「アスクル・モデル」の今後に注目

SankeiBiz(サンケイビズ)に2月20日に掲載された拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→

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社外取締役の独立性確保、大株主牽制

 積水ハウスが4月に予定する株主総会に向けて、和田勇・前会長兼CEO(最高経営責任者)らが、取締役の全面的な入れ替えを求める「株主提案」を会社側に提出した。会社側の取締役選任議案に対抗して、対案を出し、11人の候補者を挙げている。候補者は、和田氏のほか、現役の取締役専務執行役員である勝呂文康氏や、昨年まで常務執行役員だった藤原元彦氏ら4人の積水ハウス関係者、社外取締役としての7人だ。過半数社外取締役にすることが重要だとしている。

 もともと和田氏は2018年1月の取締役会で「クーデター」にあい、会長職を追われた。同社が2017年に55億円をだまし取られた「地面師事件」の舞台となった東京・西五反田の土地の取引を主導した阿部俊則社長(当時、現会長)の解任を和田氏が提案したところ、それが賛成多数を得られず、逆に阿部氏が提出した会長解任動議が可決され、辞任に追い込まれた。こうした「クーデター」が起きるのも独立社外取締役が過半を占め、十分な力を持っていなかったからだ、としているのだ。

 日本の会社で外部役員の重要性が増している。かつては名ばかりの人が多かったが、最近は経営者側に立つのではなく、会社の成長や株主・従業員の利益に沿うかどうかを検討して判断を下す役割が期待されている。

 日産自動車が臨時株主総会を18日に開いて内田誠社長兼CEOらの取締役選任を決議したが、昨秋の段階で西川広人氏(臨時総会で取締役を退任)を社長兼CEOから実質的に解任したのも社外取締役だった。コーポレートガバナンス企業統治)が機能するかどうかは、社外取締役の力量にかかっている。

 もっとも、独立社外取締役がどう選ばれるかが一段と重要になっている。社長が自身の友人に頼んだのでは、独立性は無きに等しい。昨今では、弁護士や公認会計士、学者がひっぱりだこだが、実のところ経営実務に携わった人材は少なく、「ご意見番」的な存在にとどまる。

 何せ、日本には経営人材が乏しいのだ。終身雇用が前提の日本では、若くして経営に携わる機会は少ない上、経営者がリタイアするときには社外取締役の適齢期を過ぎている。また、女性はさらに候補者が少ないため、どこかの社外取締役になると、次々に他の会社からも頼まれて5社も6社も担当するという人が少なくない。

 そんな中、アスクルが3月に開く臨時株主総会で独立社外取締役4人を選任する。候補者選びを担った国広正弁護士に言わせれば、その選定方法と社外取締役の権限を定めた規定は「アスクル・モデル」として世に問えるものだという。

 まずは、会社とも大株主とも一切関係がない候補者を探し、彼らに「抱負文」を書かせて総会前に公表。総会でも議案の評決の前に、質疑を受けさせる。株主総会の場で、その社外取締役が適切な能力を持っているか、判断してもらおうというわけだ。

 また、社外役員とCEOだけで構成する「指名・報酬委員会」で決めた人事案や報酬を取締役会は尊重しなければならないことを規定化した。それでも取締役会が無視したら、委員会の意見を総会で公表することもできると規定している。そこまでアスクルが独立社外取締役の権限にこだわるのは、実質的に支配権を持つ大株主がいる中で、どうやって少数株主の権利を守るかを考えた末のことだ。

 果たしてアスクル・モデルが日本の社外取締役選びの見本となっていくのか、注目したい。