現代ビジネスに8月6日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74652
本当?「来年度はV字回復」
「我が国経済の水準(GDP)は、感染症が拡大する前の水準を早期に取り戻していく」
内閣府が7月30日に公表した「2020年度内閣府年央試算」には、今後の日本経済の姿について、こう書かれていた。
新型コロナウイルス感染症の蔓延で、経済活動が凍り付き、景気は大幅に減速している。2020年度の実質GDP(国内総生産)を政府は当初、1.4%のプラスと見込んでいたが、今回の試算ではこれを4.5%のマイナスに修正、2021年度は3.4%のプラスに転じるとした。
要は来年度は「V字回復」し、そう遠くないうちに新型コロナ前に戻る、と見ているのである。
ここへきて新型コロナの感染者が再び増加し、沖縄など一部地域では県独自の「緊急事態宣言」に踏み切った。感染拡大防止に向けて一部の店舗の営業停止や営業時間短縮を求める動きも再び広がっている。
そんな状況が早期に回復すれば願ってもないことだが、政府の見通しはあまりにも楽観的なのではないだろうか。
もう夏休み
政府の「公式見解」が楽観的だからだろうか。霞が関や永田町には不思議な「危機感のなさ」が漂っている。国会も閉会しているうえ、安倍晋三首相も6月18日以来、1ヵ月半以上もまともに記者会見を開いていない。「未曾有の危機だ」「国難だ」と言いながら、すっかり夏休みの雰囲気なのだ。
通常国会が終わった翌日の6月18日に開いた記者会見で、安倍首相はこう語った。
「2度にわたる補正予算も早期成立に御協力いただきました。事業規模230兆円、GDP(国内総生産)の4割に上る、世界最大の対策によって雇用と暮らし、そして、日本経済を守り抜いていく。御協力を頂いた与野党全ての皆様に心から改めて感謝申し上げます」
仮に政府が言うように今年度のGDPがマイナス4.5%だったとしよう。GDPはざっと550兆円なので、ざっと25兆円のマイナスになるという計算になる。そこに経済対策として230兆円を投じるのだから、経済が底割れするはずがない、ということなのだろう。「世界最大の対策」だと安倍首相が大見得を切りたくなるのも当然だ。
数字の上では
だが、本当に政府の経済対策は「万全」なのだろうか。
霞が関の机上の計算が狂う可能性は十分にある。まずは今年度の落ち込みが4.5%で済むかどうか。2020年4-6月期のGDPは8月17日に1次速報が発表されるが、報道によると民間シンクタンク12社の予測の平均値は年率27.0%減。もちろん戦後最悪の落ち込みである。
すでに発表されている米国の4-6月期は年率32.9%の減だったので、米国に比べれば日本経済はマシということだ。
もちろん、両方の数字とも、4-6月の状況が1年間続いたとした場合の年率計算なので、2020年もしくは2020年度の増減率が実際にそこまで大きくなることはないだろう。
7-9月期の数字は、大きく落ち込んだ4-6月期をベースに計算するので、プラスに転じることはおそらく間違いがない。一種の統計のマジックだが、秋には、「4-6月期を底に日本経済は急速に回復している」という報道を耳にすることになるだろう。
実感は異なるものに
だが、実際の生活感覚はまったく異なるに違いない。
足下、企業の4-6月期決算が発表されているが、軒並み巨額の赤字を計上している。航空会社や百貨店など営業がほとんど止まり、売り上げがかつてない減少となったのだから、赤字になるのは当然だ。
営業再開によって7-9月期は4-6月期に比べれば「改善」することになるが、対前年で見れば大幅に売り上げが落ちており、赤字が続く可能性が大きい。2020年度1年間を通したGDPが、前の年度に比べて4.5%のマイナスにとどまるのかどうか。
もうひとつは230兆円という経済対策予算が、経済の崩壊を防げるのかどうかだ。
ひとり10万円の定額給付金や、中小零細企業への持続化給付金、自治体による休業補償金など、大混乱はあったものの、とりあえず資金が配られたことで、手元資金が不足することによる倒産や失業などは最低限に抑えられたとみていいだろう。
4月5月の2ヵ月経済が「凍りつく」状況でも、何とか生き抜いた背景には、政府の巨額の支出があったとみていい。
「平時モード」のまま
問題はこれから。企業業績の赤字が表面化してくる中で、当然、企業は年末賞与を大きく減らしたり、余剰人員を削減したりするリストラ策に打って出ることになるだろう。
そうした企業の「規模縮小」を補う対策を取らない限り、GDPはそう簡単には元の水準には戻らない。
政府は「未来投資会議」を開いて、ポストコロナを睨んだ産業構造への転換を促進する姿勢を見せている。大胆な産業構造の転換などを推進していくのだとすれば、それはそれで意味があるだろう。
「縮小」していく産業・企業とは別に、ポストコロナの時代に「拡大」「成長」していく産業・企業や新しいサービスは存在する。そうした新しい成長産業を強力に後押していくことは重要だろう。