中国「まさかの自滅」で、日本人にやってくる「しわ寄せ」のヤバすぎる理由  一気に高まる日本の中国依存度

現代ビジネスに10月21日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/88476

それでもプラス成長

中国の2021年7−9月期のGDP国内総生産)が発表された。物価変動を除いた実質の伸び率は、去年の同じ時期と比べてプラス4.9%となった。4−6月期は前年同期比7.9%の増加だったことから、「中国の景気減速が鮮明になった」と報じられている。

日本のメディアは高い経済成長を続けてきた中国の躓きをことさら強調する傾向が強く、遂に中国のバブルも崩壊するとの予言を繰り返してきた。今回も、不動産大手の「恒大集団」が巨額の負債を抱えて経営難に陥っていることから、バブル崩壊を語る識者も少なくない。

だが、中国経済の減速はどこまで深刻なのだろうか。中国のGDPを見る時には注意が必要だ。日本などのGDP統計では、前の4半期と比較した増減率を見て、プラスならば景気好調、マイナスならば減速と捉えるのが一般的だ。つまり、7-9月期ならば、4-6月期と比較するのだ。

これに対して、中国の統計は1年前の同じ時期と比べた増減を中心に公表する。中国の今年1-3月期のGDPは18.3%増だったが、これは前の年、2020年1-3月期と比べたもの。そう、中国武漢新型コロナウイルスが急拡大し、都市封鎖を実施した時期との比較なので、落ち込みの反動で未曾有の高い成長率となった。

一方、今回の4.9%増という伸びは、新型コロナの影響からいち早く脱していた時期との比較である。つまり、昨年5%程度の成長率に戻った水準からさらに伸びているのである。確かに、前年同期比の伸び率だけ並べれば期を追って伸び率が小さくなっているから、鈍化しているように見えるが、それでもプラス成長を続けている中国経済の底力は侮れない。前の3か月と比べたGDPの伸び率もプラス0.2%と、わずかながらにせよ、プラスが続いている。

「経済の調整圧力」

もちろん、「恒大集団」がドル建て債券の利払いができなくなるなど、中国の不動産市場が変調をきたしているのは事実だ。他にも世界的なエネルギー価格や原材料価格の高騰によって、中国企業の経営が圧迫されているのも間違いない。

中国国家統計局自身も、「世界経済の回復の鈍化や原材料価格の高騰、国内での感染の再拡大など国内外のリスクが増えて、経済に調整圧力が現れた」(付凌暉報道官)と認めている。

だからと言って、バブルの様相を呈していた中国経済が一気に破綻するかと言えば、そうではなさそうだ。「恒大集団」の経営危機にしても中国当局の規制強化が背景にある。政府がコントロールして加熱した景気の調整、バブル潰しを行っているという見方もある。

中国は日本の1980年代後半のバブル形成とその崩壊を徹底的に研究しており、日本で起きたようなバブルが一気に弾けるような危機を招かないよう慎重に政策を選んでいるとされる。

しかも、日本は民間金融機関と企業が主役の自由主義経済だったのに対して、中国は最終的にすべて国家が統制する社会主義経済体制である。国家体制の崩壊に結びつきかねないバブルの崩壊をそう簡単には引き起こすわけにはいかない事情もあるのだ。

今や中国が輸出先第1位

それでも日本の経済メディアは中国経済に暗雲が漂うと嬉々として大特集を組む。だが、そうして溜飲を下げている場合ではないのが現状だ。

どういう事か。実は、新型コロナを境に、日本経済の「中国依存度」が一気に高まっているのだ。

2020年に日本から世界への輸出は前年比11%あまり減少した。米国向けが17%減るなど新型コロナで世界経済が凍ったことが響いた。ところが、いち早く新型コロナを封じ込めた中国の立ち直りは早く、日本から中国への輸出は3%近く伸びたのである。その結果、年間で12兆6000億円ほどだった米国向け輸出を中国向けが大きく凌駕し、15兆円を超えた。日本にとって中国が最大の輸出国になったのだ。

実はリーマンショックが起きる2008年まで、日本の輸出先は米国がトップだった。ところが、リーマンショックを境に状況は一変。それ以降、米国向けと中国向けが拮抗する状態が続いてきた。そこに今回の新型コロナ・ショックがやってきたわけだ。2021年1-6月の統計を見ても、米国向け輸出が23.9%増の約7兆円に対して、中国向け輸出は27.0%増の8兆6000億円と、その差はさらに開いている。

半導体製造装置や自動車部品などの輸出が大きい。こうした部品産業は国内メーカー向けももちろんあるが、中国向け輸出のウェートが年々高まり、依存度は増している。「中国の立ち直りが早かったおかげで救われました」と長野県にある中堅自動車部品メーカーの社長は語る。

日本企業の成長を削ぐことにならないか

岸田文雄内閣は、経済政策のひとつの柱として「経済安全保障」を掲げる。米中の対立が収まらない中で、中国への戦略物資の輸出に歯止めをかけることを想定しているのではないか、と見られている。

総選挙を前に「分配」ばかりが強調される中で、これといった成長戦略の決め手もない。結局、日本メーカーは中国の巨大市場向けに部品や製品を輸出していくことでしか成長できないところに追い込まれていくだろう。

つまり、日本経済の中国依存度はますます高まっていきそうなのだ。逆に「経済安全保障」を全面に出し、中国向け輸出に政治的に歯止めをかけようとすれば、日本企業の成長を削ぐことになりかねない。

隣国の「敵失」を祈る前に、どうやって日本経済を自力で成長させていくのかを、真剣に議論することこそ、本当の「経済安全保障」ではないか。