「紙の新聞」の時代は終わったー17年連続、止まらない部数大幅減 デジタルもマネタイズの方策なく

現代ビジネスに1月13日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/91392

もう若者には新聞を読む習慣がない

新聞の凋落が止まらない。

日本新聞協会が発表した2021年10月時点の「新聞の発行部数と世帯数の推移」によると、朝夕刊セットで1部と数えた発行部数は3302万7135部と、1年前に比べて206万部、率にして5.9%減少した。日本での新聞発行部数のピークは5376万5000部を記録した1997年で、2005年に5300万部を割り込んで以降、17年連続で減少が続いている。

特に2018年以降は毎年5%を超える大幅な減少となり、2020年は7.2%も減少、直近では減少率は5.9%に鈍化したとはいえ、下げ止まる気配が見えてきたわけではない。ピークから四半世紀で2000万部減少、この10年だけで1500万部も減っており、「紙の新聞」の時代は残念ながら終わったと言っていいだろう。

筆者は千葉商科大学でメディア論などを教えているが、講義を受ける数百人の学生に「紙の新聞を読んでいるか」アンケートで聞くことにしている。大学生世代で「紙の新聞」を読んでいるのは100人中数人。同居している親がとっている新聞を読むというケースがほとんどで、自分で購読して毎日新聞を読むという学生は1人いれば良い方である。

紙ではなく、デジタル版を読んでいるのではないか、と思われるかもしれないが、これも実は少数である。その理由は購読料。新聞の購読料はだいたい月額4000円以上だから、学生が「情報対価」として払うには高い。新聞しか情報が無かった時代ならともかく、インターネットを介して情報が氾濫している現在、わざわざ新聞を購読して情報を取らなくても良い、ということになる。

30代以下の世代では、毎日、新聞を読むという「習慣」がほぼ消えていると見ていい。1世帯当たりの発行部数は2007年まで1部を超えていたが、今や0.57。新聞をとっていない世帯が半分近くになっている。今後も、宅配で新聞を購読する世帯は減り続け、新聞発行部数も減少が止まらないに違いない。

ニュースの信頼性は高いというけれども

一方で、学生アンケートには面白い結果も出てくる。情報源としての信頼性を聞くと、新聞情報の信頼度が一番高いのである。読まないけれども信頼する、という不思議な状況が存在する。Yahoo!などのネットメディアの情報の信頼度は新聞には遠く及ばない。SNS上の情報となると信頼できないと感じている人の割合の方が多くなる。

インターネットを使った様々なメディアが誕生したが、その情報の信頼性となると、まだ確立できていない。一時、伝統的メディアである新聞や、テレビ、ラジオといった「マスコミ」の情報は「偏っている」「権力に迎合している」と言われ「マスゴミ」などと批判された。だが、新しいメディアはまだ、それを上回る信頼性を獲得できていないのである。

新聞は、そうした「信頼性」をまだまだ武器にできそうだが、それでも「パッケージ」としての「紙」が滅んでいく影響は大きい。現存する最古の紙の新聞は500年ほど前のものだが、それ以来続いてきた紙というパッケージの優位性が失われる中で、マネタイズする仕組みも大きく揺らいでいる。

一覧性の高い大型の紙に印刷したものを自宅まで届けるという情報の受け手にとっての利便性は、明らかにインターネットに取って代わられた。特にスマートフォンの誕生で、いつでも携帯で情報を取得できるようになって以降、宅配新聞の優位性は音を立てて崩れた。スマホの発売された2007年以降、新聞発行部数が鶴瓶落としなのは必然と言えるだろう。

ところが、大手の新聞社は「紙」を前提にした情報提供の形にこだわった。電子版も紙の新聞のイメージをそのまま提供することから始まった。確かに従来の新聞読者を取り込むにはそれも必要だったかもしれない。しかし、スマホの画面と紙の新聞紙面の相性が合うはずはない。

新聞各社が自社のコンテンツを新しいデバイスに合わせた形で提供しようとし始めたのは、まだここ数年の話だ。逆にインターネット・デバイスに合わせた形での提供に力を入れた結果、紙の新聞の発行部数の減り方が大きくなるという事態を招いた。

デジタルでは収入の途がない

紙からデジタル化に切り替わるのだから、良いではないか、と思われるかもしれない。だが、紙の新聞がマネタイズ・モデルとして機能していた一方で、電子版の収益力は明らかに弱い。特に広告の単価の違いは歴然としている。紙の新聞ならば朝刊1ページ当たり1000万円を超える広告料を得ていたが、電子版ではそんな広告は望むべくもない。電子版ならではのマネタイズの方策を新聞各社は探っているが、実際のところ、まだまだ儲かっていない。

電子化で成功していると言われる日本経済新聞でも、過去5年間の売り上げは何とか横ばいを維持している程度。朝日新聞は2017年3月期に4000億円を超えていた連結売上高が2021年3月期には2937億円にまで減少、経常損益は5億円の赤字に転落した。新聞社は電子版で利益を上げる新しいビジネスモデルをまだ見つけ出していない。

2021年の広告費は、新聞・テレビ・雑誌・ラジオのマスコミ4媒体の合計額を、インターネット広告が初めて上回った年になったとみられる。

今後、新聞だけでなく、テレビや雑誌などを含めた伝統的なメディアが、それぞれの枠を超えて合従連衡などに進んでいくことになるだろう。NHKも放送だけでなく、インターネットを通じた番組配信などに大きく舵をきり始めている。「紙」や「電波」ではなく「インターネット」というパッケージを使って、多様なコンテンツを作っていく動きがさらに本格化するに違いない。

新聞で言えば、ネット上の電子版は単に紙の新聞をデジタル化したものではなく、動画や写真、図版などを駆使したコンテンツへと姿を変えていくだろう。そうした流れに乗っていければ、紙の新聞が滅びても、新聞社は滅びないということになるに違いない。

だが、紙の新聞があまりにも強力で完成形のメディアだっただけに、その優位性信仰を捨てきれないところは、紙と共に滅びる道を歩むことになりそうだ。