関西電力事件・第三者委員会報告、「闇」はこれで完全に暴かれたのか  頑迷で呆れた内向き体質

現代ビジネスに連載中の『経済ニュースの裏側』に3月20日に掲載された拙稿です。是非ご覧ください。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71221

75人が金品を受けとり

これで関西電力の「闇」は完全に暴かれたのだろうか。

関西電力の役員らが原子力発電所のある福井県高浜町森山栄治・元助役(故人)から多額の金品を受け取っていた問題を調べていた「第三者委員会(委員長・但木敬一検事総長)」が3月14日に調査報告書をまとめた。

金品を受け取っていた社員は75人と、これまでに公表されていた23人から大幅に増えた。また、受領した金品の総額は3億6000万円相当(昨秋の公表では3億2000万円相当)に上ったことが明らかになった。

これを受けて、事件発覚後も居座ってきた岩根茂樹社長が同日付で辞任、後任に森本孝副社長が昇格した。これで関電は幕引きを図りたいということだろうが、関西電力の「体質」が問われるのはこれからだろう。

「返却の意思等の種々の弁解は可能としても、ユーザー目線で見れば容赦できない背信行為であり、深刻なコンプライアンス違反というしかない」「今回金沢国税局の調査が入った後においても、本件は取締役会でも論議されず、監査役会も取締役会に報告せず、世に公表する道も取らなかった。そのつけも決して軽くはなかったことを肝に銘じるべきである」

委員長の但木氏は200ページにおよぶ報告書の最後に自らの名前で「結語に代えて」を書き、こう苦言を呈している。

受け取った金品への課税まで会社が補填

報告書には、これまで明らかになっていなかった驚きの事実も明らかにした。

受け取った金品について金沢国税局から指摘され、個人所得として修正申告した豊松秀己元副社長ら4人について、関電が税負担分を役員退任後に補填することを決めていた、というのである。報告書にはこうある。

「豊松氏は、2019年6月21日開催の株主総会終結をもって取締役を退任したが、同月22日付で原子力関係を委嘱業務とするエグゼクティブフェローに就任している。そのエグゼクティブフェローの報酬は月額490万円であり、当該報酬には、取締役副社長執行役員の基本報酬をべースとして設定された基本報酬(月額370万円)に加えて、(i)本件金品受領問題に関し豊松氏が納付した修正申告に係る追加納税分の補填(月額30万円)及び(ii)過去の経営不振時の役員報酬カットに対する補填(月額90万円)の趣旨も含まれていた」

受け取った金品への課税まで会社が負担して当然だと考える社風が関電には根付いていた、ということだろう。業績不振で役員報酬をカットする企業は多くあるが、それを退任後に補填するなどという話は聞いたことがない。呆れてモノが言えない、というのはこのことである。

「社外から経営者を呼べ」

報告書では「再発防止策」として、経営陣に社外の人材登用を求めている。「当委員会は、関西電力の内向きの企業体質が本件問題を招来した根本的原因と結論付けた。

何十年もの月日を経て形成されたこの内向きの企業体質を変えるためには、劇的な意識改革が必要である」というのだ。

そのうえで、取締役会長に社外の人材を充てることが重要だとしている。それも「お飾り」ではなく、コーポレートガバナンスの実効性を担う役割を果たさせるべきだ、としているのだ。報告書にはこうある。

「取締役会長は、社外者ではあるものの、関西電力内部に自ら深く手を入れいち早く社内の事情を把握する必要があり、そのための時間と労力を割ける者とすべきである」

おそらくこれを受けて、関電は6月の定時株主総会で社外から会長を迎えることになるだろう。だが、この人物をどうやって選ぶのか。

これまで、機能しなかった社外取締役や社外監査役が、いずれも関西財界の「お友達」で、しかも関西電力と取引関係があったり株式を保有してもらっているなど、到底「独立性」があるとは思えない人たちだった。取締役会での役割も形だけだったことが分かっている。

いくら会長を外から選んでも、独立性のない、関電のやり方を追認する人では体質改善はおぼつかないだろう。

「指名委員会等設置会社」とは

報告書を受けて、経済産業大臣が、関西電力に「業務改善命令」を出した。そこでは、「新たな経営管理体制の構築」として以下の点が示されている。

・指名委員会等設置会社への移行の検討も含めた外部人材を活用した実効的なガバナンス体制の構築
原子力事業本部に対する実効的なガバナンス体制の構築
・監査部門の体制強化及び事務局機能の拡充

電力会社にとって経産大臣からの「命令」は絶対である。取締役の許認可権も経産大臣が握っている。ここまで書かれると、独立社外取締役過半数を占める「指名委員会等設置会社」への移行が不可欠だろう。

日産自動車など不祥事を起こした上場企業は、経営監視機能や大きな方針決定を担う取締役と、日々の執行を担う「執行役」を分離する「指名委員会等設置会社」への移行を行なっている。次期社長の決定権限を現社長が失うことになるため、伝統的な企業の間には抵抗があり、これまで導入する企業が少数にとどまっていた制度だ。

関電のような電力会社は本来、外部からの監視機能が働くこの仕組みを導入すべきだったのだが、結局は会社を揺るがす不祥事が起きるまで、内輪の論理に安住していたわけだ。

果たして、関電は変われるのか。株主総会に向けてどんな経営体制が提案されるのか、今後も目を光らせておくべきだろう。