積水ハウス地面師事件「マネロン」も焦点?米国人取締役候補らの指摘  取締役全員入れ替え株主提案の背景は

2月18日の現代ビジネスに掲載された拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70501

現会長の異常取引

積水ハウスが4月に開く株主総会に向けて、取締役全員の入れ替えを求める「株主提案」を提出した和田勇・前会長兼CEO(最高経営責任者)らが2月17日、記者会見を開いた。

株主提案で求めた取締役選任議案に候補者として名を連ねたのは、和田氏のほか、現役の取締役専務執行役員である勝呂文康氏、昨年6月まで常務執行役員だった藤原元彦氏、同じく昨年まで北米子会社のCEO(最高経営責任者)だった山田浩司氏の4人の積水ハウス関係者と、7人の独立社外取締役候補。

社外取締役には、米国人のクリストファー・ブレイディ氏、パメラ・ジェイコブズ氏に加え、東京成徳大学名誉教授の岡田康司氏、TDKで取締役専務執行役員を務めた岩崎次郎氏、弁護士の佐伯照道氏と齊藤誠氏、日光ケミカルズ執行役員法務部長の加藤ひとみ氏が名前を連ね、会見には佐伯氏を除く10人が顔を揃えた。

積水ハウスコーポレートガバナンスを問い直すのが株主提案の目的だとしているが、2017年に起きた「地面師事件」の真相解明を前面に掲げている。

東京・西五反田の土地に絡んで、偽の所有者との売買契約を結び同社が55億円を騙し取られたものだが、和田氏らによると、これは単なる詐欺被害ではなく、阿部俊則・現会長(事件当時・社長)らが「経営者として信じ難い判断を重ねたことによる不正取引」だとしている。

本物の所有者から契約は偽であるという内容証明郵便が会社に繰り返し届いているにもかかわらず、取引を強行したことや、7月末までの代金支払いを2カ月前倒しで支払ったり、振込ではなく、預金小切手で支払うなど、「業界の常識では考えられない異常な取引」(和田氏)を阿部社長主導で行ったとしている。

また、この取引については、社外役員による調査対策委員会が設けられ、2018年1月に報告書が出されているが、阿部会長や稲垣士郎副会長(事件当時・副社長)ら現経営陣は、裁判所の提出命令にも抵抗を続けるなど、「重要情報の隠蔽を続けている」(和田氏)としている。

責任追及は返り討ちに遭ったが

2018年1月の取締役会では、和田氏がこの土地取引を決裁した阿部社長(当時)に退任を求めたところ、阿部氏を除く10人の取締役の賛否が5対5に分かれて提案は流れたとされる。

それを受けた阿部氏が、今度は和田会長の解任動議を出し、和田氏を除く10人の取締役のうち6人が賛成、和田氏が辞任することになったと言われる。いわば和田氏が「返り討ち」にあった格好になったわけだ。これを元常務の藤原氏は「クーデター」だったとしている。

和田氏を辞任に追い込んだ後、阿部氏が会長、稲垣氏が副会長、仲井嘉浩氏が社長という現体制が出来上がった。

今回の株主提案に至る過程では、米国人投資家グループが大きな役割を果たしている。

和田氏は株主提案に踏み切った理由を「今年1月に勝呂専務から相談されたのがきっかけ」と会見では説明したが、実際には昨年から米国で積水ハウスの地面師事件などを追及する「Save Sekisui House」というサイトが立ち上がるなど、先に動きが始まっていた。米国人投資家グループが和田氏に接触、和田氏が株主提案を決断したとみられる。

事件も追及者も底が見えず

もっとも、提案の背後にどんな投資家がいるのかは現状では見えない。取締役候補に名を連ねているブレイディ氏も積水ハウス株式は1株も持っていない。

財務局に提出された大量保有報告書によると、2020年1月末(決算期末)現在で、米投資会社のブラックロック・グループが合計6.16%を保有しているが、同社とは関係がないとされる。少なくとも5%以上保有する海外ファンドなどは見当たらない。

ブレイディ氏は会見で自らを、金融分野で長い経歴を持つが、安全保障やインテリジェンス(情報収集・分析)が専門としていた。地面師事件については、「預金小切手を使うなどマネーロンダリング資金洗浄)の典型的な兆候がある」として、預金小切手を現金化した三菱UFJ銀行にも問題があると指摘していた。

取締役の全面的な差し替えに成功した場合には、問題の土地取引について徹底的に調査するとしている。現経営陣は「地面師しか警察に告発しておらず不十分」(和田氏)としており、捜査対象を社内や関係先にも広げるよう求める意向を示した。

一見、経営権争いにも見える今回の株主提案だが、ガバナンスを刷新することで株価を引き上げたいという投資ファンドなどの姿がまだ見えず、真の狙いが分からない。和田氏は取締役に選任されたとしても代表取締役には就かないとしているものの、取締役のうち誰を社長にするかも明言を避けている。

4月の総会に向けてプロキシーファイト(委任状争奪戦)になった場合、日本の機関投資家が株主提案に対してどんな投票行動を取るか、現段階ではまったく見えない。