働き方に追いついていない労働基準法 耳を傾ける気配見せない「厚労省」

Sankei Bizに連載している『高論卓説』が6月18日に掲載されました。是非ご一読ください。オリジナルページ→

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時間や場所に制約されないのが普通に

 自民党行政改革本部で「ポストコロナ」時代を見据えた労働法制の見直し議論が進んでいる。新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)に伴う自粛などで、テレワークが一気に世の中に広がったが、これと同時に、人々の「働き方」も劇的に変化している。いわゆる「時間や空間に制約されない働き方」を求める人々が増えているのだ。

 ところが、現在の労働基準法は100年以上前にできた「工場法」が源流で、決められた時間に決められた場所で働くことが前提になっている。朝9時から夕方6時など「定時」に週40時間の「法定労働時間」働くのが「基準」でそれを超えたら残業代という割増賃金を支払う。夜10時以降は「深夜労働」ということになる。事業所の外で働くのも「例外」という扱いだ。つまり、現在の法体系が、人々が求める働き方に追いついていないのである。

 行革本部長は厚生労働大臣を務めた塩崎恭久衆議院議員。大臣時代に「働き方の未来2035」という懇談会を立ち上げた。金丸恭文・フューチャー会長を座長、柳川範之東京大学教授を事務局長に、働き方の未来像とそのための制度設計が提言された。「時間や空間に制約されない自律的な働き方」という未来像には、当時の連合は強く反発し、経団連など経済団体もいまひとつ乗り気ではなかった。

 それが、4年たった今、読み返すと、世の中の声と遜色なくなりつつある。新型コロナで世の中が一気に変わったことも大きい。

 ならば、法律やルールの見直しを行うべきだろう、というのが行革本部で議論が始まったきっかけだ。座長に指名された鷲尾英一郎衆議院議員民主党に所属していた経験も持ち、連合など労働団体とも太いパイプを持つ。党本部では既に各界から13回に及ぶヒアリングを実施。テレワークが「当たり前」になった現状に合う労働規制や労働者保護のあり方が議論されている。

 副業ならぬ“複業”が増え始め、フリーランスなどとして働く人が急増する中で、時間管理を前提にした労働基準法一本で働く人たちを保護することは難しくなっている。放っておけば、法律上「労働者」とは扱われない「請負事業者」が増え、労働者としての保護対象からどんどん外れていく。そうした自由な働き方をする人たちを守る新しい法律が必要だ。雇用保険などのセーフティーネットも法律上の「労働者」だけが対象だ。

 だが、厚労省はそうした声に耳を傾ける気配を見せない。労働基準法の例外規定などを広げることで、世の中で広がるテレワークに対応できるというのだ。つまり、あくまで「時間と場所」の管理を前提に「労働」を位置づける「前提」を崩そうとはしないのだ。

 もちろん、工場の生産ラインや小売業の店頭、飲食店での労働など、「場所と時間」での管理に適した労働も少なからずある。これらは従来の労働基準法で保護する方が合理的だろう。だが、一方で、IT技術者や創造性が求められる業務では、時間で管理することの不合理さが長年指摘されてきた。そうした仕事の領域が増え、テレワークが普通になる中で、労働基準法一本で「労働者」を守ることは難しくなっている。新たな法体系が不可欠になっている。