コロナ経済対策「助成金麻薬」の害毒が、日本を蝕んでいる…! 本当に困っている人には支援は届かず

現代ビジネスに12月10日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/78163

助成金漬けの弊害

「助かってはいるんですが、こう何でも助成金頼みになってしまって、いいんでしょうか」

東京・神田で和食店を営む店主は言う。4月以降、売り上げが大幅に減ったものの、持続化給付金や家賃支援給付金のほか、時間短縮営業への「協力金」などを受け取り、「何とか耐え忍ぶことができている」。5月に休業した際の従業員の給与も、雇用調整助成金で賄った。

飲食店などにとっては、ありがたい制度ではあるが、新型コロナウイルスの蔓延が収まらなくても、政府の予算が尽きればこうした助成金はなくなる。「助成金頼みの経営になってしまうと、それが無くなった時の衝撃は大きい」とこの店主は先々を危惧する。要は助成金が麻薬のようになっている、というのだ。

菅義偉首相は就任時に、「自助・共助・公助そして絆」だと、あるべき社会像を語った。

本来、助成金は本当に困っている自営業者や企業だけがもらうべきで、まずは自らが生き残ろうと努力する「自助」が先にあるべきだが、いきなり皆が「公助」にすがる格好になった。もらえる助成金なら、もらわなければ損だ、というムードが広がっている。

だが、店主が心配するように、自らの足で立つ気概を失えば、新型コロナ後の経営はままならない。

家賃補償は飲食店などにとっては「効果」が絶大だ。固定費の中で大きいのは人件費と並んで家賃だから、休業させた社員の給与を雇用調整助成金で国が肩代わりしてくれ、家賃も賄ってくれるのだから、どんなに経費管理が杜撰でも経営破綻することはない。

果たして、これで、新型コロナ後の日本経済はまともな形に戻れるのだろうか。

「濫用」の実態

さらに、こうした助成制度を「濫用」しているのではないか、と思われる噂が、飲食店経営者の間で語られている。雇用調整助成金を「活用」している中華料理店のケースでは、正社員を30人に増やして、ひとり当たり30万円、月に900万円もの助成金を申請・受け取っているというのだ。

新型コロナ以降、パートを正社員に変えるなど、むしろ従業員の数を増やしているという。真偽のほどは不明だが、制度をフルに使って助成金を食い物にしているというのだ。

もちろん、雇用調整助成金は従業員に支払われた給与の事後補填が建前だが、実際には従業員に全額が支払われていないのではないか、と囁かれる。失業者を出さないために申請手続きや審査を緩めたことを逆手にとって、儲けているというのだ。

さらに酷いのは、金融機関からの緊急融資を受ける話。新型コロナでの景気悪化に備えるために、担保や経営者の個人保証が不要な融資が増えている。

これを利用して借金をするが、初めから返すつもりはないと公言している経営者がいるというのだ。返済期限がくれば会社を潰して後は知らん顔、というから驚きだ。

本当に困っている人には

決して、政府の助成金が不要だ、と言っているわけではない。緊急事態宣言の際のように、事実上、経済活動が止まった時に、助成金を支給しなければ、本来は事業として成り立っていた事業者・企業まで、資金繰りで破綻する。

ひとり一律10万円の特別定額給付金の支給を決めたのも、あの時点では正しい決断だった。「本当に困っている人」を選別するには時間がかかり、そのために資金繰りが詰まることが懸念されたからだ。

だが、あれから半年以上が経過している。にもかかわらず「本当に困っている人」を見分け、そこに助けの手をさしのべる仕組みは構築されていない。だから、本当に必要かどうか分からないところに助成金をばら撒き続けるしかないわけだ。

 

特別定額給付金では、全国民に10万円ずつ配るだけの作業に、1500億円もの外注作業費がかかった。はからずも国の行政能力の低さが露呈し、多くの国民はそれに愕然としたわけだ。

菅首相が就任早々「デジタル庁新設」「霞が関の縦割り打破」を言い出したことに多くの国民が共感したのも、あの10万円騒動があったからにほかならない。

そして国民の中でも、「経済困窮」には直面していなかった人は、「本当に私がもらっていいのだろうか」と自問した。中には受け取った特別定額給付金をそのまま寄付した人もいた。

政府は児童扶養手当を受給している低所得のひとり親世帯などを対象に、「臨時特別給付金」として原則5万円を年内にも再支給することを決めた。また、2人目以降の子どもひとり当たり3万円も支給する。児童扶養手当を受けていないひとり親も収入が大きく減ったことが確認できれば対象とするという。児童扶養手当を受けているひとり親世帯は、「本当に困っている人」に該当するのは明らかだからだろう。

だが、結局、この「旧来の分類」での困窮世帯しか救うことができていない。「本当に困っている人」はもっと多いはずだが、それを把握し、助成する仕組みが出来上がっていないのだ。

助成が本当に必要な人に

政府は支援策のうち、「持続化給付金」と「家賃支援給付金」については2021年1月までの申請で予定通り終了する方向だ。GoToキャンペーンなどによって、来店者数が持ち直すなど危機的状況を脱した、という判断と同時に、前述のような利用を巡る不公平感が高まっていることが背景にあるという。

もっとも、新型コロナの感染が再び拡大し、行動の自粛などが求められる中で、これらの給付金がなくなれば、経営が行き詰まるところも確実に増える。「本当に困っている人」を助けられないわけだ。

菅首相は2021年9月にはデジタル庁を立ち上げるよう指示し、法改正の準備が進んでいる。必要なところに「公助」の手を差し伸べることができるシステムを構築できるかどうか。菅内閣の真価が問われる。