「国の借金」急増――新型コロナ対策の財政支出増加が止まらない  バラマキ続ければ「破綻」が現実に

現代ビジネスに11月12日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77278

巨額のコロナ経済対策が

「国の借金」が急増している。

財務省が11月10日に発表した2020年9月末の「国債及び借入金並びに政府保証債務の現在高」は、1189兆9160億円と、前年同月末比で7.7%増えた。

2013年以降、前年同月比の増加率は4%を超えたことがなく、2017年12月以降は0.9%増から1.8%増の間で推移していた。それが、新型コロナ対策で定額給付金や持続化給付金の支給に踏み切ったことから、3月末の1.0%増から6月末には4.8%増に跳ね上がっていた。

その後も「GoToキャンペーン」や家賃補償、企業への融資などの支給を2回にわたる補正予算で手当て、これを賄うために「借金」が急増した。

9月末の内国債の現在高は1004兆8140億円と初めて1000兆円の大台に乗せた。今年3月末に比べて17兆2254億円増、率にすると1.7%増にとどまっているが、緊急の資金繰りなどのために発行する「政府短期証券」の残高が135兆2087億円と、3月末の74兆4188億円に比べて82%も急増した。

国の借金はジワジワと増加が続き、過去最多を更新し続けてきたが、安倍晋三内閣では歴代内閣に比べて増加率が大きく鈍化していた。安倍政権下で予算規模は膨らませてきたが、アベノミクスなどによる景気好転で税収がバブル期を上回るなど、国債発行を抑制できたためだ。

ところが2020年度に入ると新型コロナで状況が一変。巨額の政府支出による経済対策が相次いで打ち出された。

税収も減少必至

一方で、税収は大きく落ち込む見通し。2018年度に税収は60兆3563億円を記録したが、2019年度は法人税が減ったことから58兆4415億円となった。

2020年度は企業業績の大幅な悪化で法人税収が減るのは確実な状勢だ。

2019年10月の消費税率引き上げもあって2019年度に18兆3526億円まで増えた消費税は、2020年度も半年分の増税効果があるとはいえ、消費の落ち込みで頭打ちになりそうだ。

かといって新型コロナで景気が悪化している中で緊縮財政に転じることはできない。菅義偉首相は3次補正予算の作成を指示しており、さらに財政支出が膨らむ見通し。当面、借金の増加は収まらない。

財務省は2次補正予算をベースとした見込みとして、2021年3月末に「国の借金」が1355兆円になるとしている。今年3月末は1114兆円なので22%も増えることになり、この試算はあまりにも過大だが、10%近い増加になることは十分に考えられる。

いずれ国民の負担に

国の借金はいずれ増税の形で国民負担になる。

もっとも、「国民負担率」は2018年度で過去最高の44.1%に達している。「国民負担率」は税負担と社会保障負担の合計が国民所得の何%に達しているかをみるもので、2010年の37.2%から8年連続で上昇している。

2019年10月には消費税率が引き上げられており、財務省の控えめの見込みでも、2020年度には44.6%に達する。新型コロナによる経済への打撃で国民所得が減れば、国民負担率は一気に上昇することになりかねない。

そうした中で、さらに増税することは困難だ。新型コロナの蔓延が終息し、経済が回復するまで「国の借金」は増え続けることが避けられない見込みだ。

もっとも世界の主要国も大幅な財政支出の増加で借金を増やしており、現段階では日本の「大借金」だけが市場の焦点になることは避けられている。

経済を回復させられるか

問題は新型コロナ後に主要国の経済がV字回復する中で、日本経済だけが取り残されないかどうか。

国の資金で救済した企業が、ポストコロナの社会できちんと成長して利益を上げ、それが税収増につながれば、国の借金の増加を止め、財政再建に踏み出せる。逆に、新型コロナ前から構造的に苦しかった企業にまで救済資金をつぎ込み、ポストコロナ社会でも生き残ることができなかったとすると、国の投じた財政支出は回収できないことになる。

つまり、いかに将来「復活できる」企業に絞り込んで財政でテコ入れするかが重要になるわけだ。

ここまでのところ、ひとり一律10万円の定額給付金や、中小企業・個人事業主に100万円から200万円を支給する持続化給付金によって、経済の底割れは防いできた。政府系金融機関などの融資拡大もあり、現状では企業は手元資金を厚くするなど持ちこたえている。

もっとも、今後、業績が大幅に悪化するのは避けられず、そうした手元資金を徐々に使い果たしていくことになるだろう。そうなると、再び政府に救済資金の支出を求める声が強まるに違いない。

さらに、新型コロナによる経済危機に加えて、日本は今後、深刻な人口減少にも直面する。旧来の政策の延長線上では、消費が右肩上がりに増えていく期待はもてない。コロナ禍を乗り越えることだけを考えて救済策を取るのではなく、コロナ後の社会を見据え、新時代に求められる企業を育てていく視点が必要だろう。

ここを耐え忍べばコロナ前の社会に戻ると思っていると、一気に積み上がった「国の借金」を減らすことはできず、日本経済は断末魔を迎えることになってしまう。