「国民負担率」過去最高44%の衝撃〜消費が増えるはずもなく… 江戸時代の「四公六民」上回る

現代ビジネスに連載されている『経済ニュースの裏側』に3月5日にアップされた拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70863

8年連続の上昇

税金と社会保障費の負担が生活に重くのしかかっている。財務省が発表した2018年度の国民負担率は44.1%と過去最高になった。100稼いで税金や年金掛け金、健康保険料などを差し引くと手元には半分強の55しか残らない計算になる。

政府は2019年10月の消費増税後の消費喚起に躍起になっているが、そもそもこの国民負担率が上昇していることに消費減退の根本原因であることは明らかだろう。

税金と社会保障費の国民所得に占める割合である「国民負担率」は、2010年度から8年連続で上昇を続けている。この間に負担率は37.2%から6.9ポイントも上昇、国民負担の総額は44兆円近く増えた。

とくに増加が大きいのは、年金や健康保険などの「社会保障負担」。1989年度に10%台に乗せて以降、ほぼ一貫して増えてきた。2018年度の「社会保障負担」は18.1%に達した。厚生年金の保険料率が2004年9月までは基準給与の13.58%(半分は会社負担)だったものが2017年9月まで毎年引き上げられて18.3%になるなど、13年間で4.72%も引き上げられたことが大きい。

第2次安倍内閣以降

国税地方税を合わせた「租税負担」は1990年代から2012年度頃までは22~23%でほぼ横ばいが続いてきた。ところが、2012年末に第2次安倍晋三内閣が発足して以降、急速に税負担が増えている。2014年に消費税率を5%から8%に引き上げたほか、所得控除の見直しなどに取り組み、2018年度は26.0%に達した。

この傾向は今後も続きそうだ。2019年度について財務省は、国民負担率が43.8%に低下するという「実績見込み」を公表しているが、これは当てにならない。2019年10月から消費税率が10%に引き上げられていることもあり、負担が軽くなるとは考えにくいからだ。

1年前の発表では2018年度の負担率は42.8%と2017年度の実績に比べて低下するとの「実績見込み」を公表していたが、結局、今年の発表で明らかになった「実績」は過去最高だった。分母である国民所得の見込みを楽観的に見積った結果、負担率の予想や見込みが小さく見えるということを繰り返している。

それでも消費増税の影響を無視できないためか、財務省が今年発表した2020年度の国民負担率「予想」は44.6%に達している。予想段階から「過去最高」を財務省自身が公表するのは極めて異例だが、それほど消費増税の影響は大きいということだろう。もっとも44.6%の前提になっている国民所得(分母)は415.2兆円で、2018年度実績の404.3兆円を大きく上回る。

景気鈍化でさらに負担率増

一方で足下の景気は急速に悪化しており、この国民所得が達成できるかは大いに疑問だ。加えて新型コロナウイルスの蔓延による経済活動の鈍化が見込まれており、国民所得の伸びが鈍化するのは必至な情勢だ。財務省が試算に使っている2019年度の国民所得408兆円並みに2020年度もとどまったとすれば、国民負担率は45%を大きく上回ることになる。国民負担率50%時代が視野に入って来るわけだ。

かつて歴史の教科書で「四公六民」あるいは「五公五民」という言葉を習った人もいるに違いない。江戸時代の農民に課される年貢を示すもので、収穫高の四割を「公」、つまり年貢として納め、手元には六しか残らない「重税」に苦しんだ農民の話の論拠として使われる。現在の日本の国民負担率は「四公六民」を超え、「五公五民」に近づいているわけだ。世が世なら百姓一揆が起きていてもおかしくない「重税」だということになるだろう。

「いや、社会保障費は保険料なので税金とは違います」と霞が関の幹部官僚は言う。「年金掛け金は自分のためだ」という思いがあったからこそ、ここまで国民負担率の上昇を国民が受け入れてきたとも言えるが、日本の年金制度は「積立方式」ではないので、自分自身の「貯金」ではなく、現状の高齢者への支給に充てられている「目的税」に近い。

もはや減税に手をつけるしか

政府も増税は言い出しにくいが、年金や健康保険の保険料率改訂ならば打ち出しやすいこともあり、社会保険料負担が増え続けてきた。2017年まで毎年、厚生年金の保険料率を引き上げることを10年以上前の国会で決めたことなど、多くの国民は覚えていない。

さすがに、もはや年金保険料の引き上げは難しいということになって、税収増に向けた税制改正に政府が力を入れているわけだ。

だが、これ以上、国民の負担を増やせば、そうでなくても低迷している消費が一段と冷え込むことは火を見るより明らかだ。日本のGDPの55%は家計消費支出によって支えられている。これが冷え込めば、一気に景気が悪化することになりかねない。

新型コロナ対策で安倍首相は、母親の休業に伴う所得減の穴埋めを政府支出で行う方針を示している。非常時とあって、もはや「何でもあり」のバラマキで景気の底割れを防ごうとしているようにも見える。

景気を下支えする最良の手法は、増え続ける国民負担を抑えるために、大幅な減税を行うことだろう。所得減税では低所得の若年層には恩恵が及ばない。一部の野党が主張している時限的な消費減税なら家計を一気に温め、消費におカネを回すことができる可能性があるかもしれない。