財務省があえて言わない、じつは日本人の「国民負担率が過去最悪になっていた! マスコミも報じない…

現代ビジネスに3月4日に掲載された拙稿です。

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https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80816

かつてない上昇率

新型コロナウイルスの蔓延に伴う経済低迷で、生活に困窮する人が増えている中で、税金と社会保険料が重く国民にのしかかっている。

財務省が2月26日に発表した「国民負担率」によると、2020年度の実績見込みが46.1%と、前年度実績の44.4%から1.7ポイントも急上昇して過去最高になったことが分かった。過去最高を更新するのは5年連続だが、負担率の上昇幅はかつてなく大きい。

国民負担率とは、国民が支払う国税地方税と、年金や健康保険料などの社会保障負担の合計が、国民所得の何%を占めたかを示す指数だ。

2020年度に負担率が急上昇したのは、新型コロナによる経済活動の停滞で、国民所得が大きく減ったこと。財務省が負担率計算の前提にした国民所得は377兆円と6%、24.3兆円も減った。

税金の負担は国税を中心に金額が減ったとしているが、2019年10月に引き上げられた消費税率が通年できいたこともあり、所得対比の比率上昇は止まっていない。また、社会保障負担は19.9%とほぼ20%となった。

新型コロナ関連の経済対策では、ひとり一律10万円の特別定額給付が実施されたほか、GoToトラベルなど大盤振る舞いにも見える対策に多額の費用が投じられているが、ついぞ、所得税を減税するという声は政府からも国会からも出てこない。

3月2日の衆議院本会議で可決成立した2021年度予算は106兆円と過去最大である。もちろん、歳入を大きく上回る歳出予算のツケはいずれ増税の形で国民負担に回ってくることになる。まだまだ国民負担率は上昇することが確実な情勢なのだ。

実態を示さない報道

ところがである。この財務省の推計を報じた新聞報道はまったく書きっぷりが違っている。

「国民負担率44.3% 21年度見通し、1.8ポイント低下」。日本経済新聞の2月26日付けの記事の見出しである。

実は、財務省は国民負担率を発表する際、実績や実績見込みではなく、見通しを中心に説明している。財務省のクラブ詰めの記者はその説明を聞いて、見通し中心の記事を書いているわけだ。これは毎年のことである。

今年の発表の場合、財務省が発表した2021年度の見通しは44.3%となっている。20年度の実績見通しに比べると確かに1.8%の低下になる計算だ。

だが、問題はこの見通し数字はまったく「当てにならない」代物なのである。過去10年近く、「見通し」通りの数字に実績がなった例はない。しかも必ず、「見通し」よりも実績はかなり大きくなっているのだ。

実は「実績見通し」ですら、残り1カ月で締まる数字であるにもかかわらず、毎年外れている。必ず、見通しは負担率が過小になるような数字なので、実績見通しをベースにすると、「低下する」という見通しになるのだ。

例えば、今回の発表で「実績」が44.4%となった2019年度の場合、2年前の「見通し」段階では42.8%と発表されていた。その際の日本経済新聞の記事は「19年度の国民負担率は横ばい 財務省試算」という記事を書いていた。

財務省が発表した2018年度の「実績見通し」が42.8%だったので、それに比べて横ばい、という記事なのだが、2019年10月には消費税率が8%から10%に引き上げられることが予定されていた。それでも「国民の負担は横ばいですよ」という財務省のストーリーにまんまと乗せられていたのだ。

ちなみに、2018年度実績は44.1%で、2019年度実績は44.4%だったから、結果は横ばいではなく、しっかりと増加していた。もちろん過去最高を更新したのである。

財務省、眉唾説明

2021年度の国民負担率が大幅に低下するという財務省の試算は、国民所得が大幅に増えるという前提になっている。

国民所得が393.6兆円と4.4%増えるため、負担率が下がるというのだ。社会保障費の負担率は18.9%と1%ポイントも下がるとしているが、国民所得と比較すると実際の負担額も6000億円減る計算になる。地方税の負担率が大きく下がるとしている点も、現実味に乏しい。

 

新型コロナが早期に収束し、日本経済が力強く復活することは期待したいが、国民負担が財務省の言うように減るのかどうかはいつもながら眉唾ものと言っていいだろう。

財務省はいつもながら、国民負担率の国際比較という資料を同時に発表している。海外に比べれば日本国民の負担率はまだまだ低いのだ、という説得材料に使ってきた感が強い資料だが、最近では日本が断トツに低いとは言えなくなってきた。

米国の国民負担率は31.8%で、日本よりもはるかに低い。英国は47.8%だから、もうすぐそこである。健全財政を誇るドイツは税金が高いが、それでも54.9%である。日本が財政赤字をすべて国民負担にした場合、56.5%に達するというのが財務省の試算だ。

国民の負担を考えれば、本当に意味のある事業に絞り込むなど、歳出の効率化を進める必要があるが、政府も国会も新型コロナ対策を言い訳にタガが外れたように予算を膨らませている。

増税を狙って、「先々の国民負担は下がります」、「海外に比べればまだまだ低い」と言って国民の目をはぐらかすことに一生懸命になるのではなく、抜本的な歳出改革などで国の財政をどう立て直すか、財務官僚には知恵を絞ってもらいたいものである。