はこの働く人の数がいつピークアウトするか、だ。この7年間で増えた就業者数の多くは、女性と高齢者である。15歳から64歳の女性の就業率は70%を突破、2019年11月時点で71.2%に達した。また、65歳以上の就業者数は913万人に達している。

2020年はいよいよこの就業者数の増加が頭打ちになりそうだ。1947年から1949年の間に生まれた戦後のベビーブーム世代、いわゆる「団塊の世代」が全員70歳になった。70歳を期に会社を辞めたり、完全に引退する人が増えると思われる。

団塊の世代はざっと800万人である。団塊の世代労働市場からの退場によって、65歳以上の高齢者の就業者数は減少に向かうだろう。女性の労働参加もそろそろ限界に近づいていると見るべきで、2020年以降は本格的な人手不足が日本経済を襲うことになる。

つまり、景気が悪化しても人手不足は解消しないと見るべきなのだ。

しかも、若年層はさらに減少を続けていく。2019年の出生数は推計より2年早く90万人割れが確実となったと報じられた。今後、20年以上にわたって労働市場に出てくる新卒者の人数は減り続けることが確定したということだ。

企業は優秀な人材を確保しようと思えば、給与を引き下げることは難しくなる。不況の中でも人手不足が続き、給与も上がり続ける時代が、いよいよ本格的に始まることになりそうだ。