「新型コロナウイルス」が、日本の消費にとどめを刺す可能性

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https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70124

消費の牽引車、中国人観光客

新型コロナウイルスによる肺炎の拡大を阻止するために、中国・武漢の封鎖など対策が広がっている。一方で、日本国内でも相次いで感染者が見つかり、中には中国への渡航歴がない人まで出てきたことから、人の移動によって日本国内にも感染が広がっていることが鮮明になった。

時あたかも「春節」。本来ならば中国人観光客が大挙して押し寄せる時期だが、どれぐらい訪日客が減るかに日本経済の先行きを占うエコノミストたちが注目している。

2019年10月の消費増税以降、そうでなくても大きく落ち込んでいる消費を唯一支えてきた訪日観光客による「インバウンド消費」の落ち込みが懸念されているからだ。

2019年の年間の訪日旅行客は、日本政府観光局(JNTO)の推計によると、3188万人。前年比2.2%増加し過去最多を更新した。日韓関係の冷え込みで韓国からの訪日客が激減しているのを横目に、中国からは前の年よりも14.5%多い959万人が日本にやってきた。何と全体の30%が中国からの観光客・ビジネス客なのだ。

彼らが日本国内で落としたお金も大きい。観光庁が1月17日に発表した「訪日外国人消費動向調査(速報)」では、2019年に訪日外国人が国内で消費した総額は4兆8113億円。前の年に比べて6.5%増えた。

人数の伸び(2.2%増)よりも金額が大きくなったのは、中国からの旅行者のウエートが高まったため。ひとり当たりの消費額は、平均15万8458円に対して、中国からの旅行者は21万2981円と大きく上回る。訪日客数が激減した韓国からの旅行者の平均消費額は7万5454円なので、平均消費額の少ない韓国からの旅行者が減って、平均よりも多い中国人旅行者が増えた結果、全体の消費額が増えたわけだ。

ちなみに中国からの旅行者が日本国内で使ったお金の総額は前の年より14.7%多い1兆7718億円とみられている。全体の37%である。

中国からの観光客の特徴は「買い物代」に多くのお金を落とすこと。21万2981円の消費額のうち10万8800円を買い物代に使っている。消費額が最も多いのはオーストラリアからの旅行客の24万9128円だが、彼らが使った「買い物代」は3万1714円に過ぎない。モノの消費を担っているのは中国人観光客なのだ。

稼ぎ時の春節を直撃

その中国人観光客が新型肺炎の影響で、やって来なくなるのではないか。エコノミストが心配するのも無理はない。インバウンド消費が激減すれば、日本の消費が底割れする引き金になりかねないからだ。

では、春節に合わせた訪日客はいったいどれくらい減るのだろうか。2019年の春節にはどれぐらいの人が中国からやってきたか。

2019年の春節は2月5日だったが、毎年日付がずれるため、月別では比較が難しいので、1月と2月の合計訪日客数で見ることにしよう。2019年の1、2月合計は147万8000人と、2018年の134万8000人に比べて9.6%も増えていた。

今年も同じペースで増えていたとすれば、162万人が1、2月に訪れていた計算になる。これにひとり当たりの消費額をかけると、2カ月間で3450億円になる。仮に1、2月の中国からの訪日客が前年並みに止まれば、それだけで320億円消費額が減ることになる。

大した金額ではないように思えるが、実際には中国人観光客だけが減るわけではなさそうだ。アジアにやってくる欧米人も減る可能性があるし、当然、日本からアジアに出て行く旅行者も減る。

訪日観光客4000万人も夢と消えるか

SARS重症急性呼吸器症候群)が流行した時は、旅行者の減少などが半年続きました。もしかすると7月末に開幕する東京オリンピックにも影響が出るかもしれません」とエコノミストのひとりは危惧する。

低迷する日本経済にとって、底上げする原動力として期待されるのが東京オリンピックパラリンピック新型コロナウイルスの流行が長引けば、東京にやってくる訪日外国人が期待外れに終わってしまう可能性も出てくるのだ。そうなれば、影響は数千億円では済まなくなる。

日本政府は2020年の訪日外国人客4000万人を目標に掲げてきた。2018年は8.7%増の3119万人で、2020年には目標達成が視野に入っていた。ところが2019年は2.2%増の3188万人。わずか69万人しか増えなかった。

前述の通り、日韓関係の冷え込みによる韓国からの旅行者が激減したことが理由で、2019年は2018年比25.9%も減った。加えて香港の抗議行動の広がりで、香港からの訪日客が3.8%増に止まったことや、日本へのリピーターが多い台湾からの訪日客も2.8%増と頭打ち傾向が強まっていることも、全体の訪日客の増加ペースを落としている。このままでは4000万人の達成は難しそうだ。

消費増税の影響が予想以上に大きく、自動車販売や百貨店売上高の対前年同月比マイナスも続いている。免税などによって影響が少ない海外旅行者の「インバウンド消費」が頼りだったが、急速に暗雲が広がっている。日本にとっては「泣きっ面に新型コロナ」である。