窓口で泣き出す人も…!コロナ休業対策「雇用調整助成金」が3密で大混乱 「リーマンではこれでよかった」が仇か

現代ビジネスに4月29日に掲載された拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72215

パニック寸前、雇用調整助成金の現場

「窓口で泣き出す人もいます。何とかしたいんですが、私たちはどうしようもありません」

西日本の、とある労働局で、4月から雇用調整助成金の窓口担当になった高齢職員は言う。

新型コロナウイルスの蔓延に伴う営業自粛などで経済がまさに「凍りついて」いる中、政府は雇用調整助成金制度の拡充で、失業の発生を食い止める姿勢を打ち出している。

労働局やハローワークの窓口には、売り上げが文字通り「消滅」した零細飲食店や小売店の事業者たちが、藁にもすがる思いで相談に殺到している。政府は申請手続きを簡素化したと言うが、これまで労働局に足を運んだこともなく、役所の申請用紙とは無縁だった高齢の事業者にとって、ハードルは高い。

冒頭の労働局も平時は2人だった雇用調整助成金の担当を、他部署からの応援や臨時雇用などで18人に増強、さらに増やす準備をしている。

「どうしても相談にはひとり1時間はかかります。局内の打ち合わせなどにも時間が必要なので、どんなに頑張っても1日10人が精一杯です」

正規職員は早出残業が当たり前になった。厚生労働省によると相談件数は13日時点で11万8000件に及んだと言うが、実際に、相談が急増したのは13日から。まだまだこれから激増するとみられる。

相談窓口にはビニールシートが貼られ、職員も相談者もマスクをしている。順番待ちの人たちは相談室には入れず、廊下に距離を置いて並んでいる。それでも東京の労働局のように、相談者が多過ぎて、「3密」状態になっているところもあるという。まさに密室、密集、密着が避けれられなくなっているのだ。

「労働局の対応は4月中旬以降激変した」と前出の職員は話す。「かつては不正受給ではないか厳しく審査するのが仕事でしたが、今は、課長も課長補佐も、なるべく認めてあげるようにしろ」と内々に言っているという。何とか受給させたいと、書類に鉛筆書きで記入し、書き方を教えている職員もいるが、それでも役所言葉は難しい。しまいには窓口で「何とかしてくれ」と泣き出す相談者もいるというのだ。

店を閉めて解雇した方がよほど楽

ハードルが高いのは、制度の仕組みそのものに原因がある。雇用調整助成金は、まず「休業計画」を提出し、その休業中に給与を支給した上で、申請書を提出。その給与分に助成を出す仕組み。

労働者を雇い続け、1人も解雇しなかった場合、支払った給与の90%、大企業は75%が助成される。

つまり、まずは先に事業者が給与を支払うのが前提なのだ。しかも1割は事業者の持ち出しになる。怨嗟の声を受けて厚労省は給付比率を中小企業の場合100%に引き上げることを決めたが、いずれにせよ前払いする給与の資金を事業者が負担しなければならない。もちろん、支払う段階では、助成金が下りるかどうか分からないのだ。

さらに、申請して助成金が出るまでに1カ月はかかる。4月分の申請を5月上旬にしても、支給されるのは早くて6月上旬というわけだ。

売り上げが「減っている」中での申請ならば、まだ事業者も資金の余裕があった。何とか営業ができていた3月の申請現場はまだまだ余裕があった。だが、4月になって売り上げが減少どころか「消滅」している事業者は、手元の資金がどんどん減り、枯渇する。月末の家賃や仕入れ代金の支払いが迫り、休業させた従業員に支払う給与にも事欠く。

今回、パートやアルバイトにも助成の対象を広げた。雇用保険に入っていなくても「緊急雇用安定助成金」という形で助成されることになった。

だが、この助成を受けるにも、休業補償として休んでいる間の給与を先に払わなければならない。事業者からすれば「お店閉めるので、悪いけれども明日からお休みでお願いします」とのひと言で事実上解雇すれば、給与を払う必要はなくなってしまう。

実際、パートの仕事ができなくなり収入がゼロになっているような人が続出し始めている。

リーマン並みでは済まない

安倍晋三首相は当初、全国民への一律現金給付を否定していた。その際、真っ先に打たれた手が雇用調整助成金の拡充だった。どうやら厚労省の官僚も、首相周辺の官邸官僚も、2008年のリーマンショック時に雇用調整助成金で失業者の増大を防げたとして「成功例」だと考えているのではないか。

雇用調整助成金の支給決定件数は2009年度に79万4113件に達した。その後の調査では、このために6536億円の予算が使われたが、結果的に2130万人が対象になったとされる。つまり、失業せずに救済された人が2130万人にのぼったというわけだ。

だが、リーマンショック時は金融市場発の激震だったため、影響は川上の大企業から出始めた。給与の前払いも、雇用調整助成金の申請も難なくこなせる企業が中心だったとみていい。

今回は、いきなり川下の零細企業や個人経営の外食、小売店、サービス業から打撃を受けている。社会保険労務士を使ったことがない事業者がほとんど、しかも雇用保険や労働保険にもきちんと入っていない事業者が少なからずいる。

このままでは多くの零細企業、個人事業が破綻する。そこで働いていたパートやアルバイトを含む従業員の失業が相次ぐことになりかねない。