深すぎる「関西電力問題」の闇…岩根社長はいつまで居座り続けるのか

現代ビジネスに1月16日にアップされた連載記事です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/69827

実はまだ調査報告が出ていない

年末年始の慌ただしさに加え、保釈中だったカルロス・ゴーン日産自動車元会長の国外逃亡、イラン情勢など緊迫する国際情勢などに、目を奪われて、多くの人がすっかり忘れていることがある。関西電力問題だ。

12月15日には「第三者委員会」の委員長である但木敬一・元検事総長が「調査状況」について記者会見したが、調査で明らかになったことは一切明らかにせず、ほとんど内容のないものだった。しかし、この会見は大きな意味を持っている。

関西電力原子力発電所がある福井県高浜町森山栄治・元助役(故人)から多額の金品を受け取っていた八木誠会長と岩根茂樹社長について、関西電力は10月9日に「会長、社長の辞任」と題する発表を行なっている。

そこには、八木会長の辞任日は「令和元年10月9日付」と明記されているものの、岩根社長については、「第三者委員会の調査結果報告日付」と記され、明確な日付はない。

当初、メディア向けには、「2019年末にも」調査結果報告がまとまるという見方を流していた。調査結果が出るまで、問題を起こした当事者が社長として居座るというのも常識はずれだが、約3カ月の間ならば後任を選ぶまでの間ということで、世の中も許してくれると考えたのだろう。

ところが12月15日の第三者委員会の会見では驚くべき発言が飛び出した。

「年内は無理。調査を進めると、奥が深いことも出てきた。時期の約束はできない」

但木委員長は最終報告の時期についてこう語ったのだ。調査の状況を「まだ五合目」だという発言もあった。それから1カ月、一向に報告書が出てくる気配はない。年度内の3月末までに出るかどうかも分からない、とさえ言われている。

そうなると、岩根社長の辞任日もいつか分からない、ということになる。報告書が出ない限り、社長の座に居座り続けることになるわけだ。辞任を発表しながらこれだけ長く居座った社長は過去に例がない。

三者委員会を意のままにしたい

なぜ、岩根氏は社長の居座り続けているのか。担当の記者の間には、「本当は早く辞めたいのだが、報告書が出ないので、困っている」という解説が流れている。

どう考えても、意図的に流されている眉唾ものだ。もしそれが本音ならば、報告書の期日を指定するか、それがダメなら、さっさと辞任すればいいだけだろう。

岩根氏が社長に留まっているのは、第三者委員会の調査に何らかの影響力を与えるのが狙いであることは容易に想像できる。

「第三者委員会」と言うと、独立した中立的な調査主体だと思いがちだが、実際には違う。あくまでも会社側が人選して任命し、委員には多額の報酬が会社から支払われているのだ。

しかも、関電が第三者委員会の設置について発表したリリースにはこう書かれている。

「具体的な調査対象の範囲、調査手法については、本委員会が当社と協議したうえで決定する」

当社つまり関電と協議して調査対象や調査方法を決める、としているのだ。もちろん、その「当社」のトップは岩根社長だ。調査対象や方法を、調査される当事者が決めるというのだから、「第三者委員会」が独立した絶対的な権限を持っているどころか、会社の意のままなのだ。

また、第三者委員会に委ねられた「調査事項」はこう書かれている。

 <調査事項>
1.森山氏関係調査
2.類似事案調査
3.当時からこれまでの会社の対応

以上についての背景・根本原因の究明ならびに再発防止策の提言 

読めば分かる通り、責任の所在を明らかにすることや、その責任を問うことは求められておらず、「原因究明と再発防止策」に留まっているのだ。

三者委員会の報告書の出来栄えを評価する活動を続けている「第三者委員会報告書格付け委員会」委員長の久保利英明弁護士は、関西電力の第三者委員会委員長である但木氏に、11月15日付けで、「調査に当たっての申し入れ」を行い、それを公表している。

そこには6項目が記載されているが、6番目にはこうある。

「本件についての徹底した調査が貴委員会の権限や能力等に余るようであれば、検察による捜査に切り替えることも重要な選択肢と思われるところ、そのような措置を貴委員会としては視野に入れて対応される用意があるかどうか、貴委員会として検討し、その検討結果についても調査報告書に記載されたい」

つまり、刑事事件になる可能性が十分にあるのではないか、と指摘しているわけだ。

法曹界トップを抱き込みの意味

関西電力が決めた第三者委員会は4人の大物弁護士で構成されている。

委員長には検事総長を務めた但木敬一氏、委員には第一東京弁護士会の会長を務めた奈良道博氏と東京地方裁判所の所長を務めた阿彌誠氏が就いた。さらに日本弁護士連合会の会長を務めた久保井一匡氏が「特別顧問」として加わっている。

いずれも法曹界の重鎮、「法曹三者」と呼ばれる、検察、裁判所、弁護士界のトップを務めた人物たちである。

この人選の狙いは何か。

法曹三者のトップ、ことに元検事総長の大物検察OBに「違法とは言えない」と結論を下してもらう意味は極めて大きい。

大阪地検特捜部など、現場の検察官たちが、関西電力の経営者たちを立件すべく動くのを阻止する十分な効果があると考えられるからだ。そこで検察が動けば、先輩だけでなく法曹の大家たちの顔に泥を塗ることになる。

関西電力の幹部たちが恐れているのは、調査の過程で、間違っても「違法」を証明する「証拠」が第三者委員の手にわたる事だろう。そのためにも、調査が無事終わるようコントロールしていく必要がある。それが岩根氏が居座る理由に違いない。

関西電力が本気で過去を悔い改め、経営を一新させようと思っているのなら、岩根社長は今すぐに辞めるべきだろう。