コロナ「罰則化」の愚…“後手後手”菅政権が「国民のせい」にしようとしている!  政権批判をかわすために…

現代ビジネスに1月21日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/79464

「過料」「罰金」「懲役刑」

政府は新型コロナウイルス対策で「罰則」の導入を決めた。1月19日の自民党総務会で、特別措置法や感染症法、検疫法の改正案が了承されたのを受けて、近く法案を閣議決定し、今の国会で成立させる方針だという。

焦点は新型コロナ対策での「罰則」の導入。特別措置法の改正案では、緊急事態宣言が出されていない地域でも集中的に対策を講じられる「まん延防止等重点措置」を新設、政府が対象地域とした都道府県の知事は、事業者に対し、営業時間の変更などを要請し、立ち入り検査や命令もできるようにする。

こうした知事の命令に従わず、営業時間の変更などに応じない事業者に対して、行政罰としての「過料」を科すことができるようになる。過料は、緊急事態宣言が出されている場合は「50万円以下」、「重点措置」の段階では「30万円以下」としている。また、立ち入り検査を拒否した場合も20万円以下の過料を科すという。

さらに凄まじいのが感染症法の改正案だ。知事が宿泊療養の勧告を行うことができるようになり、応じない場合や入院先から逃げた場合には「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」の刑事罰が科される。

また、海外からの入国者に対して、14日間の自宅待機などを要請できる規定を明確化した上で、それに応じない場合に、施設に「停留」させる。従わない場合にはこれも「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科される。

なぜ休業ではなく時短なのか

12月以降の新型コロナの感染急拡大を受けて、政府は緊急事態宣言を発出したが、4月の緊急事態宣言時に比べて人出の減り方は小さい。また、飲食店などへの時短要請にも従わない事業者も出ている。これを「厳罰」で抑え込もうというわけだ。

だが、順序が逆ではないか。政府は飲食が感染拡大の大きな原因だと繰り返し説明しているが、夜8時以降だから感染し、それまでの時間なら感染率が低いという話ではない。

批判の声が上がると西村康稔経済再生担当相は会見で「昼間も含めて外出自粛をお願いしている。昼食・ランチは、みんなと一緒に食べてもリスクが低いわけではない」と発言。それならば飲食店に「時短要請」ではなく「休業要請」すべきだろう。十分な休業補償をすれば、大半の店舗が休業するだろう。

 

4月の時と同様、大規模商業施設などを含めて一斉に「休業要請」しなければ、人出は減らないし、その人出を見込んだ飲食店が要請を無視して開店する事態も防げない。

要は、対策の打ち出し方がまずいから人出が減らないのであって、それを「厳罰」で抑え込もうとしてもうまくいかないだろう。50万円の過料ならば払ってでも営業した方が経営にプラス、と判断するところが出てくれば、モグラ叩き状態になるだけだ。それらをすべて摘発して歩くマンパワーも経験も地方自治体にはない。

「一体政府は何をやっていた」

感染症法改正案はさらにひどい。宿泊療養や入院を拒否したら懲役だという。今の状況は、入院したくても入院先がない。入院先を探している間に死亡する例まで出ている。政府自身がやるべきことをやらず、国民に責任を負わせようとしているようにみえる。

自民党二階俊博幹事長は、記者会見で「国民を信頼しないわけではない」と語り、「罰則でみんな縛ってしまうわけではなく、しっかりやりましょうということで罰則も用意するということ、誤解のないようにしてもらいたい」と述べた。だが、罰則をもうけるというのは、国民を信頼していないからに他ならないのではないか。

 

1月13日の菅義偉首相の記者会見の最後にビデオニュースの神保哲生氏がこんな質問をしていた。

「総理、今日、会見を伺っていると、基本的に国民にいろいろ協力を求めるというお話をずっとされてきましたが、もう一つ我々が是非知りたいのは、その間、一体政府は何をやってきたのか」

まさしく国民が感じていることをズバリと言い放ったのだ。そのうえで、病院の病床を(新型コロナ患者用に)転換というのは病院任せで、お願いするしかない状況だが、医療法などの改正は今の政府のアジェンダに入っていないのか、と問うたのだ。

菅首相は「ベッドは数多くあるわけでありますから、それぞれの民間病院に一定数を出してほしいとか、そういう働きかけをずっと行ってきているということも事実であります」と述べるにとどまった。

改正法案では、必要な協力の求めに応じない医療機関名を公表できるとした規定が盛り込まれている。これも「罰則」で言うことを聞かせようという発想だ。しかも、政府が直接罰を与えるのではなく、名前を公表して国民の怒りを向けさせようという話である。

田村憲久厚生労働相は会見で、「命に関わる患者が多くいて医療機関がひっ迫していたり、医師や看護師がいて地域医療体制が確保できているのに患者を受け入れていなかったりするなど、その時の状況を総合的に勘案したうえで、丁寧に対応していきたい」とし、「決して強制力を持って無理やりという話ではなく、お互いの信頼のもと対応、協力をいただくということだ」と述べた。

厚労相の暴露

こうした改正案には自民党内からも苦言が出ている。

塩崎恭久・元厚労相は自身のブログで問題点を指摘、メディアや厚労省内で話題になっている。

ブログでは、マスコミなどが公立病院71%、公的病院83%、民間病院21%という数字を使って、新型コロナ患者の受け入れ率が民間病院が低いとし、厚労省が民間病院に受け入れさせることを前提に「罰則」導入を検討していることに疑問を呈して、こう書いている。

 

「経営体力的にも、人材調達力においても脆弱な民間病院が、有事にあって制裁手段を恐れながら強制されて渋々コロナ患者を受け入れる事が問題解決につながるとは到底思えない」

そのうえで、「報酬面でも『特定機能病院』として優遇され、人材も豊富でありながら、22もの大学病院が重症患者を1人も受けていなかったり、今でも法的に厚労大臣が有事の要求ができる国立国際医療研究センターが重症患者をたった1人しか受けていない状態を放置している事の方が問題だ。ちなみに東大病院には約1000人の医師がいるが、重症患者受け入れはたった7人だ(いずれも、1月7日現在)」と暴露。

「知事と厚労大臣に重症・中等症者の入院につき、大学病院、公的病院等に対し、要請と指示ができるよう明確に法定するとともに、そうした受け入れ病院への公費補助、および他の医療機関からコロナ中核施設に一時的にサポートに入る医師の身分保障などを明確に規定すべきだ」と提言している。

新型コロナの新規感染者数はようやく増加ペースが落ちてきたが、重症者は1000人を超え、1日の死者数も100人を突破するなど「医療逼迫」は深刻化している。今、政府がやるべきことは何なのか。罰則は、後手後手に回ったという政府への批判を糊塗し、国民のせいにする手立てのように見えてならない。