消費減少の「第2波」がやってくる――定額給付の「10万円効果」は一過性 追加経済対策は不可避に

現代ビジネスに9月10日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75499

7月以降、再び悪化

消費減少の「第2波」がやってきそうだ。

新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言による営業自粛などで、4月、5月と大幅に落ち込んだ消費は、6月には持ち直す気配も見えたが、7月以降、再び悪化の色彩を強めている。

このままでは「年末消費」も壊滅的な打撃を受けそうで、日本経済は深刻な事態に陥る可能性がある。

総務省が9月8日に公表した7月の家計調査によると、2人以上の世帯の消費支出は実質で、前年同月比7.6%の大幅減少になった。

4月は11.1%減、5月は16.2%減と、これまで経験したことのない落ち込みになったが、営業が再開された6月は1.2%減にまで持ち直していた。それが、再び大きなマイナス幅となった。

8月に入っても回復の兆しは見えない。

集計が早い新車販売統計を見ても、大幅なマイナスが続いている。日本自動車販売協会連合会全国軽自動車協会連合会が9月1日に発表した8月の新車販売台数(速報)は、32万6436台と前年同月比16.0%減となった。マイナス幅は4月28.6%減、5月は44.9%減となった後、6月22.9%減、7月13.7%減と改善傾向になっていたが、8月は再びマイナス幅が拡大した。

新車販売の減少は、消費税率が引き上げられた2019年10月から11カ月連続。消費税引き上げが売り行き悪化のきっかけだったが、それに新型コロナが追い討ちをかける結果となっている。

景気のバロメーターともいえる住宅着工も大きく落ち込んでいる。国土交通省の建築着工統計調査報告によると、新設住宅着工戸数は4月以降、対前年同月比で2ケタのマイナスが続いている。7月は7万232戸と前年同月比で11.4%減少した。自動車や住宅の売れ行きがさっぱりなのである。

一過性の定額給付金景気

ところが一部の業界、商品で異変が起きている。典型的なのが家電量販店。ヤマダ電機ケーズホールディングスノジマエディオンの大手4社の4~6月期はそろって販売好調で、純利益が軒並み大幅増益となった。

家計調査を見ても、7月の「家具・家事用品」への支出は実質16.6%も増加している。

また、自動車でも中古車は売り上げが伸びている。日本自動車販売協会連合会の統計によると、4月は9.8%減、5月は20.8%減と落ち込んだものの、その後急回復して6月は5.8%増、7月は3.8%増と前年同月を上回った。

 

消費にいったい何が起きているのか。

家計調査には「勤労者世帯の実収入」という調査項目がある。これによると、5月以降、実収入が急増している。5月9.8%増、6月15.6%増、7月9.2%増である。

実収入はここ数年、数%の増減を繰り返してきたが、5月以降は「異常値」ともいえる増え方になっている。

これは明らかに政府が全国民を対象に配布した「定額給付金」ひとり10万円の効果が統計に表れたと見ていい。世帯主の収入はむしろマイナスで、配偶者や他の世帯員つまり、子どもなど扶養家族の収入が大きく増えているのだ。

そうした収入増が家電製品などに回ったとみていいだろう。テレワークの広がりなどで、自宅で仕事をする人が増え、パソコンやクーラーなどを購入する人が増えた。ひとり10万円という金額が、家電消費にはちょうどよい金額だったということのようだ。

中古車販売が増えているのも、電車通勤を避けて自家用車で通勤する人が増えたり、在宅勤務で夫婦それぞれに車が必要になったということもありそうだ。

定額給付金は4人家族でも40万円だから、新車を買うには足らないから、中古車ということになっているのかもしれない。もちろん、定額給付金くらいでは、住宅を買うという行動には結びつかない。

10万円の定額給付はほぼ申請の受付が終わり、多くの自治体で給付が終了した。ということは8月以降は、実収入の伸びは鈍化していくとみられる。つまり、家電の売れ行き好調や中古車の販売増は、あくまで一過性のものだったということになりそうだ。

企業赤字決算で人件費カットか

さらに、働く人たちの収入は落ち込んでいく可能性がある。

10月に入ると、多くの3月期決算企業が中間決算を発表する。これまで2021年3月期通期の業績予想を出して来なかった会社も、見通しが立つようになってくるに違いない。一部の業界を除いて多くの企業が大幅な減益になったり、赤字に転落することが明らかになるとみられる。

 

当然、赤字決算が不可避となった企業は、年末賞与の圧縮などに動く。ボーナスゼロ、といった会社も出てくるだろう。中には、会社を存続させるために、人員削減などのリストラに動く会社もあるに違いない。もしかすると、業績悪化が深刻で経営が行き詰まるところもあるかもしれない。そうなると勤労者世帯の収入が大きく減ることになる。

そうなれば、人々は財布の紐を締め、消費は一気に減少する。消費減少「第2波」がやってくることになるわけだ。それは一過性の消費が消える10月以降、本格的に表面化するのではないか。

このままでは年末消費が壊滅的な打撃を受けかねない。いびつな形の消費増を生んだ「定額給付金」をもう一度実施するかどうかは別として、消費を下支えするための、何らかの追加の対策を打つ必要がある。