例外規定が届け出義務の抜け道に テンセントの楽天出資で露呈した外為法不備

SankeiBizに4月6日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

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 楽天は、日本郵政や米ウォルマートなどを引受先に第三者割当増資で総額2423億円を調達した。増資発表後になって中国ネット大手の騰訊控股(テンセント)グループからの657億円の出資分について、払込期日が遅れる可能性があると公表するなど一時混乱したが、テンセントからの出資も含め当初予定通りに完了した。

 

 テンセントからの増資が問題になったのは、日本の外為法をめぐる懸念が浮上したため。日本政府は2019年末に外為法を改正、海外企業が指定業種の企業に1%以上の出資をする場合、届け出を行うことを義務付けた。指定業種の対象は、「国の安全」や「公の秩序」「公衆の安全」「わが国経済の円滑運営」に関わる企業で、国の安全などを損なう恐れが大きい業種として「武器製造」「原子力」「電力」「通信」が挙げられている。

 もともと外為法の改正は、米国のトランプ前大統領が中国製品への関税を引き上げるなど「米中貿易戦争」が激化する中で、海外企業から日本の安全保障に関わる企業を守る「買収防衛策」を国主導で強化した側面が強い。一方、米国のファンドなどからは、投資を阻害するとの批判の声も上がった。このため、取締役の派遣など経営参加をする場合以外の「純投資」では、届け出義務を免除するという例外規定も設けられた。

 今回、テンセントは出資によって楽天の発行済み株式数の3.65%を持つが、「経営に関与しない」という一文を契約書に入れていたという。このためその例外規定に合致、届け出は不要と判断していたとされる。ところが、霞が関や政治家の一部から安全保障上問題ではと、懸念の声が上がっていた。

 昨年、テンセントが開発したアプリ「WeChat(ウィーチャット)」が米国で問題化。トランプ氏がダウンロードを禁止する大統領令を出し、連邦地裁によって執行差し止めになった。同氏はアプリを通じて個人情報が中国政府に流出する疑念があるとした。そのテンセントが、携帯電話事業を手掛ける楽天に出資するのは問題ではないか、という声が出たのだ。

 楽天がいったんテンセントの出資遅れの可能性を公表した背景には、どうも一部の省庁から楽天に、外為法の届け出を自主的にテンセントに出させた方がいい、という話が非公式に伝えられたためだったようだ。後々、今回の出資について米国が問題視してくるのではないか、という「懸念」が背景にあったという。外為法の届け出には、経済産業省財務省総務省内閣官房などが関係するが、どこの役所も公式に届け出を求めたわけではなかった。

 関係者によると、テンセント側は、関係各省と2回ほど非公式の打ち合わせを実施。テンセントが契約の内容を説明して、届け出免除に該当すると考える根拠を説明した。各省は「聞き置く」姿勢に終始、何ら質問・議論がなかったため、テンセント側の判断として、事前届け出は行わなかった、という。

 もともと10%だった届け出基準を1%に引き下げたことで、海外からの投資に大きな支障が出るといわれてきた外為法改正。企業側の対応が問題になったのは今回が事実上初のケースとみられる。

 結局、届け出の要否すら当局が明確に示さず「玉虫色」の対応に終始したことで、今後、日本企業の経営者が海外企業、特に中国企業からの出資を受け入れる際に、大きな障害になる懸念が強まったといえる。外為法の不備が露呈したと言っていいだろう。