GDP27.8%減で明らかに…!感染者増でも「非常事態宣言は無理」なワケ 大恐慌の惨劇を繰り返すな

現代ビジネスに8月20日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74986

砕け散った甘い見通し

内閣府が8月17日に発表した4-6月期の国内総生産GDP)速報値は、予想されたこととはいえ、衝撃的な数値となった。物価変動の影響を除いた実質の季節調整値は、1-3月期と比べて7.8%減、年率換算すると27.8%のマイナスになった。

政府が事業規模230兆円にのぼる経済対策を打っていることから、一部のエコノミストの間には、リーマンショック程度になるとの期待もあったが、淡くも砕け散った。

リーマンショック直後の2009年1-3月期はマイナス17.8%だったが、それをはるかに上回る戦後最大の落ち込みとなった。

27.8%減という数字は、4-6月期の3カ月が1年続くと仮定した場合の数字で、最終的に2020年度のマイナスがそこまで大きくなることはない。

政府は7月30日に「年央試算」を公表しているが、それによると2020年度の成長率は「マイナス4.5%程度」。

リーマンショック時の2008年度の実質マイナス3.5%(名目はマイナス4.1%)よりも影響が大きくなると見ているわけだが、それでもこの見通しでは甘いという声が上がっている。

せいぜい0%から2%程度の成長しかしてこなかった日本経済が、仮に5%を超すマイナスになれば、ただ事ではない。

非常事態宣言の影響

4-6月期のGDPの内訳で大きいのは、消費の減退だ。「民間最終消費支出」は8.2%減。消費増税の反動減が出た2019年10-12月期ですら2.9%減だったので、その2.5倍の影響と見る事ができる。

4月から5月にかけて、新型コロナウイルスの蔓延を防ぐために経済活動を止めた結果がはっきりと現れたわけだ。

また、「財貨・サービスの輸出」が実質で18.5%も減った事が響いている。新型コロナ対策でロックダウン(都市封鎖)を実施した米国や欧州向けの輸出が激減した事が響いた。

もっとも中国向けは1-3月期は大きくマイナスになったものの、4月以降は急速に回復している。

よほどのことが起きない限り

消費の落ち込みには、海外からやってくる訪日旅行客が落とすお金が消えたことも含まれる。4月、5月、6月と訪日旅行客は前年同月比99.9%減が続き、事実上、ストップした。

GDPで見れば金額は知れている、という指摘もあるが、地方などの飲食店や小売業、旅館ホテル業にダイレクトにお金が落ちていたことを考えると、それが止まった影響は小さくない。

もちろん、国内の人々が自粛して経済活動を止めた結果、消費が落ち込んだ事が最大の要因だ。6月に入って政府が緊急事態宣言を早々に解除したのも、自粛呼びかけを続ければ、経済が持たないという危機感があったことは間違いない。

緊急事態宣言の解除後もなかなか消費は戻らず、GDPは未曾有のマイナスとなった。感染者が急増しているにもかかわらず、緊急事態宣言を再度出すことに政府が躊躇しているのは、経済の崩落を恐れているからに他ならないだろう。

今後、死者が急増して医療崩壊が起きるなど、よほどのことが起きない限り、緊急事態宣言は出されないと見ておいて良さそうだ。

見かけの急回復に踊らされるな

まかりなりにも経済活動を再開したことで、次の7-9月期のGDPは大きなプラスになるとみられる。4-6月期と比べるので、「どん底」から少しでも上昇すれば、「プラス成長」ということになる。

もしかすると「この20年で最大のプラス成長」になるかもしれないが、これは一種の数字のマジック。人々の経済実感とはかけ離れたものになるだろう。

危険なのは、政治家や官僚が、その「数字」だけをみて「経済は回復している」と思うことだ。

10月中旬以降、3月期決算企業の中間決算がまとまり、年間の損益で赤字が避けれないということになれば、企業はコスト圧縮を本格化させる。年末の賞与削減は当たり前として、リストラに手をつける企業がではじめれば、生活防衛から人々は財布の紐を一気に締めるだろう。

 

10-12月期は再び消費が大幅なマイナスを記録する可能性もある。それを防ぐには、今年の秋に、消費対策を中心とする経済対策を打つ必要がある。

ところがこの時期に発表される7-9月期の大幅プラス成長という数字に目をとられ、対策が後手に回ってしまうのではないか。

長期化を覚悟せよ

ここへきて、新型コロナの経済への影響は長期化するとの見方が強まっている。リーマンショックは比較的回復が早く、V字回復となった。

それでもGDPの額が元の水準に戻るまでに実質ベースで6年、名目ベースでは8年を要している。新型コロナが比較的早期に終息したとしても、元に戻るまでに10年近い月日を要する可能性もあるのだ。

1929年にニューヨーク・ウォール街の株価大暴落で始まった世界大恐慌は、金融システムの破綻から企業倒産、失業といった実体経済の悪化につながっていった。失業率が25%を超えて過去最悪を記録したのは、それから4年後、1933年のことだった。

今回は、緊急事態宣言による自粛などを通じて実体経済が凍りつくところから危機が始まっている。今のところ金融システムには問題がないが、大幅な金融緩和の副作用などは数年後には現れる。金融システムが崩壊すれば、世界大恐慌の再現になりかねない。

政府が右往左往し批判が強かったものの、定額給付金や持続化給付金の支給、雇用調整助成金制度の拡充などは、一定の成果を上げている。いわゆる資金繰り破綻を、とりあえず最小限に抑えられているとみていいだろう。

とりあえずの危機対応はできたとしても、それで十分ではない。本格的な経済復活の道筋をどう描き、どんな経済対策をどのタイミングで行うのか。気を緩めずにこの秋に具体策を練る必要がある。