「トンネル組織に丸投げは当たり前」そう開き直る安倍政権の非常識  炎上の理由は「政府への信頼のなさ」

プレジデントオンラインに連載している『イソヤマの眼』に6月12日に掲載された拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/36192

769億円で事務を受託した「協議会」の中身

「持続化給付金」の事務委託を巡って国民の不信感が高まっている。

持続化給付金は新型コロナウイルスの蔓延で業績が大幅に悪化した中小零細企業や個人事業者に対して最大200万円を給付するもの。5月1日から受付が始まったものの、申請から1カ月以上過ぎても1万件超が未払いになっているなど、支給の遅れが問題になっている。

そんな中で、経済産業省から769億円で事務を受託した一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」が、749億円で電通に再委託していたことが発覚、中抜きをする「トンネル組織」ではないかという疑惑が浮上した。

取材を受けた同協議会の笠原英一代表理事(その後、6月8日に辞任)はメディアの取材に対して、「この案件の執行権限がなく、細かいことは分からない。元電通社員の理事に委任している」と語っていた。代表理事に執行権限がないというのも不思議な話だが、「自分は看板にすぎない」と言っているに等しい。報酬も一切受け取っていなかったという。

つまり協議会は電通が作った事業の「受け皿組織」ということなのだろう。そうだとすると野党などが追及する「トンネル組織」だということになってしまう。

事務所を公開したものの、後日不在になっていた

批判を受けた協議会側は6月8日に記者会見を開いて組織として実態があると強調。翌日には本部事務所を報道陣に公開した。数日前に野党議員が本部を訪れた際には誰もおらず、インターホンも外されていたというが、当日は5人が出社していた。不在だったのは新型コロナに伴って自宅勤務をしていたからだと説明している。

事務所には8台の電話と、十数台のノートパソコンが置かれていたが、事務所はガランとしており、膨大な作業を行っている雰囲気ではなかったという。もともと職員は9人だというが、在宅勤務にもかかわらず、置かれたパソコンの台数が多いのが目についたと記者は話していた。広報担当の武藤靖人理事は「都内に複数の拠点があり、150人体制で支払い業務などを行っている」と説明していた。

野党は、協議会が手にした差額の20億円について実態がない「中抜き」ではないかと指摘しているが、政府は給付金の振込手数料など適正な支出だとしている。ちなみに後日、野党議員が事務所を訪ねたところ、やはり誰もいなかった、としている。

電通が外部に委託するのは「当たり前」のやり方

なぜ、電通ではなく、協議会が受託者となったのか。会見でも明確な答えはなかった。電通出身の業務執行理事である平川健司氏は「協議会はサービス産業の業務プロセス改善の指導、活動、後援を続けてきた実態がある」とし、設立の趣旨に合致する中小企業や個人事業主支援を行うべきだと考えて「幹事社として前に出た」と答えた。

また、同席した電通の榑谷典洋副社長は、「これまでの同種の事業の経験の中でグループ会社を集めることが一番良い形でサービスを提供できると判断しました」と述べ、電通が再受託したものを電通グループの子会社などに再委託した理由を説明した。再受託した「電通ライブ」や「電通テック」といった電通子会社は、さらにパソナ大日本印刷トランスコスモスといった会社に業務を外注している。

電通が受注したものを子会社や外部に委託するのは電通にとっては「当たり前」のやり方だ。通常の民間企業からの仕事でも、電通自身が手足を動かして作業することは希で、実働は子会社や外部委託先が行う。電通はコーディネート料として最低でも15%程度を取るという。

今回、会見で榑谷副社長が、今回の業務は「低い利益率だ」と強調していた。電通の「一般管理費率は10%を超えている」ので、今回、国から受託した事業の管理費10%は低い、というわけだ。

協議会の設立自体が「経産省主導」という疑惑

通常ならば電通が表に出るのが普通だが、協議会を前面に出したのには、理由があったのは間違いない。新人社員の過労死事件などで厚生労働省から処分されるなど社会的イメージが悪い中で、給付金の支払い機関名に名前が出るのを憚った、というのもあっただろう。だが、もっとも疑われているのが経済産業省の「利権」作りだ。

業界団体を作らせそこに補助金助成金を出したり、業務を発注するのは霞が関の伝統的なやり方だ。競争入札で受注させれば、相手は「民間」なので、普通ならば事業について国会などで追及されることはない。事業を実施する手足を持たない霞が関からすれば、業界団体は格好のツールになる。もちろん、その団体や組織に資金が貯まれば、天下りして高給を払わせるわけだ。

今回、協議会の定款の文書のプロパティーの作成者が「情報システム厚生課」になっていたと野党議員が明らかにしている。また、この問題を最初に報じた週刊文春には協議会の設立時の代表理事を務めた赤池学ユニバーサルデザイン総合研究所所長のコメントが掲載されているが、そこでは、「経産省の方から立ち上げの直前に代表理事を受けてもらえないかという話があって、それで受けた」と語っている。

経産省が進めていた「おもてなし規格認証」を運営する団体として作られたもので、つまり、協議会自体の設立が経産省主導だったということが見え隠れしている。

さらに協議会は法律で定められた「決算公告」を出していない。にもかかわらず、設立以来、経産省の事業を受託してきたのは、役所の意向が大きく働いてきたのではないか、と見られている。現在、経産省中小企業庁長官を務める前田泰宏氏が協議会の理事を務める電通関係者と懇意であることも判明している。まさに協議会は“官民連携”の象徴的な存在になっているわけだ。

国民は「またか」と思ったに違いない

平時ならばおそらく、こうした役所と民間企業のつながりも表には出ることがなかったに違いない。また、表に出たとしてもそれほど大きなスキャンダルにはならなかっただろう。農水省の官民ファンドで投資に失敗して回収不能になりながら、関係する役員に多額の退職金を支払っていた問題など、国民から見れば許されない事件だったが、批判の声はさほど大きくならなかった。

ところが今回の問題は、安倍晋三首相が新型コロナ対策として打ち出した目玉政策の一つである「持続化給付金」を巡る問題。経営危機に直面している国民からすれば、そこで「お手盛り」がなされていたとなれば、怒りは収まらない。しかも、巨額の委託費が払われている。もちろん、これは国民の税金だ。

安倍首相が打ち出した「アベノマスク」も表明から2カ月たっても届かないところが少なくないうえ、委託した業者の選定などでも不透明さが指摘されてきた。持続化給付金の問題が出て、ほとんどの国民は「またか」と思ったに違いない。

森友学園問題、加計学園問題、財務省の文書改ざん、桜を見る会、そして黒川弘務・東京高検検事長(5月に辞任)の定年延長問題など、癒着や忖度などが疑われる不透明な政策決定について、国民はホトホト呆れかえっている。「政府への信頼のなさ」が、今回の業務委託問題への怒りを増幅しているとみていい。

情報開示を渋れば、政治不信はますます強まる

役所が民間に業務委託する場合は、競争入札など公平な選定プロセスが義務付けられている。だが、実際には、実施までのスピードが求められたり、特定の事業者しかできない業務というのも存在する。国民に納得してもらうには、徹底した情報開示を行うことが不可欠だろう。今回の持続化給付金の問題でも国会で追及されると「企業秘密」を盾に情報開示を拒むケースが少なくない。

それでも追及されると渋々、情報を出す。出せるものなら初めから出せば疑念は生じないが、政治家も「渋る」ことで国会対策、つまり時間稼ぎに使うことが少なくない。結局そうした対応がさらに不信感を増幅する悪循環になっている。

協議会と電通の会見も「ツッコミどころ満載」という声もあり、今後も不審点の追及が続くことになりそうだ。そうなれば、政府への不信感が高まり、そうでなくても急低下している内閣支持率をさらに引き下げることになりかねない。