コロナ直撃で、ここから「マスコミ」と「広告」はここまで激変する…! CNN広告営業責任者に聞いた

現代ビジネスに3月25日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/81541

深刻な打撃

国際オリンピック委員会IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)、東京都、東京2020組織委員会、国の5者が3月20日に行ったリモート協議で、海外観客の日本への受け入れを断念することが決まった。日本側が安全・安心な大会を実現するために海外在住者の受け入れ見送りを報告し、IOC、IPCが了承した。

海外からの観客の来日を見込んでいた観光関連業者など日本経済への打撃は計り知れないが、国際的な広告などメディア業界への影響も大きい。CNNインターナショナル・コマーシャルの上級副社長でアジア太平洋・中南米の広告営業統括責任者などを務めるロブ・ブラッドレイ氏に聞いた。

ーー東京オリンピックパラリンピックへの海外からの観客の受け入れを断念することになりました。新型コロナウイルスの蔓延状況によっては開催自体も危ぶまれます。

「大会が開催されるかどうかを推測するのは私の担当ではありませんが、もし開催されないようなことがあれば、大会に合わせてキャンペーンを計画している企業などにとって大きな影響を与えることになると思います。しかし、各社とも、引き続き全世界の国民や消費者とのコミュニケーションを必要としています。また、日本の多くの企業も、ジャパン・スピリット、日本の精神を自社のブランドと共に打ち出したいと思っているはずです。自社のブランドが世界の視聴者を魅了し、日本の魅力を世界の舞台で示したいという思いがあるわけです。CNNは、日本のパートナー企業と協力し、各社のこうした思いや日本の精神を世界に伝えられるよう、引き続き支援していきたいと思います」

メディアもまた変容

ーー新型コロナの蔓延によって人々の生活は大きく変化しましたが、この先、メディア業界にどのような変化を引き起こすと考えますか。

「新型コロナの蔓延が深刻になるにつれて、これまでの様々な危機以上に、人々はより『ファクツ(真実)』や『科学』を重視するようになりました。より信頼に足りるかどうか、科学に裏打ちされたファクツを重視する姿勢を強めています。メディア企業は常に『信頼』や『ファクツ』を基盤にしてきましたが、かつてないほどそれが求められるようになりました。

「事業的な観点でも、我々の軸を見つめ、よりよきジャーナリズムとは何なのか、ファクツとは何か、を考える必要に迫られました」

「旅行業が大幅に落ち込み、イベントの開催中止などで高級品の売り上げも激減など、新型コロナの影響が出る中で、ビジネスのあり方をどうするか。2020年2月、私たちが拠点とするロンドンがロックダウンになる前に、社内にタスクチームを立ち上げました。データ部門や法務、財務、販売部門に加え、広告制作会社部門からも人を集め、顧客にとってCNNとは何なのか、どうあるべきなのかを話し合いました」

「その結果、我々は顧客のコンサルタントになるべきだ、CNNのようなメディア企業は以前にも増して、顧客企業や顧客のブランド価値を高めるためのコンサルティングを担うべきだという結論になりました。私たちは観光や健康など様々なファクツに基づいたコンテンツを持ち、そうしたファクツやデータからトレンドを見極め、それを元に顧客にアドバイスすることができます。また新しい産業や金融の流れもいち早く把握していますから」

ーーメディア企業は新型コロナを機に、大きく変わっていくということですか。

「私はしばしば、CNNは単なるメディア企業ではない、と言っています。データ企業であり、技術企業であり、調査会社であり、広告制作会社でもあります」

これからメディアは受け手の期待に応えられるか

ーー新型コロナは世界の産業に大きな影響を与えました。

「もちろん、影響は小さくありませんが、すべての事業が消え去ったわけではなく、新しい事業も生まれ、大きく成長している企業もあります。また、新型コロナをきっかけに生活が変わったことで、デジタル化が大きく進みました。CNNはテレビニュースだけでなく、ウェブサイトの運営者としても世界有数の存在になり、テレビとデジタルの連携も大きな可能性を生んでいます」

ーー新型コロナに加えて、オリンピックが縮小開催となれば、経済には大打撃です。

「メッセージという意味では、オリンピックは『希望』です。困難を克服し、世界をひとつにつないでいくという意味合いがあります。どんな形で大会が開かれるにせよ、日本にとって非常に重要な意味を持つ大会だと思います。オリンピックはこれまでも、様々なストーリーをうみ、英雄を生み出してきました。スポンサー企業にとっても、まさにブランド価値を磨く大きな機会です」

「今日の広告を見ると、全てのブランドには『目的』が必要になりました。何のためにそのブランドが存在するのか。顧客とブランドの間をいかに緊密につないでいくか。従来はなかった発想です。多くの消費者はファッションブランドであれ食品であれ、航空会社であれ、広告の仕方を通じて、企業の持続可能性や企業そのものを評価するようになりました。なぜなら消費者としてブランドに対して何がしらかの期待を抱くからです」

「では、オリンピックをスポンサーするブランドをどう人々は感じるのか。緊密につなぐものとは何か。人々がそこに『希望』を感じるということが重要なのです」

ーー広告業界の将来はどうなるんでしょう。新型コロナをきっかけにニュー・ノーマルという生活スタイルが定着する中で、広告のあり方や、メディア企業のあり方はどう変わるのでしょうか。

「我々は、受け手第一主義(オーディエンス・ファースト・ストラテジー)と言っていますが、メディア企業の姿勢は発信する広告主のためというよりも、受け手を第一に考えることが重要になります。受け手は広告を受け取る時に、ある種の「期待」があります。まずは、商品などのデータに対する期待で、これはどんどん重要性を増しています。さらに、その商品が持つ本当の価値とは何かを広告から知りたいという期待もあります。例えば広告のビデオを作る時にも、こうした期待にいかに応えるかが極めて重要になっていくと思います」

伝統的媒体広告にとどめ

電通の推計によると、2020年の日本の広告費総額は6兆円1594億円と、前年に比べて11%、7787億円も減少した。新型コロナウイルスの拡大による経済活動の停滞で、企業の広告出稿が激減したためとみられる。

雑誌が27.0%減、新聞が18.9%減と伝統的な媒体の広告が激減したほか、屋外広告や交通広告といった「プロモーションメディア広告費」も24.6%減った一方で、インターネット広告費は5.9%増となるなど、広告のあり方も大きく変わっている。

インターネットが広告の主流に躍り出る中で、ブラッドレイ氏の言うように、「データ」や「ファクツ」の重要性が増し、明らかに消費者が広告に求めるものが変わりつつある。一方で、インターネット上には「フェイク・ニュース」があふれるなど、何が真実かが分からない時代にも突入している。そうした中で、メディアが求められる役割も大きく変わっていくということを痛感するインタビューだった。