外食チェーンの「閉店ラッシュ」で、人員削減が続くかもしれない…!  緊張弛緩、でも深刻度は最大

現代ビジネスに4月29日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/82694

ついに3度目

新型コロナウイルスの蔓延が止まらず、3度目の緊急事態宣言が発令された。2回目の緊急事態宣言は飲食店への営業時間短縮など「時短営業」が柱だったが、今回は「酒の提供自粛」が加わったことから、居酒屋などアルコールの売り上げが大きい業態にとっては死活問題になっている。

「参りましたよ。20代の時の給与に戻りました」――。都心にあるパブレストランの支配人はこうぼやく。高齢者が客層の中核だったこともあり、営業自粛が解けても売り上げ低迷が続いていた。遂に給与を引き下げざるを得なくなった。「潰れて失業することを思えば仕方ありませんが、気が抜けます」と閑散とした店舗を見回した。

時短や休業で補償が出ると言っても、個人営業ならそれで生きていけるが、従業員を雇って家賃も支払っているとなると経営はかなり厳しい。飲食チェーンなど中堅や大手にも補償が出るようになったとはいえ、焼け石に水だ。

東京商工リサーチの集計によると、居酒屋を運営する上場主要13社の飲食店舗数の合計は、2020年12月末で6136店と、1年間前の7009店に比べて873店、率にして12.5%減った。

同社では「個人経営の飲食店などに比べ、大手が展開する店舗は面積が広く、スタッフ数も多い。都心部の店舗は、ランニングコストが大きな負担になっており、店舗営業を継続するより、見切りをつけて『スクラップ』を選択しているようだ」と分析。

2021年1月の2回目の緊急事態宣言などで、「取り巻く環境は厳しさを増しており、学生や主婦などのアルバイト、パートの雇用環境の悪化だけでなく、取引先への発注量の減少、都心部の空きテナントの増加など影響はさらに広がっている」としている。

「酒禁止」の衝撃

日本フードサービス協会の調査では、外食チェーン全体の2020年の売上高は15.1%減と、1994年の統計開始以来、最大の減少率だった。

中でも「パブ・居酒屋」は売上高が49.5%減と半減した。2回目の緊急事態宣言で今年1月の「パブ・居酒屋」の売上高は74.9%も減少、2月は70.7%減にとどまった。3月は比較対象である2020年3月が新型コロナの影響を受けていたが、そこからさらに39.7%も減少した。

3月末時点のチェーン店のパブ・居酒屋業態店舗は2341店と、1年前に比べて15%減った。そこに「酒禁止」が加わったことから、3回目の緊急事態が「致命的だ」という声が少なくない。

もちろん、外食チェーンワタミが居酒屋業態店を焼肉店に改装する戦略を打ち出すなど、業態転換も進んでいる。「密」になって大声で会話しがちな居酒屋業態は、仮に新型コロナが終息したとしても、早期に客足が戻ることにはならない、との判断がある。

外食チェーンなど飲食店の経営がジワジワと追い詰められる中で、その影響が社会全体に広がりつつある。

総務省の2月の労働力調査によると、雇用者数は昨年4月から11カ月連続で減少を続けている。ところが政府が「雇用調整助成金」を企業に手厚く支給していることもあり、正規雇用は9カ月連続で増加している。

つまり、そのしわ寄せはパートやアルバイトなどの「非正規雇用」に及んでいる。パートは1年前に比べて55万人、アルバイトは33万人も減少している。産業別就業者数を見ると、圧倒的に「宿泊業・飲食サービス業」の減少が大きい。2月の同産業の就業者数は359万人と1年前に比べて46万人、11.4%も減っている。

人員削減か、店舗の閉鎖か

3回目の緊急事態宣言で経営が限界に達する飲食店や外食チェーンが出てくると、雇用に大打撃を与えることになりかねない。緊急事態宣言はとりあえず5月11日までを期限としているが、専門家の間からは11日に解除すれば、夏にかけて再度感染拡大する「第5波」が起きかねないという指摘も出ている。

一方で、年明けの2回目に比べればはるかに厳しい自粛内容になっているにもかかわらず、人の流れは目立って減っておらず、大阪や東京での新規感染者の1日の判明数も減少に転じていない。5月11日に解除できない可能性が高まっていると言える。

そうした状況で、緊急事態がさらに延長されることになれば、飲食店の経営は限界に達する見通しだ。減給で耐え忍ぶどころか、本格的な人員削減に踏み切るか、店舗の閉鎖を決断するところも出てきかねない。

ワクチンの接種が思うように進まない中で、政府は従来通りの感染予防策を国民に求めるしか術がない状態が続いている。7月に開会式を迎える東京オリンピックも海外からの一般観戦客は受け入れないことを決め、国内観客についても、無観客などの可能性が探られている。

海外からのインバウンド客がオリンピック・パラリンピックをきっかけに大幅に増えると期待されていたが、そうしたオリンピック効果も見込めない。飲食産業だけでなく、百貨店などインバウンド消費に支えられてきた小売店も先行きが厳しい。

緊急事態宣言の発出に当たって小池百合子東京都知事は「短期決戦」を呼びかけていたが、短期戦でなければ経済がもたない、という現実もある。緊急事態宣言も3回目とあって、国民の間の危機感は今ひとつ高まらないが、経済への影響という意味ではこれまでになく大きい。